第15話 釣りデート

それから数日が経ち、加奈と次のデートで何するか決める為にメッセージを送った。


「水族館でイワシを見た時にさ、ピンときたんだけど」

「うんうん」

「加奈は釣りしたことある?」

「釣りはしたことないよ」

「やってみる?」

「えっ?智也君、釣りなんて出来るの?」

「うん。父さんが釣り好きでさ。小さい頃、よく連れて行ってもらってたんだ」

「へぇー!!でもやってみたいかも!!」

「よし、じゃあ次は釣りしようよ。汚れても良いような格好で来てね」

「うん!!わかった」


それから一週間が経った。今日は加奈と釣りデートをする日だ。

俺は車に釣り道具を積み込んで加奈を迎えに行った。


「お待たせ。それじゃ行こうか」

「うん」


加奈を車の助手席に乗せて車を走らせる。

加奈の格好は、釣りで服が汚れないようにとジャージだった。


「なんか加奈のジャージ姿も新鮮でいいな。たまにはそういうのもいいかも」

「えー、やだよー」

「あははは。まあ動きやすい格好で来てって言ったからね」

「私、釣りとか初めてだなぁ。私にできるかな?」

「できるよ。今日やるのは簡単な釣りだからね」

「お母さんにいっぱい釣ってくるよって言っちゃった」

「そうなんだ。そりゃ頑張らないとね」

「うん。でも意外だな。智也君って完全なインドア派だと思ったのに釣りなんて出来るんだ」

「まあたまには、アウトドアな遊びも良いかなと思ってさ」

「確かに初めての経験だから楽しみだよ」


車をしばらく走らせていると、海が見えてきた。


「あー、海見えてきたー」

「うん。もうすぐ着くよ」

「砂浜から釣るの?」

「いや、防波堤からだよ。砂浜から釣ればキスとか釣れるけど、今日は防波堤だね」

「へぇー、キスも釣れるんだ」

「今日はね、サビキ釣りっていう釣り方をするよ」

「うんうん」

「アジ、イワシ、サバなんかの青物を狙うファミリーフィッシングだよ。初心者でも簡単に釣れるんだ」

「へぇー、アジかぁ。私、アジのお刺身好きなんだー」

「じゃあ沢山釣って、アジの刺身が出来るといいね」

「よーし、頑張ろう」


防波堤のところに車を停めて、車から降りる。

そして車から釣り道具を出して準備する。

竿を出して針をつけて餌カゴを付けて、サビキ釣りの仕掛けを作る。

それから赤アミのブロックを溶かし、餌を用意する。


「加奈は、ゴカイとか触れないでしょ?」

「ゴカイ?」

「まあ一応持ってきたんだけど……」


ゴカイが入った箱を加奈に見せる。

箱の中では、うにょうにょとゴカイが動きまわっている。


「いやぁああああ!!無理無理!!そんなの触れない!!」

「あはは。大丈夫。これは俺が使う用。加奈は、こっちの赤アミの餌だけ使えばいいから」

「赤アミ……。これは……何?ん?エビなの?」

「うん。そう。エビだよ」

「それなら大丈夫」

「まずは、こうやって下に付いてるカゴに赤アミの餌を入れる」

「うんうん」

「それからすぐ真下に落とす」


チャポンッと仕掛けが落ちていった。


「で、それから竿を上にピュッと持ち上げてしゃくる。そしたらカゴから餌が出てくる。見えてる?」

「うん。餌が出て来たね。見える。……あっ!!魚寄ってきた!!」

「そう。後は、待ってたら勝手に針にかかるよ。……ほら、きた!!」


竿を持つ手にブルブルと軽い手応えがあり、引き上げた。


「ほら、アジが釣れた」

「わー!凄い!!こんなに簡単に釣れるんだね!!」

「それじゃ、加奈もやってみようか」

「うん。やってみる」


加奈も俺がやったとおり、見た通りに餌を入れて手前に落とし込む。

するとすぐにアジが釣れた。


「釣れた―!!人生、初めての魚釣り!!こんなに簡単に釣れた!!」

「おめでとうー!!」

「智也君、アジ取ってー。生きてるの怖いよー」

「ええっ?触れない?」

「うん。ちょっと抵抗がある……」

「わかったよ」


加奈が釣り上げたアジを針から外して、クーラーボックスの中に入れる。


「それじゃ、俺の竿は少し大物を狙おうかな」


俺はゴカイを付けて遠くへ投げた。


