第670話 石畳の街道の進捗

 急に来た私に嫌な顔ひとつせず、リリーは石畳の街道について話をしてくれる。私が、領地を離れる前は、確か石切の町を出るか出ないかくらいだったのを思えば、ずいぶん拡張されて行っているのがわかった。



「ピューレがここの指示を担ってくれているのよね?」

「そうです。基本的にはって話ですが、本人も動き回っているので……カノタも指示に回っていますよ!」

「そうなの?石の橋の方もやっているわよね?」

「えぇ、そっちの設計は終わって、リアノさんの許しが出たそうで進めていますね!馬車を通すことを考えて、盛土を作っているところらしいです!」

「盛土?なら、ここを掘り起こしたときの土とかを持って行っているの?」

「そうですね!よくわかりましたね?」



 えへへと笑うと、ウィルに褒められてないからなと言われる。大慌てでリリーが否定するが、私もそんなことですねたりは、しないのだ。大人だし……そうは、思っていないウィルとリリーはため息をついているが……一応、ウィルとは同級生なはずだった。



「ウィルって、私と同級生よね?」

「年齢はね~」

「ん?どういうこと?」

「精神年齢は、姫さんはもっと若いでしょ?」

「若いって!」

「これでも、言葉を選んだんだから!」

「選ばなくていいし!」



 二人でくだらないことで言い合いをしていると、作業中の近衛たちが顔をあげる。昼食が終わり、作業に戻っている近衛たちの真ん中で、リリーから今の進捗状況を聞いているところだったので、私たちは、とても目立った。



「そういえば、どこまで今は終わっているの?サラおばさんの村から来たんだけど、半分くらいできていたわ!」

「そちらから、来られたのですね!そうですね、今は二手に分かれていますので、半分はユービスの店がある町を整備中です」

「本当?じゃあ、サラおばさんの方の道を迂回して砂糖工場の方へ抜ければ、道は比較的いいのかしら?」

「そういわれれば、そうですね!若干の遠回りな気がしますが、馬車だと凸凹の道を走るよりかは、早く進めるかもしれません。馬だけなら、どちらもいいかもしれませんが……」

「確かに……馬なら、どちらでも、そう変わらないわね。基本的に領地の移動は、馬が多いけど……お店の仕入れなんかは、馬車だからね」

「そうですね!できる限り、早く領地内だけでも整備できると、移動がしやすくなるんですけどね……」



 リリーは、荷馬車も使って移動する場合もあるので、そこら辺は、私より知っている。なので、頷いておく。

 そういえば、もうそろそろ、最終の葡萄の収穫期だったなと思い浮かべる。

 去年は、無理やり作った葡萄酒。今年は、心機一転、準備に準備を重ねて始めたので、楽しみであった。その辺の事情も知っているだろうか?

 報告書でもらう情報量は、多くはないので、実際動き回っているリリーから話が聞ける方がいい。



「そういえば、最終の葡萄の収穫が近づいていると思うんだけど……」



 その言葉に反応したのは、周りで一生懸命石畳の街道を作ってくれている近衛たちだった。

 聞き耳をたてているのが、わかる。



「最後の葡萄は、アンナ様が好きな葡萄ジュースにできるとびきり甘い葡萄ですね!夏の太陽をサンサンと浴びて、多少、全盛期からは落ちるらしいのですが、いい出来らしいです」

「本当?」

「えぇ、本当ですよ!羊の飼い放しをしていたのは覚えていますか?」

「もちろん!今日は、そこにもいくつもり!」

「それなら、葡萄も一緒に見に行ってくるといいですよ!」

「うん、わかったわ!」

「葡萄の甘い香りに誘われて、害獣が来ることもあるそうですから、気を付けてくださいね?」

「害獣?」

「熊です。冬眠までは、まだ、だいぶ先ですが……甘い葡萄は好き見たいですから!」

「そうなんだ……なんとか、ならないのかしら?」

「今のところ、被害はないですけど……冬の前になると、凶暴になるかもしれませんから……ちょっと、考えましょう」

「そうね!今度、屋敷に来たとき……うぅん、帰ったらイチアに相談してみる」

「お願いします!そういえば、今年は、盥の上で踊らないのですか?」



 去年のことを思い出す。お掃除隊を連れて、領地のあちこちを回っていた。

 そのとき、葡萄酒は廃ったと諦めていた酒蔵で、造ろう!と後押ししたこと、そして、私自ら、葡萄酒の原材料となる葡萄を潰す作業に関わったことを思い出す。

 確かに……今よりずっと領地は大変だったけど……楽しかった!思い出すだけで胸が温かくなる。



「なんだか、懐かしいわね!今年も、参加できればいいけど……」

「山のように執務があるんですね?」

「……抜け出していこうかしら?後で、こっそり日時だけ教えてくれるかしら?突撃するわ!」

「わかりました!決まったら、こっそりとお知らせに参ります!」



 ふふっと笑いあうと、姫さん……と呆れ声が聞こえてくる。

 きっと、俺が聞いているから、行かせないよ?と言いたいのだろう。イチアにまかせっきりだった執務は、本当にたくさんあるのだ。セバスもいるとはいえ、イチアに押し付けていたことが、申し訳なくなった。



「わかっているわ!楽しいことばかりを優先しちゃダメだって言いたいんでしょ?でも、ほら、みんな葡萄酒が飲みたいって顔をしているし?」



 周りを見渡すと、キラキラした目をこちらに向けてくる近衛たち。呆れたというウィルに苦笑いする。



「みんな、葡萄酒好きだよね?」

「もちろんです!」

「ほら、みんな好きだって!」

「わかったわかった!でも、姫さん一人で作れるものじゃないからな!」

「収穫もありますからね……休日の近衛の数人にお手伝いを頼もうかと思っています!」



 うげ……と言っているものや、やったっと笑顔のもの。きっと、笑顔の近衛は、休日なのだろう。



「じゃあ、任せるわ!私は、ひたすら、執務を片付ける!」

「よしっ、その意気で頑張ろうな!姫さん」



 ウィルに言われると……なんだか不満なのだが、私がやらないといけないこと……私しかできないことも多いのだから、ふぅとため息一つついて笑いかける。


 その後もリリーの話を聞き、私は次なる目的地へと馬に揺られるのであった。

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