第812話 義母の付き添い

「アンナリーゼ様、本日はこちらでよろしかったですか?」



 リアンが用意してくれたドレスを見て頷いた。黒に近い濃紺のドレスに袖を通す。光沢もないので、室内で見れば黒く見え、控えめなものであった。いつもの華々しいドレスとは全く違い、たまたま部屋に入ってきたアンジェラが顔を顰めている。



「アンジェラ様もアンナリーゼ様のドレスがいつもと違うことに思うところがあるのですね?」



 アンジェラの後ろからエマがついてきており、こちらも驚いてはいた。ただ、喪服に近いそれをみれば、さっしはついたようだ。デリアの後継にと育てられているだけのことはある。



「ママ、かわい?」

「こういうものも着ることがあるわよ。アンジェラの前では、滅多にないけど。大きくなったら、アンジェラも着ることになると思うわ」

「アンも?」

「えぇ、いつか、こういうドレスも作りましょうね」



 わけもわからず、頷くアンジェラ。ドレスをギュっと握って見上げてくるので、抱き上げた。



「お義母様の用意が出来たら、向かいましょう。アンジェラはお留守番よ!」

「やだ!一緒に行く!」

「今日は、ミアと遊ぶのでしょ?」

「ママと遊ぶ!」

「……ママは、お仕事にいくのだけど、一緒に行くの?」

「お仕事は邪魔しちゃダメ……」

「いい子ね!リアンに美味しいお菓子を用意してもらうようにするわね!」

「お菓子?」

「そうよ!生クリームがある方がいいかしら?」



 生クリームと聞いて両手を頬に添えた。生クリームは、アンジェラも目がないものだ。嬉しそうにしている姿を見ればかわいいなぁ頭を撫でた。



「リアン、アンジェラのおやつは、お願いね!」

「かしこまりました。アンジェラ様、おやつの時間を楽しみにしていてくださいね!」



 リアンに元気よく返事をしたところで、義母の準備が出来たと呼びに来てくれた。



「では、行きますか。あれからもあってはいるもの……久しぶりに緊張するわ」



 ため息を漏らしたら、アンジェラが抱きついて見上げてくる。アンジェラなりに気を使ってくれているのだろう。

 性格は、私似なので、飛び跳ねたりしているわけだが、ジョージアと一緒にいるおかげもあって、とても優しい子に育った。



 アンジェラを抱きかかえたまま、玄関まで向かうと、義母が馬車に乗って待っていてくれた。



「あら、アンジェラも一緒に行くの?」

「いえ、私の部屋に来たのでお見送りしてもらおうかと……リアン、あと、よろしくね?」

「はい、アンジェラ様、お手を」



 すると、ギュっとリアンの手を握ったので、私は下に下ろす。大きくなったアンジェラは、抱きかかえるのも一苦労と言うほどになっている



「じゃあ、いいこにお留守番していてね!」

「わかった!」



 ニコッと送り出してくれるので、行ってきますと手を振る。馬車に乗り込むと、義母と二人、静かになる。馬車はゆっくり進み、目的の場所へ向かう。



「今日、向かうのはサラおばさんの家に向かいます」

「そこが、カルアの生家かしら?」

「えぇ、そうですね。元々サラおばさんは、領地改革を決心した少し前に出会った方でした。とても豪快に笑うサラおばさんが大好きです。まさか、カルアの家族だったとは、つゆにも思わなかったのです」

「たしか、お骨にしたのよね?カルアは」

「えぇ、家族の元へ帰れるようにとせめてと思い、遺骨を渡しました。遺骨を渡しにいったとき以来も交流はあります。このあたり全部を仕切ってくれている関係上、どうしても関わることが多い人物となっています」



 そうと言ったあと、一言も話さなくなった。きっと、カルアのことを思い出しているのだろうと思うと、何も言えなくなる。

 私より、カルアとの時間は義母にとって、長い年月のうちに交流があったのだろう。とても気が利く、いい侍女であった。義母が残念がっていたことは知っているので、静かにしていた。



「カルアは、本当にいい子だったと思うわ。ただ、心は弱かったのね。ダドリー男爵なんかに騙されて……それがあの子の命運だった。こんなことを言っても仕方がないけど……アンナリーゼが少しでも領地運営をしてくれていたら……もしかしたら、救えたのかもしれないわね」

「お義母様」

「ごめんなさい。アンナリーゼがしたことに口出しするつもりはないの。アンバー領についたダニの処置は、本当は私たちがしないといけなかったのですもの。アンナリーゼの手を煩わせてしまったこと、本当に申し訳なく思っているの」

「いえ、そんなこと……もうすぐ、つきますから準備ください」



 馬の歩みがゆっくりとなった。もうつくのだろう。



「お義母様、少しだけサラおばさんの家につくまで歩きになりまいます」

「かまいませんよ!少しくらいなら」



 そういって馬車を降りたとき、サラおばさんとその旦那さんと弟が私たちを待ってくれた。



「あの、今日、来ていただいてありがとうございます」

「いいよ!うちのボロに前公爵夫人がこられるならと、迎えに来ただけだよ!」



 そういって、豪快に笑うサラおばさん。自宅まで案内をしてもらい、いよいよ、カルアに対面だと、義母はきをひきしめていた。

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