第801話 ジョージアとこれから

 私たちは、ジョージのことを義両親に指摘されていく。



「今は、ジョージは小さいから、守ってくれるアンナリーゼに懐いているでしょう。でも、いずれ、ソフィアとの確執や祖父ダドリー男爵とのことを知ったときのことは、考えていかなくてはいけません。そのときは、アンナリーゼを守るのはジョージア、そなたの役目ですよ?」

「心優しいところは、ジョージアの美徳ではあるけど……守るべきものは誰なのかは、常に考えておきなさい。

 アンナリーゼは、ジョージを含め、子どもたちを愛しんでくれているが、ジョージアが本当に心を割くべき相手を見誤って手放さないといけなくならないよう、もっと気をつけなさい」

「……はい。心に留め置きます。アンナがいてくれることが、1番の幸せ。俺だけでなく、領地が、領民がアンナを心から必要とし愛しています。アンナに庇われてきたここ数年ですが、少しずつアンナの隣に立っても恥ずかしくないよう努めます」

「あぁ、決してアンナリーゼを失うことなく、家族を領地を守ってくれ」



 ジョージのことは、きっかけにすぎないという義両親。今回の訪問は、孫たちに会いたいというものの、ジョージアが貴族として成長しているのかの確認もあったという。

 私があれこれと先に領地へ手を加えていくので、後追いでもいいからジョージアも私に並ぶように成長をしてほしいと親らしい願いも籠っていたようだ。



「それにしても、ここに来るまで、とても驚いた。手紙で報告をされてはいたが……こんなに変わっているとは。あの最底辺の領地が見違えるようで、別の領地へ来たのかと錯覚したよ。麦は金色に輝き、太陽の光に反射していた。麦畑だけみても、やせ細った畑が見違えるようで……何か、魔法でもかけられたのかと思うよ」

「アンナリーゼは多才ですね?」

「私の力ではありませんよ!私の主治医がいろいろと提案してくれ、実行をしたにすぎません。今は、フレイゼンから十人の学者や研究者を受入れて、さらに領地にいいことを進めています。明日以降、お義父様は領地を回られたいとおっしゃっていたので、ジョージア様が案内してくれます!」

「ジョージアが?」

「はい。アンナは、公の命令で南の領地へ行っていて、最近領地へ戻ってきたばかりなので」

「そうだったの?」

「えぇ、本当に最近です」

「南の領地っていうと、今、病が流行っているっていう話を聞いたんだが」



 義父も情報をどこかから仕入れているようで、ローズディア公国のことを知っているようだった。その話を領地でした報告よりずっと簡素に話すと驚いていた。



「アンナリーゼ、もう少し自身を大切にしなさい。公から命令だったとしても、あなたには、まだ小さなアンジェラやネイトがいるのです。生き急ぐものではありませんよ?」

「お義母様、ありがとうございます。私にできることなら……と、公から命を受けましたが、もう少し自重いたします。今回、南の領地へ行っている間、もちろん、南の領民のことを考え動いていましたが、心の隅にはいつも子どもたちがいました。自身の都合で会えない時間でさえ辛かったのに、今回は数ヶ月もで。領地に帰り、子どもたちを抱きしめたとき、心がとても安らぎました」

「そうでしょ?子どもって、不思議よね。私だって人間ですから、小さいころのジョージアが泣き始めると疎ましく思うこともありましたけど……抱きしめるとその温もりにホッとしたのですよ?」

「……疎ましく思われていたのですか?」

「それは、そうでしょ?アンナリーゼの代わりに子育てをしているのなら、ジョージアも思うことはなくて?一人になりたいなって思うこととか。私には乳母がいましたが、アンナリーゼは乳母を雇わなかったのでしょ?」



 考えていたらしく思い当たる節があるようで、ジョージアは苦笑いをしていた。



「心内をいうと、なんてなっていない母親だろうって言われることが嫌で言わなかったけど、人間ですから、調子のいい日もあれば悪い日もあるし、子どもを優先して気遣っていると、どうしても息詰まることもあるのです。旦那様は、気に留めてくださるけど、基本的には我関せずでしたし、任せるよの一点張りでしたからね。それを思うと、乳飲み子同然のネイトを侍女と助け合いながら数ヶ月も子育てをしていたジョージアはえらいと思うわ!」



 義母の言葉にジョージアがありがとうというのに対して、義父はばつの悪そうな顔をしていた。



「私もジョージアを可愛がっていたであろう?」

「それは、気まぐれにでしてよ?ジョージアほど、寄り添っていたと言えますか?」



 じろりと睨まれ、言葉にならなかったようで、義父は押し黙った。

 その様子がおかしくてクスクスと笑ってしまう。いつも、とても仲良しで義両親はお互いにベッタリなのだが、こんな口論のような話もするのかと思うと、思わずであった。



「お義父様もお義母様もとても仲がよろしくて羨ましく思っていましたけど、そういう話もするのですね?」

「もちろんよ!私たちは今でこそ、仲がいいけど……昔は、顔を見れば喧嘩をしていたこともあるほどよ!」



 義母の言ったことにビックリしていると、義父も笑う。



「夫婦というものは、所詮他人だからね。お互いに寄り添うために、優しくしたり労ったりも大切だけど、心の内を吐き出すような喧嘩もときには必要だよ。私たちの若いころは、喧嘩の方が多かったけど」



 笑いながら、懐かしむ義両親。今では考えられないことではあるが、そうやって絆を深めていったのかと思えば納得であった。

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