第六章 未知の 文字の パズルゲーム
第32話 兄弟
「正直、悪い話じゃないと思う」
歴史書の解読。王から出された課題について、皆に説明した後、リョウはそう続けた。
「オレたちはこの二ヶ月間、あの村に通ってこの世界の言葉を覚え始めた。二ヶ月間で簡単な日常会話程度なら習得することができた」
皆、だまってリーダーの話を聞いている。
「けど、最近感じてないか? 今のままで、これ以上先にいくのは難しいって」
「……そうだな」
リョウの言葉に応えたのは、アキラ兄さんこと、青木アキラだ。里の転生者たちの中でも最年長で、リーダーのリョウも兄貴分と慕う、オレたちの大黒柱的存在。あの山に最初に住みつき始めたのがこの人らしい。
「ここしばらく、ゲンの辞典に追加される言葉が減ってきている。村の人達との会話に不自由はしなくなってきたけど、その分新しい発見も少なくなってるんだ」
確かに……と皆が相槌を打つ。
「まぁ当然っちゃ当然だよな、周囲を山に囲まれた小さな平野。ペタフ畑と、近くの山での狩りがすべての村だ。おまけに街へ続く道は、長雨でずっと通行止め。そこで得られる知識なんて、はっきり言ってたかが知れてる」
「やっぱ、兄さんもそう思ってたか」
「ああ、実は密かに考えていたんだ。この世界の本を一冊でも入手できたら、覚えられる言葉は一気に増えるのにってな」
そう言いながらアキラ兄さんは、俺がテーブルの上に置いた本に視線を落とした。
「それが、ここにある」
俺は、その表紙を開く。タイトルらしき大きな文字の羅列、その下に数行に渡って小さい文字の羅列が続く。一文字一文字は、2~4画程度の単純な線の組み合わせで、漢字のような複雑さはない。けど、当然ながら何を意味している文字なのかは全く想像がつかなかった。
「とはいえ、楽な道じゃあないっすよ」
ハルマが言う。
「俺達の世界にも、別の国、別の時代の文字を解読した人はたくさんいますけど、その人達はみな何年、何十年って時間をかけてきたんだ。けど俺たちに用意された時間は半年……」
「しかもノーヒントですからね…… せめて何か手がかりとなるものがあれば良いんですけど」
アツシは腕を組んで、ため息まじりに言った。
『それについて、我が父から仰せつかっています』
全員の頭の中に日本語が響く。皆、一斉に部屋の入口を見た。
『失礼。父に〈自動翻訳〉スキルをかけていただきました。皆様の手伝いをするようにと……』
そう言って頭を下げたのは、サスルポの巣に囚えられていたあの子だった。確か名前は、フェントだったか。
『父は皆様に、図書館の利用を許しました。文学、哲学、魔法学、数学……あらゆる知識が納められた、我々の聖域です。きっと、かの書の解読のための力となるでしょう』
「気持ちは嬉しいけど……結局はオレたちの知らない文字で書かれてるんだろ? それって意味あるのか?」
「いや、複数の本の文字の並びに共通点が見つかれば、そこに書かれていることを推測できると思います。図書館の本はすべてヒントになりえますよ!」
ハルマが言う。コイツがさっき話した、俺達の世界で未知の言葉に挑んだ偉人も、そうやって解き明かしていったのだろうか……?
「この方を村へお送りしたら、図書館へご案内します。それまでしばらくお待ち下さい」
フェントの後ろには、キンダーが立っていた。オレたちの方を見て頭を下げる。転生者嫌いの門番がやったのは、オレたち日本から来た転生者が無意識にやってしまう挨拶の仕草。
「おれも てつだうと いった けど おうは それを きょぜつした」
キンダーは申し訳無さそうに言う。
「しかたない このせかいの にんげんが いたら かんたんに かいどく できる これは おれたちに あたえられた かだいだ」
「すまない
思いがけない言葉が飛び出した。タカフ……直訳すれば『兄弟』だ。それは、この世界の人間が友人に親しみを込めて使う、最大級の親愛の呼びかけだった。
「おれを
「おまえは センディを たすけた それにいま むらを たすけようとしている」
両目の中間あたりがうずいた。涙腺が刺激され、下のまぶたに涙がたまるのがわかる。
「ありがとう…… まかせてくれ かならず ませきを もってかえる!」
そうだ。この解読には、魔石の原石がかかっている。楽な道じゃない、そんな事はわかってる。でも……村を助けるためだ。なんとしてもやり遂げるんだ!
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