「おお!!凄い飛んだ!!」

「後はかかるまでしばらく待つ。加奈は手前でアジ釣ってていいよ。釣れたら外してあげるから」

「うん」


そして加奈が次から次へとアジを釣り上げる。

その度、俺は加奈が釣ったアジを針から外す。


「凄い!!また連れた!!いっぱい釣れるね!!」

「楽しいでしょ?」

「うん!!面白い!!こんなに簡単に釣れるんだー!!」


しばらくすると、俺の竿に当たりがきた。


「おおっ!?来たぞ!!……うわっ!!お、重いぞ!!」

「えっ!?大物!?」


しかし巻いている途中で、重すぎてプツンッと糸が切れてしまった。


「ああああ!!あちゃー、切れちゃった」

「ああー、おしかったねー」


仕掛けをやり直して、また再びゴカイを付けて遠投する。

そして獲物がかかるのを待ちながら、加奈が釣り上げるアジを針から外す事を繰り返す。


「あっ!!釣れた。……あれ?これは?」

「イワシだなー。イワシが寄って来たんだ」

「水族館にめっちゃいたやつだ!!」


アジだけではなく、イワシも寄ってきた。


「加奈。ちょっと糸を一番底まで落として釣ってみて」

「一番底まで?うん、わかった」


そして待っていると、加奈の持つ竿先が曲がった。


「あっ、またかかった。アジかなぁ。……あれ?違う。これって?」

「これはカサゴだよ」

「おおー、カサゴ!!唐揚げにしたら美味しいよね」

「そうだね」

「そっかぁ。糸の位置を変える事で釣れる魚が違う時があるんだ」

「うん。底物だとタイとかも釣れるかも」

「おおー、高級魚。でも私、アジのお刺身食べたいからアジが良い!!」

「じゃあ上の見えるところでいいね」

「よーし、いっぱい釣るよ」


俺の大物狙いの竿には、それからは何もかからなかった。


「うーん、こっちの大物狙いは全然ヒットしないなぁ。最初だけだ」

「智也君もアジ釣る?」

「アジ釣るのは、加奈に任せるよ。俺は加奈のアジを針から外しながら大物を待つよ」

「そっかぁ。なんか外してもらってばかりでごめんね」

「いや、いいよ。やっぱりスーパーで売ってる死んだ魚を触るのと違うから抵抗あるよね」

「うん。ちょっとね。死んでたら大丈夫なんだけど」


それから餌の赤アミがなくなるまで、アジが釣れ続けた。

そしてかなり釣ったところで餌もなくなったので終わる事にした。


「あっ、餌なくなったね。終わり?」

「うん。終わり。いやー、上出来だよ。いっぱい釣れたね」

「やったぁ。これ持って帰ったらお母さん喜ぶよ」

「加奈が釣ったんだよって自慢できるね」

「うん。自慢する」


結局、俺の大物狙いは、何も釣れずに終わった。

大物を釣って加奈に良いところを見せたかったけど残念だ。

まあ自然相手の出来事だから、そうそう上手くはいかないみたいだ。


「よし、じゃあ片付けて帰ろうか」

「うん」


片付けをして車に乗り込んだ。

夕方の時間帯になってきて、辺りは少し薄暗くなってきた。


「何を狙うかによって夜釣りにしたり、早朝に行ったり時間帯を変えてみたりとか色々あるんだよ」

「夜は何が釣れるの?」

「うーん、イカとか釣った事あるよ」

「へぇー!!イカも釣れるんだー」

「あの時はさ、イカに思いっきり墨を吐かれて服が真っ黒に汚れちゃったんだ」

「ああー、そっかぁ。墨吐かれる事もあるんだね。釣ったイカは食べたの?」

「うん。刺身にして食べたよ」

「うわぁ!!いいなぁ」

「自分で釣った魚を食べると、また格別に美味しいんだよ。加奈も今日釣ったアジを食べたらその気持ちが分かると思う」

「楽しみだなぁ」


そして加奈の家の前に車を停める。


「それじゃ、今日はありがとう。初めての釣り楽しかったよ」

「うん。俺も久しぶりに釣りして楽しかった」

「また連れて行ってね」

「うん。また行こう」


加奈は、車から降りてからも車が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。

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