第822話 目的地到着!

 少々より道をしたせいで、昼前にはつくはずだった葡萄畑には、日が沈みかけているころについた。



「だいぶ、遅くなりましたね……今日は、もう、葡萄畑を見るのは難しいかと……」



 沈んでいく夕日を見ながら義父に声をかけると、楽しかったと笑いかけられた。



「そうですか?それならよかった!レオも疲れてない?」

「大丈夫ですよ。アンナ様。領地をこんなにゆっくり見て回るのは初めてだったから、楽しかったです!」

「そう?ウィルに連れてきてもらったことは?」

「ないです。父様と二人で出かけると、ミアの機嫌が悪くなるので遠出は初めてです」

「そっか。じゃあ、レオも視察があるときは、これから一緒に出かける?」

「……魅力的なお誘いですが、父様が、アンジェラ様がもう少し大きくなってアンナ様と領地を巡るときについて回るよう考えてくれているようなので、それまでは……」

「今日は、魅力的なお誘いに抗えなかったってことかしら?」



 ふふっとレオに笑いかけると、ジョージアたちもレオを見つめ温かく微笑んでいた。



「未来のアンジーの護衛は、もう、ここに予約済みって感じだね?アンナは、知っているんだろ?」

「ジョージア様……未来は知っていますよ!アンジェラがどんな人を選ぶのかかも!」

「えっ?それは、聞きずてならないんだけど?誰だい?」

「いうわけがないですけど?アンジェラには、アンジェラが望む人を側にいてほしいですからね!それが、一国の王子なのか、どこかの貴族なのか、はたまた平民なのか……」

「平民は厳しい道のりだぞ?」

「そうですね。レオも伯爵の養子ではあるけど、一代限りの貴族位であるウィルの養子だから、身分は平民なのよね」



 頭をクシャッと撫でると、目を細める。



「母様に聞いたことがあります。父様と僕らのことは。貴族位の子ではあるけど、身分は平民だと。父様は、こうも言っていました。父様の庇護下にあるうちに貴族の友人を作れと。あと、学園卒業後は近衛に入って手柄を掴む様にと。それが、僕のためでもあるし、アンジェラ様のためでもあると」

「そう。アンジェラのためでもあるの。勉強もだし武術や剣術、礼儀作法に至るところまで、貴族であろうとしなさい。レオの努力は、必ず報われるから!私もそのためには、手を貸すって約束もあるし!レオもミアも私の大事な子だもの」

「……アンナさん?」

「なんですか?」

「子どもが増えてる……」

「いいではないですか?子ども好きですよ!」

「アンナの場合、アンナと一緒に遊んでくれる子を求めている気がするんだけど?」

「そんなことないですよ!もぅ!」



 膨れっ面をジョージアへ向けると、突然の笑い声に振り向いた。



「……父上」

「……お義父様」

「……いや、悪かったね。いつも、そんな感じなのかい?」

「違いますよ!」



 私が否定した側から、レオ、リリー、アデルがため息とともにそうですと肯定してしまう。そんな様子もおかしいのか、義父は本当に楽しそうに笑っている。



「父上をこんなに笑わせるのは、アンナくらいのもんだ」

「はぁ……笑った。本当、アンナリーゼには驚かされたり笑わされたり、一瞬たりとも気が抜けない。あのジョージアがねぇ?」

「えっ?俺ですか?」

「あぁ、そうだ。アンナリーゼをからかっているなんて思いもよらない。ディルには仲がいいとは聞いていたが……ここまで打ち解けているのか」



 クスクスと笑う義父を私とジョージアは顔を合わせる。いつものこと過ぎてわからないが、義父母にとっては珍しい出来事なのだろう。



「今日、泊まる宿へ向かいましょうか?といっても、ユービスの家なんですが……」

「ユービスっていうと?」

「アンバー公爵家のお抱え商人です。今は、一線を退き、ハニーアンバー店を手伝ってくれたり、領地運営のことで相談にのってくれたりしてくれています。ここらへ来るときは、いつも泊まらせてもらっています」

「領民の家に泊まるなんて……」

「……お嫌ですか?」

「なんだか、わくわくするよ!そんなこと、1回もないからね!」

「そうでしたか。なんだか、申し訳ないような……」

「そうじゃないんだよ、アンナリーゼ。アンバー領には、長らく貴族が住んでいないことは知っている。それに、いたとしても下級貴族だ。ここより立派な家がこの地域あるとは、考えられない。宿屋があっても、貴族向けではないということなのだろう?」



 義父に見抜かれ、苦笑いをした。まさに、貴族がいない領地では、貴族を迎え入れることは難しい。

 もし、誰か貴族が来た場合は、領地の屋敷へ泊まってもらうことになっている。将来的には、ウィルやセバス、ナタリーが屋敷を構えてくれるだろうが、当分先の話だ。

 アンバー領が整いつつある今、次は、貴族を領地に迎え入れるための準備をすることになるだろう。宿屋とか食事処とか……考えなくてはいけないこともたくさんある。貴族が住む区画の整備とかも必要だった。



「お義父様はよく気付かれましたね。まだ、そこまでは、整備の手がまわりません。区画整備の話などはすでに進んでいますし、ウィルたちも拠点として屋敷を構えてくれる約束もしてくれているので、もう少し先にはなりますが、貴族を迎え入れられる領地となりたい願ってはいます」



 そうかという義父の顔は嬉しそうだ。活気を取り戻したアンバー領やその未来を楽しみにしてくれているのだろう。



「まずは、領地特産の葡萄酒を堪能していただきたいです!」



 葡萄酒の話をしながらユービスの屋敷へ向かへば、出迎えにユービスが出てきてくれた。お待ちしていましたというユービスに案内され、今日の宿へと落ち着いたのである。

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