第647話 見せたい景色Ⅲ
ジョージアを伴い、外に出る。日差しが少しだけ優しくなった気はするが、まだまだ痛いほどである。
「ジョージア様、今から向かうところは……」
「アンナが予知したところだね?」
「いいえ、私が予知したのは、この辺一体の災害です。みんなが雨の中、慣れない
作業をしてくれたおかげで、ここらはその災害から逃れることができました」
「この辺一体ってどれくらいの被害を想定していたの?」
「この町の半分以上が無くなる予知です」
「なくなるって、人のこと?」
「いいえ、町ごとです。今、ほっと出来ているのは、コットンの顔を見ることが
出来たこと」
「コットンって、さっきの青年?」
「えぇ、実は、彼も……」
私の肩に手を置くジョージア。そちらの方を見ると、微笑んだ。
「私の『予知夢』は、必ず亡くなります。だから、今回がよくても、いつかわから
ないときに……」
「そうか……でも、今は、アンナが救った命だ。俺たちも少し災害について、
見直す必要があるね。ここだけでなく、他の場所でも起こりうることだ」
「そうですね……災害だけは、人の力だけでどうにかできることはないですから……
最小限の被害になるようにと、構えていても、結局、それを上回るのが自然ですから」
「アンナ、立派に領主として動けているよ。もし、『予知夢』どおりだったと
したら、子どもたちの笑顔は見れなかったはずだよ。生きていれば、再起も
できる。まずは、命を守るだけの準備をすることが、これからの課題だね」
はいと頷くと、行こうかと歩を進める。どろんこになって行方不明者を探した場所へと私も歩き出した。
「アンナリーゼ様!」
「領主様!」
私を見つけ、領民が駆け寄ってくる。一緒に探し回った人たちの顔を見て微笑んだ。この人たちの殆どが亡くなっていた未来があったんだと思うと、こうして話ができることが嬉しかった。
私、守れなかった人もいたけど……ちゃんと、守れた人もいたんだ。
冷えていた心は、みなの励ましで少しずつ温かさを取り戻していたが、ここに帰ってきて領民の笑顔を見たら、微笑まずにはいられなかった。
「あの……アンナリーゼ様?」
「どうかして?」
「その、涙が……」
頬を伝う涙に私は気付かなかった。どれ?と私の顔を覗き込んだジョージアが拭ってくれる。
「もう大丈夫だね?行こうか、アンナ」
「えぇ、ジョージア様」
「領主様、その方はどなたです?」
「私の旦那様よ?ジョージア様」
「えぇ、アンバー公爵様でしたか?」
どこに行ってもそんな反応なんだね……と肩を落とすジョージアにみなが笑う。
「領主様の旦那様だなんて、初めて見た!」
「いや、領主様って独身じゃなかったのか?おら、そう思ってた!」
「そんなわけなかろう!」
「えぇー独身だと思っていたから……」
「好き勝手いうのはいいけど、アンナは俺の奥さんだから取らないでくれよ?」
「いやいや、領主様の旦那さん!すでに領主様は、みなももんだべ?こんな綺麗で
優しくて、気立てがよくて……少々元気すぎるが、俺たちの女神様だからな!」
「もう、少々元気すぎるってどういうことよ?」
膨れっ面をすると、みなが笑う。ここ何週間もみなと、こうして笑いあっていたのだから、距離はぐっと近くなっていた。
「まさか、強力なライバルが、領民たちとは……そういえば、女神様ってなんのこと?」
「あぁ、最近『女神様』っていう噂があちこちで聞こえてくるから、てっきり……」
「アンナは知っているか?」
「たぶん、出元は……明日近くを通る予定の町でヨハンの助手に名乗りをあげて
いる子ですよ」
「ほう、そのねぇちゃん、見る目あるなぁ!アンナリーゼ様を女神とは」
ケラケラ笑うみな。噂の真ん中にいる私を見て、ジョージアがボソッと呟く。
「アンナは社交界だけでなく、領地でも華か……負けるな」
そんなことないと呟き返すと、みなに連れられ現場へと行く。
「ここが、あの現場?」
初めて来るジョージアが驚くのは無理もないが、数日まで泥んこになりながら掘り起こしていた私も驚いた。
「最後の作業が終わったんで、みなが手伝ってくれて、早く終わりました」
「綺麗になってる!すごいね!」
見違えるように綺麗になった災害現場。
アデルやノクトが上手に指示を出してくれたおかげで、早く終わったらしい。今は、山とコンクリートの間に溜まった土を掘り起こしてくれているらしい。
山からの土は、栄養があるとかで、少し違う場所にならして、何かする予定があるらしい。私の知らぬ間に、領民が考えて、動いてくれていた。
「なんだか、私は必要なさそうね?」
「いいや、アンナリーゼ様がいてくれたから、まとまったんだ。烏合の衆と俺たち
領民だけだったら、こんなに協力なんて、できなかった。感謝はしてもしきれない」
「そういえば、旦那さんなんて、連れて、どうしたんだ?」
「うん、もう少しコーコナが落ち着いたら、アンバーに戻ろうかと思っていて……
引継ぎ。しばらくは、ジョージア様がコーコナにいてくださるわ!」
「そうか……アンナリーゼ様は、アンバーの領主様だから、仕方ないよね。ここ
より、ずっとか大きな領地だし……」
「ごめんね……また、様子は見に来るから……」
「そういえば、綿花が咲くころに家族でピクニックにって、今年は綿花も早かったのか……」
「えぇ、必ずくるわ!コーコナも私にとって大切な領地ですもの!」
休憩の声にみながその場に座り込む。
私も一緒になって、その輪に入っていく。後ろでアンナと声をかけるジョージアに振り向くことなく話始めると、人がどんどん集まってきた。
私の顔を見て、みながホッとしたという声を聞く。どうも臥せっていたのをみなが知っていたようで、心配してくれていたようだった。
「私は、幸せものね!こんなに私のことを心配してくれる人がいるって!」
ニコニコと笑顔を振りまくと、俺たちの女神様には笑顔が似合うと笑い合える今日が嬉しかった。
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