第747話 いざ、ジニー探しのたび!

 広場へ戻ると、ヨハンたちが南へ向かう準備をしていた。



「ただいま」

「おかえり。どうだった?」



 ウィルに問われ、上々よ!と微笑む。子爵家で拾ったイヤリングをヨハンに見せると、なんですか?と返ってくる。



「ヨハンが知らないなら、これは、オレジア男爵家の形見……では、ないようね」

「そうですけど……変わったデザインですね?」

「ロケットになっているのよ。ここを押すと開くわ!」



 私は、ちょんと金具を押すと、宝石の部分が開いた。



「何これ、すごいじゃん!」

「一昔前に流行ったものよ。ここに恋人とか家族……大事な人の似顔絵とか、自決用の毒物なんかを入れるのよね」

「はっ?自決?なんで?」

「インゼロ帝国は戦争が多いでしょ?」

「もしかして、兵士がつけていたわけ?」

「……そう。宝石はつけないから、基本的には銀製ものが多いけど、送り出す家族たちは、これを励みに帰ってきてくれと願うのよ」

「よくご存じですね?」

「インゼロのことは、調べたもの。その中の1つね。それにしても、中に入っているのが、これとはね……ジニーのものだって、すぐにわかるわ!」

「赤い実っ!」



 私は掌にロケットの中に入っていた実を取り出した。



「この赤い実で間違いないかしら?ヨハン」

「えぇ、それが、私やジニーを生物兵器と変える実です」

「これは、処分するわね。持っていても、私たちには害にならないけど、これが近くにあれば、害を及ぼす人がいるから」

「お願いします」



 私は、ついていた暖炉へと実を放り投げた。小さな赤い実は、すぐに火にのまれてしまった。



「これがあるということは、ジニーの消息はわかったのか?姫さん」

「えぇ、わかった。取引の予定が書かれているものを子爵からもらったの」

「脅したの!の間違いでなくて?」

「そんなことは、しないわよ!ここにナルド子爵夫人が薬を返しにきたでしょ?」

「来ましたけど……なんですか?あの受渡しの証明をくれと言われたのですが?」



 ヨハンはよほど、めんどくさかったのか私を睨む。助手の名前を知らなかったので、ちょうど居合わせたヨハンを指名したのだが、それが、まずかったようだ。



「それで?子爵とは、話ができたんだ?」

「それがね?どうも……いたした後のようで、坊ちゃんと同じ状況になってた。さらに……重症化してて、本人とは殆ど話してないの。こっちが話す言葉に頷くか首を振るかしかさせられなかった。

 でも、これが手に入れられたのは、幸いよね!明日の朝、1番で西に向かうわ!予定からして、追いつけると思うの」

「1つ南は、後回しとなるな……俺たちが回るか?」

「いや、予定通り、アンナリーゼ様が南へ向かってから西へ。先に助手を向かわせましょう。今は、明日の出発に向け眠っています」

「わかった。当初どおり、1つ南に向かってから、西側へ向かうことにする。その方が、救える命が多くなる可能性が高い……そういうことね?」



 ヨハンは頷き、これからの行動について、しっかり話し合う。

 すぐに向かおうとした私の行動には、一部中断があったが、罹患者の多い南を重点的に対応していかないといけないときだ。仕方がない。



「それにしたって、よくだどりついたな……」

「褒めてもいいよ!ウィル」



 えっへんと胸をはると、後ろに控えていたキースを見る。何?と私もキースの方を見る。



「なんですか?お二人とも!」

「姫さん、どうだった?」

「どうと言われましても……子爵の寝室には立ち入りを禁止されましたから、中でどんなやり取りをされていたのかはわかりませんし、外に出てきてからもテキパキと……あぁ、そうだ!媚薬の話を聞こうと思っていたのです!」

「媚薬?……何?また、なんかしたの?」

「私じゃないもの!とおされた部屋が、甘ったるい匂いがしたからなんだろなって考えて……媚薬だっ!ってなっただけ。キースがわからないっていうから、違うのかなって思っていたんだけど……」

「キースの顔を見ればわかるな」

「残っていたのは微量の香りだったから、気がつかなくても仕方がないわよね!」

「……あの、失礼を承知で、アンナリーゼ様は、その……」

「私は平気!」

「俺も!」

「ウィルもなの?」

「お二人もですか?」



 当然のように三人目に名乗りをあげるヨハン。三人がキースを見て、フッと笑う。



「普通の反応だから大丈夫ですよ!」

「そう言われましても……」



 肩を落とすキースは、納得がいかないようだ。



「私は、ある程度のものなら抵抗できるから大丈夫。慣れっていうの?」

「慣れって……姫さん、そんなに媚薬を使って?」

「……投げ飛ばしてもいい?」

「いや、やめて……痛いから……」

「じゃ、じゃあ、どうして平気なのですか?甘い香りがしたのですよね?」

「まぁ、そうね……昔、娼婦のお姉さんと話をすることがあってね……そのときに、教えてもらったのよ。お客で、媚薬を好むド変態がいるけど……そういうので頭がぼんやりするのは、嫌だっていう人がいて……」

「その、回避方法は、何があるんですか?」



 切に迫るキースに話のおちどころを知っているヨハンが笑い始めた。



「アンナリーゼ様、種明かしを」

「ヨハンが作る解毒剤には、媚薬成分までもきれいさっぱり無効化できるものがあるのよ。その実験を娼婦のお姉さんに頼んだことがあるの。今回は、たまたま、万能解毒剤を飲んでいたから平気だったのよ!」

「飲んでいた?一緒にいましたが、そんなもの……」

「栄養剤変わりにも飲むから、気が付かなかったんじゃない?」



 私は、ちゃぽんと試験管に入った万能解毒剤を揺する。



「確か、子爵家に行く前に飲んでいましたね?」

「うん、さすがに動き回ってたし、使わない脳をフル回転させてたからね……ところで、ウィルは、どうして平気なの?」

「ただの体質」

「……」

「そういう目で見ないでくれる?べつに、姫さんが考えているようなことじゃないから。媚薬がきかないってだけで」



 それぞれの種明かしをしながら、夜は更けていく。朝、それぞれ向かう場所の確認を最後にして、用意されている寝室へとむかった。

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