第673話 イチアへの報告
領地の屋敷へ帰ると、忙しそうにイチアとセバス、ロイドが何事か話をしていた。
聞き耳をたてると、アンバー領を離れてからの話の情報共有をしているようである。
「私も混ぜてくれる?」
「アンナリーゼ様、もう、お帰りでしたか?」
「えぇ、見たかった水車は見れたし、ウィルが見せたかったっていう石畳の街道の進捗具合も見れたし、何より……養豚場を見れたから!」
「それは、よかったです!」
「今は、領地を離れてからの情報共有?」
「えぇ、アンナ様には、手紙で報告をしていましたが、細やかなところは、先にセバスとすり合わせておこうかと……今後の予算の関係もあるので、ロイドも呼びました。ここに、ニコライもいてくれると助かるのですが……」
「商人として展望ね。今は、公都で季節商品の入れ替えをしているから、仕方がないわ!」
私はいつものように執務室に置いてある、大きな机へと座る。後ろについてきていたウィルも定位置に座る。順位的にウィルの前にセバスが座り、その横にイチア、その前にロイドが座る。
「今日の視察は、主に水車だったんですよね?」
「そうよ!すごいわね!私が見てきた水車より、改良がされていたわ!」
「挽いた小麦粉をなるべく無駄なく回収できるようにっていう領民の知恵ですね。雨が降ると湿気もありますから、そういったところもなるべく取り除けるように炭が置いてあったでしょ?」
「そういえば……あった気がする!」
「ところどころに袋にぶら下がっていたのがそうか?」
「そうです!前室を作って風よけにしたり、扉の内側に布をはって飛び散らないようにしたりと、領民の知恵はすばらしいですね!」
「本当ね!私、感動しちゃった。あの設計図から、立派な水車を作ってくれるだけでも嬉しかったのに、さらに工夫がされているんだもん!」
「それで……っという話ですね?」
「よくわかっているわね!それで、あと何小屋かを作りたいの!基本は、サラおばさんの住んでいる村を中心にしたいのだけど……いいかしら?」
「あの辺が1番小麦の生産が多いですからね!拠点とするのですか?」
それがいいかなと思うというと、みなが頷く。まずは、新規で作る話をしたら、こちらは、予算が取れているので、すぐに動ける状態であることを教えてくれる。
それなら、お願いねというと明日にでも発注すると、イチアが頷いてくれた。
「次、石畳の街道なんだけど……私が思っていたより、早く出来上がっていたわ!何か工夫が?」
「特には……ただ、リリーが頻繁に顔を出しているという話を聞いているので、ピューレとともに指揮を取っているのではないですか?リリーがいるのといないのでは、現場が変わりますからね!」
「潤滑油のような役割を自然とこなすからね……人材として見つけたとき……本当に驚いたもの!アンバーにもいい人材がちゃんといるじゃないって」
「アンナ様が、領地外から連れてこられたセバスやウィル様、ロイドたち魔法使いは、本当に素晴らしい人材ですが、領民の中に光り輝く人材を見つけ出せたことは、本当に大きいですね!」
「うん、リリーとサラおばさんは、アンバー領の中心のような人よ!もちろん、三商人たちも曲者ばかりで、相手にするのは楽しいわよね!」
「「「確かに!」」」
文官なセバスとイチア、それに経済の学者であるロイドは、同時に頷いた。このアンバーで、大きな商売をしていた三商人も領民から高い信頼を勝ち取っている。物価の高いアンバーに少しでも安く商品を仕入れる努力をしたり、なるべく領地内が潤うようにと努力していたことは知っている。領主に見捨てられた領地として不名誉な二つ名を持っていたアンバーに両足を踏ん張っていてくれたビルたち三人は、賞賛に値するのだ。
「ビルさんがニコライの父親なんだったね?」
「そうよ!ジョージア様の卒業式のときに、いろいろとお世話になったの!おかげで、末永いお付き合いになっているわ!もちろん、ハニーアンバー店を開くにあたっても、たくさんの支援もしてもらったしね!」
「そういえば、三商人たちの店はどうなったんだい?」
「ビルの息子以外は、ハニーアンバー店の傘下に入っているの。それぞれ得意なことが違うから、適材適所で頑張ってくれている。先見の明がある見たいね!親に似て」
話が、それてしまったわ……と苦笑いすると、ロイドがそんなことないと言ってくれる。
「私は、アンバーに来て日が浅いので、まだ、覚えられないことが多いのです!雑談だと思っているかもしれませんが、さっきのお話だけでも、人間関係や人となりを想像するのに、とても役にたっています」
「それはよかった!それと、ロイド」
「はい、なんでしょうか?」
「これから、少々お金が必要な話をするのだけど……いいかしら?」
「また、何かを始めるのですか?」
「私じゃないわ!もう、すでに、始めちゃっているって言うのが、正しいのかも知れないけど……」
ウィルと目配せして苦笑いをすると、なんとなくわかった気がするという顔をするセバスとイチア。
付き合いの浅いロイドだけが、わからずに小首を傾げていた。
えっとね……と私が話始めると、次に発せられる言葉の裏を取りにかかる二人に思わず笑ってしまった。
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