第666話 水車小屋の工夫
サラおばさんに借りた鍵で中に入った。
入ってすぐは、小さな小部屋となっていて、さらに奥に扉があった。すでに音はしているので、なんだかそわそわと落ち着かない。
「入ってすぐじゃないんだな?」
「たぶん、外からそのままだと、風で舞ったりするからって、独自に一部屋設けたんじゃないかしら?私が見たのは、扉をあければ、そこに石臼とかがすぐにあったから!」
「なるほどね。領地によって、元あるものから改良か。さすが、アンバー領の領民だな?」
「ん?」
「姫さんの創意工夫をしましょう!っていうのが、染みついているってはなしだよ」
「そう?それなら……嬉しいけど」
私は2つ目の扉に手をかけた。それ程大きくない水車小屋に、それ程たくさん部屋があるとは思えないので、この扉の向こうは、まさに石臼があるのだろうと予想できた。
「ウィル、後ろの扉閉じて!」
「あぁ、粉が舞うといけないからな」
扉が閉じられたのを確認して、私は取っ手を引っ張った。予想通り、そこには石臼が水車に寄って回っていた。
「わぁ!これ、これ!」
「へぇーこんな感じ?」
部屋に入った瞬間、目に飛び込んできたものを見て、私は声をあげる。
ただし、私がみたものより、一回り大きい気がする……
「なんだか、石臼が一回り大きい気がするし、石臼の周りに、こんな粉を集めるようのものはなかったわ!これ、全部考えて作ってくれたのかしら?」
「俺は初めて見るから、こんなもんだと思ってたけど……何処か違うの?」
「えぇ、この石臼……私が見たのより少し大きいの。こっちに来てみて!」
何?と寄ってくるウィルに、私が見た水車小屋との違いを話す。
「ここの入口に小麦粉の元となる小麦を入れるんだけどね?」
「あぁ、これ?なんかパイプみたいなものがあるの、何?」
「うーん……これに小麦を入れて、一定数自動で小麦の供給ができるようになっているみたい!すごいね!多すぎず、少なすぎずって、微妙なはずなんだけど……どうなってるんだろ?」
「この紐じゃね?」
「あぁ、ここに出てくる粉の重さで、一定数が投入されるように作ってあるんだ?へぇー!あと、この粉袋に入って行くのすごいね!こんなのなかった!」
「そうなんだ?」
わぁーっと感嘆の声をあげると、私の中では1番すごいなと思うところがあった。
この小部屋に小麦粉が散らばっていない。石臼の高さに合わせて粉が出るところを囲うように木枠が取り付けられていた。
これが、他に粉が飛び散らない工夫なのだが……1つも無駄にしたくない!という私の願いが……忠実に体現されていて、驚くばかりだ。
「粉が他に飛び散ってないのがいいね!私が見に行ったところのは、もう、すごい粉だらけだったのよ!勿体ないなぁーって思いながら見てたんだけど……これなら、他に飛び散らないし、いいかも!」
「ここ、川沿いだけど、湿気とか大丈夫なわけ?」
「それも工夫はされてるよ!湿気と取るものを置いてあるはず!これは、イチアからの提案があったから、任せたんだけど……湿り気もなくていいね!」
「元々、アンバー領は乾燥しやすい土地柄ではあるからな」
「そうね……海は近いけど、山からの熱風のおかげで、暑いくらいだし、雨も適度にしか降らないから、すごしやすい場所ではあるね!」
水車の方へ近づくと、大雨の日には水車をあげることになっていたので、その設備もちゃんとなされていて感心する。
「何見てるんだ?」
「水車を中川から見てるの!」
「何のために?」
「大雨の日は、水車が壊れる可能性があるから、それから防ぐために水車を引き上げるようになっているの。あと、小屋自体が壊れたらダメだから、小屋の川上はコンクリートで補強してあるし、ここは、本流と離してあるから、何か水害があったとしても……たぶん大丈夫なように設計してあるの!建て替えるとか大変でしょ?」
「確かに……イロイロ考えているんだな?」
「一応、領主ですから?あと、今回、試作で1軒作って見たけど、感触がよさそうだから……あと数軒作ろうと思うの!やっぱり、1つじゃ、領地全体を考えると難しいし……」
「ここを拠点にするってことか?」
「そうね!元々、麦の多くはここで作られているから、この村を拠点にしてしまおうとは思っているわ!」
「サラおばさんの苦労が増えるなぁ……」
「これも立派な仕事にしてしまえば、誰かが請け負ってくれるわ!ハニーアンバー店の傘下の仕事になるし……アンバー領を盛り立てていく、そんなひとつの仕事ね!粉をひくのを見ているだけなら、誰でも……と思うけど、小屋も管理してほしいから、最低三人くらいは人が欲しいところね!片手間にできるのか、その辺の検討必要ですけど……」
「大工仕事も出来て、小麦のことは多少なり知っている人……そういう人がいいってことだな!」
「人員募集については、屋敷に帰ってからセバスとイチア、ビルにかけあいましょう。私より、そういうことができる人を知っているはずだからね!」
私たちは、水車小屋の中を再度見て回り、扉に鍵をかけた。中を見たことで、外も再度確認していく。
ウィルに説明をしながらだったので、私の見てきたものとの違いがよくわかる。
すごく工夫されて作られたものだと、私は満足気に頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます