第729話 ちょっとした計画
呼ばれた先でヨハンの助手に会う。見慣れた彼女は、ヨハンの傍らに常にひっそりといた女性であったことに驚いた。
「アンナリーゼ様、ようこそお越しくださいました」
「えぇ、この場所の担当は、あなただったのね?早速だけど、ここの状況を確認させてほしいの」
「わかりました。先程、サーラー様にもお話をさせていただきましたが、ここは、医師不足、薬不足で、かなりひっ迫している……そのような状況です。お手伝いに来てくださっている方々も、消耗していて……病み上がりの方もお手伝いしてくださってくれているのですが、厳しいです」
「そうね。助けてくれる人がいるなら、素直に甘えたいわね。それに、あなたが言いたいことなら、外を見ればわかるわ。人で溢れかえっているものね……あなたの体調はどうかしら?」
「私は、おかげ様で元気に過ごしていますが、一人では、大人数を診て回ることが難しく、困っています」
私は、助手の話に頷いた。少し前の他の領地での話をして、ここでも領主の元へいくことを話したが、事態はあまり芳しくないらしい。
「領主が、臥せっているという噂を聞きました」
「病で?」
「はい。ただ、そこには、公都から派遣された医師もいるのですが、根本的な治療方法がわかっていないため、治る見込みが未だないそうです」
「そうなの……乗り込んでも、うまくいかない可能性があるわね。屋敷の中については、どうかしら?蔓延しているとかの話は聞いていて?」
「私は、診察に追われているので、全く噂が聞こえてこないです。申し訳ありません。ただ、公都から持ってきた薬を取り上げられてしまったので、そろそろ、在庫がつきかけています。どうにかならないでしょうか?」
「それは、任せて!私がひとっ走り行ってくるわ!それと、地方の話をしたいのだけど、いいかしら?」
「はい。大丈夫です」
「町医者のみなさんのうち、助手を貸していただくことは出来ませんか?」
町医者たちは、お互いを見ながら、困ったような顔をする。どこもかしこも、診療所はいっぱいだったので、一人でも抜けると大変なんだろう。
「ご命令ならば、一人くらいならと思いますが……何分」
「わかっているわ!私だって、みなのところへ回ったもの!」
「うちも厳しいのには、変わりありませんが……例えば、ここで技術を学び、地方の町医者なりにその教えを広め、薬があれば、何とかなるかもしれません!」
「そう。私も、そう考えていたの。どうかしら?ずっとというわけではないのだけど……一時的に助けてくれないかしら?命令じゃないわ!」
さらに顔を見合わせる町医者の中、最初と最後に訪れた町医者が二人ずつ出してくれると約束してくれた。
「当初のとおり、うちの助手は、こちらでしばらく滞在させてください。いくら、大丈夫だと言われても、お疲れがあるように見えますから、休んでください。もう一人の助手が地方を回る……そんな形ででお願いします」
「うちは、二人とも地方へお願いします。1ヵ所や2ヶ所じゃないんだ。少しでも回る人数を増やしたほうがいい。それに、この病の終息を一刻も早くと願っているのだから、領地の中心だけでなく、地方の方もきちんと対処しないと、こちらになだれ込んでくる可能性もあります。そうなれば、さらに収拾がつかなくなりますから」
二人の町医者の話を聞き、他の町医者も頷いた。一人なら……と、いうことで九人が手伝ってくれることになった。
「みんな、町医者を目指して努力している人ばかりだから、頼むわね!」
「割り当てを決めましょう!移動するのにも乗合馬車になりますから、時間も罹るでしょうし……」
「そのことなんだけど、地方には、運輸業をしているお兄さんたちにも手伝ってもらうことにしたの。その人たちの馬車に乗り込んでくれる?薬も同時に運ぶから、医師の助手と薬でちょうどいいかなって思って。領地の内部のことは知らないから、ここの領地の人に相談しながら決めましょう!」
ニコリと笑いかければ、疲れ切った医者や助手は苦笑いをした。
さてとと、立ち上がる。お兄さんたちに連絡をしないといけないし、領主から薬を取り返して来ないといけないので、意外と忙しかったりする。大きな領地は、こういうとき、大変だなと他人事のように思うが、アンバー領も近いうちに今と同じ状況になるかもしれないことを頭の済みへ入れる。
「どこに向かわれるのですか?」
「領主の屋敷よ!無血開城させてくるわ!そのあと、薬の争奪戦が始まるかもしれないわ!元々見積もっていた人数よりずっと多くなってきているから、薬の管理は今以上にしっかりしないと……ヨハンが作ってくれているが、間に合わないことも念頭に看病へあたってほしいわ!」
言いたいことだけいうと、私は立ち上がって、領主の屋敷へと乗り込んでくると言い残し、部屋をでた。
向かう先は、領主の屋敷。奪われた薬を返してもらうために、急いで向かった。
またもや、門兵と揉めたため、紋章を見せると、黙ってしまう。
そこからは、早かった。私たちは、薬を返してもらい、町医者や、地方の地域への分と分ける。
屋敷から帰った頃、町医者の助手たちは、旅の準備が終わったのか、お兄さんたちの馬車へ乗り込んだ。
地方も頼むわね!と声をかければ、助手たちは頷きあう。薬と助手を乗せた荷馬車はそれぞれの目的地まで向かってくれた。
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