第772話 揃った領主たち

 仰々しく席につく公をぼんやり眺めていた。後ろには宰相が立って、みなを見回している。

 さて、役者が揃ったなというところで、公からの労いの言葉を待っていると、こちらを見てくる。

 首を傾げ、何か?と合図を送ると、前振りをしろというものだった。


 なんで、私が……


 文句のひとつでも言ってやりたいが、ここには今回の件で集まってくれている領主がいるのだ。仕方がないと小さくため息をつき、ご機嫌伺いをすることにした。



「公におかれましては……」

「アンナリーゼ、そのような堅苦しい挨拶はよい。病の流行で忙しい中、領主たちが公都まで足を運んでくれているのだ」

「すみません、気遣いができず。みなさま、大変申し訳ございません。このような大変なときにも関わらず、わざわざ公都で集まっていただき大変嬉しく思います」

「な、アンナリーゼ!」

「何でございましょう!」



 いらっとしたので、公の先に挨拶してやると、慌てる公。



「いや、何でもない。それより……領主たちよ、今日は、呼びかけに応じてくれ、ありがとう。国の危機にあり、領地でも、みなが対応してくれていること、感謝する」



 公の挨拶の間に私は席についているものの確認をしていく。大小の領地があり、その中でも中領地から小領地の領主が多く、南の領地以外のところであることを確認していく。


 呼びかけに応じたのは、半分くらいかな。


 空席状況を見てあたりをつける。ゴールド公爵家傘下の領地があまりきていない。知らない顔ぶれもいて、誰だろう?とこっそりディルに用意してもらった領主の名簿を確認していく。


 サーラー子爵の近くにいるのが、トライド男爵のようで、よく見ると、セバスの面影があるような気がする。トライド男爵とは、まだ、話をしたことがなかったので、ぜひ話をしたいと思って見ていたら、サーラー子爵と私の話をしていたようで、こちらを見て微笑んだ。



「今日集まってもらったのは、他でもない。今回の病の発症の経緯や今状況、今後の話をする。領地の状況も教えて欲しいところだ」



 ぼんやりしていたら、公の話が進んでいたようで慌てて、顔を引き締める。



「南の領地から来ているものはいないが……」

「ナルド子爵が来られていますよ?公」

「えっ?ナルド?」

「えぇ、子爵は領主ではないですけど、領主の代わりに来てくださったのでしょう。具合はどうですか?ナルド子爵」



 私が呼びかけると、多少ばつの悪そうにしているナルド子爵であったが、発言の許可をというので公が頷いた。



「南部の領地を代表して今回参加させていただきました。この度の件……南部より広まったこと、誠に申し訳なく思っています」

「あっ、いいですか?」

「忌憚なく話せ」



 子爵とは別の人が、疑問に思ったことがあるようで、発言の許可を取ってきた。



「はい、では。最初に病が報告されたのは、コーコナ領と聞いていますが、どうですか?」

「それは、私から。たしかに、コーコナ領が最初に公へ報告をあげたわ!それより前に病の発症があったにも関わらず、隠していた領地があったのよ」

「そうだったんですか?でも、報告が無かったのなら、その領地だってことは、どうやってわかったんですか?」

「感染元となった娼婦から聞いたのよ」

「……娼婦?」



 みなの顔が険しいものに変わった。



「えぇ、インゼロから人身売買で売られてきた娼婦が病を持ってきたの」

「……インゼロから?」

「それは、たまたま、病の者が売られた結果ですか?それとも、インゼロ帝国の攻める場所がローズディアということなのでしょうか?」



 今回2番目に重要な話を先に言われてしまうので、公が困ったような顔をしている。



「先にそちらを話したらいかがですか?」



 公に声をかけると、頷く。公も文官たちを使って調べたこともあるようで、わかることから話していく。



「こちらが調べたところによると、インゼロ帝国での動きは、まだ、何もないという話だった。国内の方も以前よりかは落ち着きを取り戻しているらしいが、まだ、戦争を起こすほどは整っているわけではないいとのことだ」



 私の持っている情報を照らし合わせると表向きはという言葉がついているが、概ねあっている。



「では、今後は、そういった事態になる可能性もあるかもしれない……という意味ですか?」

「近いうちにというわけではないが、ロ―ズディアを虎視眈々と狙っていると思っておいたほうがいいだろう」

「公は、この問題にどのように思われていますか?」

「国民を守るため、国境警備の配置について見直すつもりだ」

「見直すと言っても、南部はいまだ、病に多く罹患している人がいるんですよね?そんなところへ兵を配置することは、難しいでしょ?」

「それに、この国で禁止されていたはずの人身売買が行われていたという事実。インゼロと南部の領主が癒着しているのではないかと勘ぐってしまいます」

「南部はオークションなどで潤っていましたからね。何かあるのではないかと思っていたのですけど」



 次々に発せられる南部への批判。ローズディアで1番潤っていた場所である。法を破ってまでも利益を得ていたのならとどこのかしこも懐事情を含め愚痴をいいたいに決まっている。


 収拾のつかなくなってきた話し合いにどうしたらとこちらへ視線を送ってくるが無視をした。今、私が話すと、火に油を注ぎそうだったので黙っておくに限る。

 南部の領地への投資はたくさんしていたので、グルではないかと言われかねない。



「みなさま、落ち着いてください。確かに、南部は未だ罹患者はとても多く、今のままでは、国境警備を整えることは難しいです。ただ、アンバー公爵の協力のもと、医師の派遣や薬の供給のおかげで、少しずつ罹患者が減ってきています。他の領地へも医師の派遣や薬の配布をしたと思いますが」

「あぁ、あれは、アンバー公が手配してくれたものなのか」

「さすがですね!」



 宰相の声にみなが少し落ち着いたようだった。公に説明をさせるより、宰相に説明をしてもらった方が、順序良く話ができるのではないだろうか。

 それにしても、思わぬところで賞賛を受け、ちょっと照れる。

 口には出さず、宰相の次の言葉を待つことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る