第819話 どこに向かいますか?
久々の領地の視察。レナンテに跨り手綱を握る。後ろにはレオがいて、ギュっと抱きしめられていた。
「なんだか、羨ましいなぁ……本来なら、俺の場所じゃない?」
レオを見ながら、少々不満そうにジョージアが零した。そんな様子を見て、義父は苦笑いをしながら、されど、何年経っても仲がいいと冷やかしてくる。
護衛としてアデルとリリーがついてきていたが、二人ともなんとも言えない顔を見合わせていた。
「ジョージア様とこうして出かけるのは、初めてですか?馬で遠出って滅多にしないですものね?」
「……そうだね。その役目は、俺じゃなくて、たいていがウィルだからね。まぁ、アンナと同じ速さで馬を駆れるのは、ウィルくらいじゃないといないだろうからね?」
「あっ、私はいけますよ?」
アデルが割って入ってきたことに、ジョージアはムッとする。近衛であるアデルは、馬の扱いもうまい。ちなみに、口を閉ざしているが、リリーも普通に私と張り合えるくらい、遠駆けはお手の物だ。ここで、口を開かなかったのは、ジョージアのやきもちをもらわないようにするためだと、逸らした視線でわかった。アデルは、あまり、このあたりをまだわかっていないようなので、ジョージアが何か言おうとしたところで、私はジョージアに声をかけた。
「今日は、何処に向かう予定ですか?お義父様はどこに行きたいですか?」
私の質問にいち早く答えたのが義父であった。ジョージアは、アデルに何か言おうとしていたので少し遅れたが、アデルは難を逃れたようだ。
「アンナ、今日は葡萄畑と酒を作っているところへ行ってみたい」
「葡萄畑ですね。収穫には、まだ、早いですが、今だと虫がつかないようにと保護を始めているかもしれません」
「そんなことをするのかい?」
「えぇ、甘い葡萄には、どうしても虫たちが集まるので。渋いものは、大丈夫なのですが……いろいろな病気対策もありますから!」
私はレナンテを先頭にし、義父と並んで馬を歩かせる。今日は一泊の予定を考えていて、急いでいるわけではないので、のんびりとしたものだ。
イチアが行ってきてもいいと許可をくれたので、私は義父とゆっくり話ができそうであった。
「アンアンリーゼ」
「はい、なんでしょうか?」
「ここ数日、ジョージアについてあちこちと回ってきたが、私が領地を治めていたときにはなかったものが、たくさんあるように思う。実際にあったんだが……どういう意図があるんだい?」
「意図も何も、領民の生活が豊かになりそうなことなら、片っ端から手をつけて見ています」
「例えば、この石畳の街道だったり、この前見に行った水車だったり……目には見えていないが、治水も始めているとセバスチャンから聞いた」
「石畳の下に下水が通る道があります。近くに大きなため池があって、そこに溜まるよう出来ていますよ」
「下水を貯めるだなんて……それは、とても不衛生ではないか?」
「うーん、そうなんですけど……そこは、ちょっとした工夫がありまして……見に行かれますか?」
「下水であろう?汚いのであろう?」
「……確かに。貴族が好き好んで行く場所ではありませんね。私は、何回か視察に行っていますけど……お義父様が考えているよりかは、臭いも少ないですし、綺麗だと思いますよ?肥溜めとか、そういう想像をしていらっしゃるなら、ビックリされると思います」
私の話に興味を持ったのか、心揺れているようだった。一押ししてみようかしら?と思い、ヨハンの助手が研究しているものの話をした。
「私も聞いた話なのですけど……この領地の奥にヨハン教授へ与えた土地があります。研究所として構えているのですが、そこの近くに地底湖がありまして……」
「ジョージアから報告をもらったものかな?海に繋がっていたというのは、知らなかったが」
「そうです!まさに、その場所なのですが……そこで、発見されたものを使って、下水の処理をして自然に返しているのですよ!」
「ほう、それは……おもしろそうだ」
「ここからなら、馬で一時間ほどのところに処理場がありますから、向かいますか?」
「アンナ!」
「どうかしましたか?」
「父上にそのような……」
「もしかしなくても、ジョージアも行ったことがないというわけか?それほど、近い場所にあるのに、一度もその話は出なかった」
「……行ったことは、ありませんよ。汚水処理をしているところなど……」
そうかと一言呟いて、義父は考えているようだ。チラリと私を見て、ひとつ頷いた。これは、興味を持ったのだろうことはわかる。
「アンナリーゼ、ぜひ、そこへ連れていってくれ」
「よろこんで!と言いたいところですが、本当に綺麗な場所ではありませんよ?臭いも、通常のよりかはという程度ですし」
「それでも、見てみたいと思う。治水工事は、飲料水や農業工業用水を整備することはあっても、下水の整備をしているところは少ないからな」
義父は、私に案内をするようにいい、馬の行く先を変更した。1時間と言ったが、それほどここからならかからない。アンバー領の新しい試みを義父にも見てもらいたいと、私は心躍るのである。
さて、どんな評価をしてくれるのだろうか。とても楽しみでならなかった。
もし、悪い評価であったとしても、領地のためになると判断してしていることを、ひっくり返すつもりはないがと心の中で呟き、義父へ説明をしながら、目的地へと馬を歩かせた。
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