第6話 葉月の母編
娘の葉月は、素直で明るい女の子だったの。
隣の家に住んでいる同い年の男の子、緑田幸一君が最初にできた友達。
こうちゃんって言って、すぐに仲良くなったわ。
一緒に幼稚園で遊んで、小学校、中学校、高校も一緒のクラスになったの。
男の子も女の子もいっぱい友達がいたわ。
でも葉月は、絶対にこうちゃんの事が好きよね。
親の私は、分かっていたわ。
葉月は、このままこうちゃんといつか結婚して……
子供が出来て、私には可愛い孫ができて……
それで孫と遊ぶの。
孫が小学校に上がった時には、私はランドセル買ってあげるの。
そんな風に歳を取っていくんだろうな。
私はそう思っていた。
ある日の朝、部屋から出てこない葉月を起こしに行ったの。
そうしたら調子悪いって言うから、熱を測ったら熱があったの。
学校を休ませる事にしたわ。
でも熱が全然下がらないから、大きな病院で診てもらおうって思ったの。
木下大学病院に連れて行ったら入院する事になったわ。
でも高熱の原因は、全くわからなかった。
細菌に感染している訳でもないし……。
毎日、葉月を家に迎えに来てくれるこうちゃんに伝えると、お見舞いに行ってもいい?って言ってくれたの。
この子は優しい男の子。
昔から知ってるわ。
葉月の病室に足を運んだら、こうちゃんが来てくれてた話を葉月から聞いたわ。
話し相手になってくれたり、漫画を持ってきてくれたり。
葉月の熱が下がらないのが不安で仕方なかったんだけど、こうちゃんも支えてくれてる。
だから……
なんとか踏ん張るのよ。葉月。
ある日、外で家の庭を掃除してたら、葉月と同じ年くらいの女の子が家に来たの。
「白石葉月ちゃんのお母さんですか?」
「あら、葉月のお友達?」
「葉月ちゃんの高熱には原因があるんです。治す方法もあって。長い話になるんですけど」
葉月の高熱の原因って?
この子は何か事情を知っているのかしら?
「中に上がってくれる?お茶を入れるわね」
私は女の子を家に入れたの。
名前は、ソフィアさんって言うみたい。
そこから始まった話は、ソフィアさんは、アルファ星からやってきた宇宙人だというところから。
冗談言うのが好きな子なのかなと思ったんだけど……。
えーっと、名前忘れちゃったわ。
マ……?マクラ……?だったかしら?
歳を取ってくると、すぐ物忘れしちゃうのよね。
嫌だわ、私もおばさんになったわね。
ソフィアさんは、目の前で私の姿に変身したわ。
好きな姿に変身できるっていうアルファ星の道具を見せてくれたの。
もう一つは、瞬間移動ができる道具を見せてくれたわ。
ム……?ミ……?そう!!ミステリー!!
……あら?ミステラだったかしら?
おばちゃんは、カタカナに弱いのよ。
一瞬で町外れの森の中に移動したの。
そこで隠していた乗ってきたという宇宙船も見せてくれたの。
見た事ない不思議な形をしていたわ。
それでまた家のリビングに戻ってきたの。
この子が宇宙人だっていう話は、本当みたい。
そこからアルファ星で戦争があって……
葉月がアルファ星人の遺伝子を体に持つ子だった事を教えてもらったの。
治すには、地球適応体手術をしてアルファ星に10年いなくちゃならない。
だから医者でも分からない原因不明の高熱だったのね。
私は頭を抱え込んだ。
ソフィアさんは、葉月に会いに行くと言ったわ。
私も一緒に来てと言われたの。
でも私は、自分の心の整理がつかなかった。
少し考えたい。
ソフィアさんに後から必ず行くからと伝えて、先に行ってもらった。
葉月がアルファ星人……。
あの子は私が生んだの。
私が生んで16年間、育ててきたの。
私譲りの性格で、誰にでも明るくて良い子。
私の自慢の娘。
誰よりも近くで見ていたはずなのに……。
葉月に罪はないわよね。
あの子は何も悪いことをしていないじゃない。
悪いのは、マリアというアルファ星人の女ね。
全部マリアという女のせいで……
私も葉月も深く傷ついた。
許せないわ。
でも……
アルファ星に行かないと葉月は助からない。
十年も会えない……。
どうすればいいの……。
私は、自分の無力さに久しぶりに泣いた。
しばらく泣いたら、少し落ち着いてきたわ。
ダメよ。
私がしっかりしなくちゃダメ。
だって私が母親なんだもの。
葉月をしっかり支えてあげなくちゃ。
私にも出来る事があるはずよ。
顔を両手で叩いて気合を入れる。
「よしっ」
いつものように明るく振舞おう。
十年くらいどうしたのよ。
宇宙旅行なんてなかなかできる経験じゃないわよ。
ハリウッドスターみたいね。
かっこいいじゃない。
そう言ってあげるの。
私は病院に向かった。
中に入ると、葉月とこうちゃんがいたわ。
それからソフィアさんと知らない男の人がいたわ。
この男の人が、ソフィアさんと来たっていうアルファ星人の人ね。
「お母さん!!」
「葉月。事情は全部ソフィアさんから聞いたよ。お母さん驚いちゃった。これしか葉月を治せる方法がないんだね」
「うん……」
「大丈夫よ。十年くらい。宇宙旅行のつもりで行ってきなさい。なかなかできる経験じゃないわよ。宇宙旅行なんてハリウッドスターみたいね。かっこいいわよ」
「あはは……」
「うちの事とか学校の事とかは何も心配しなくていいから、全部お母さんに任せておきなさい。あんたは体をしっかり治してくるの。それが一番大事な事よ」
「……ありがとう。お母さん」
私はこうちゃんを見た。
「こうちゃんがここにいるって事は、こうちゃんも事情は知ってるんだね?」
「うん、全部聞いたよ」
ああ……。
やっぱり聞いたんだね。
この子は、いつも葉月のそばにいてくれる。
こうちゃんになら安心して葉月を任せられる。
少ない時間、後は二人で過ごさせてあげなくちゃね。
「こうちゃん。葉月のお見送りお願いね」
「おばちゃんは?葉月の見送りいいの?」
「いいんだよ、行って来て。葉月の事よろしくね」
気を遣う私に感謝しなさいよという意味を込めて……
「おばちゃんだって空気ぐらい読めるわよ」
と、こうちゃんの耳元で伝えた。
そしたら皆でマクラを使って行っちゃったの。
私は、こうちゃんの幸一って名前、とても良いって思ってるわ。
だって……
”一番幸せ”って意味でしょう?
ずっと葉月のそばにいて一緒に過ごしてきた子なんだから……。
だからあの子に任せてみたいって思ったの。
よろしくね。こうちゃん。
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