第626話 とうとう、降ってきたかぁ……
お昼も食べた後、綿花農家の人たちと談笑も早々に切り上げ、綿花の摘み取り作業に戻った。
太陽のギラギラした日差しも、農家さんたちが言った通り、陰りが見えてきて、いつの間にか、また、曇天となってきた。
農家さんたちがお手伝いに来てくれたおかげか、土木作業している領民も手伝いにきて、格段に作業が早まる。
残すところ、あと15面ほどになった綿花畑を見渡す。
「コットン、あと少しだね!」
「えぇ、みなさんの協力のおかげですね!このまま、雨が降らないことを祈る
ばかりです」
「積み荷の方は、雨を凌げるように準備しておいた方がいいかもしれないわね!」
「そうですね、蓋を今日は持ってきているので、そろそろ、被せておきます」
二人して、今にも泣き出しそうな空を見上げる。
あと15面しかないのだ……1時間もあれば、摘み入れ出来るだろう。
「土木工事の方の人たちは、もう、帰しても大丈夫かしら?」
「そうですね……あちらも、雨が降らないうちに作業を進めたいでしょうし……
帰ってもらいましょう!」
せっかく来てもらった領民も土木工事の方へ戻ってもらった。
今日は、曇り空なので、休憩もそこそこで始まるだろうから……という理由からだ。
向こうに着いてから30分ほど休憩するよう言っておく。
「じゃあ、私も戻るね!」
コットンに手を振り、畑へと繰り出した。
ちょきちょきちょき……綿花農家たちに負けないよう、手を動かしていく。本職には敵わないが、ここ2日でかなり上達したように思う。
残り1面になったのは、1時間後。みなで、最後を摘み入れているとき、被っていた麦わら帽子にポツポツと当たる。
「雨が、降ってきたわ!」
「とうとう、降ってきたぞ!いそげ!」
摘み取り作業が早くなる。少しでも、雨に濡れないようにと……
「カゴが空のヤツはこっちにくんべ!」
「いっぱいか半分入ってるのは、もう荷馬車へ持っていけ!」
さっきまでの動きとは打って変わって、蜘蛛の子を散らすように一斉に動き出す。
荷馬車へ駆けていくもの、空のカゴを持つもの、摘み取りするもの。
私たちが出来るだけ早くと作業を進めているにも関わらず、空はあざ笑うかのごとく雨脚を強めていく。
「早く、早く!」
「アンナリーゼ様、濡れてしまいます!」
「構わないわ!それよりも、早く荷馬車に入れてちょうだい!」
私は、荷馬車の近くで、渋滞している積み荷作業にはっぱをかけていく。
なかなか上手く行かないので、指示を出していった。
「カゴを積み荷に出した人は、そのまま空のカゴを受取って持ち帰るように固めて
ちょうだい。どんどん、荷馬車に摘むのを手伝って!あと、人手があるなら、
蓋を持って雨が当たらないようにして!」
雨脚が強くなり、なかなか声も届きにくくなった頃、最後のカゴが積み荷に収まった。
「先に荷馬車を出して!私たちは後から迎えに来てくれたらいいわ!」
それだけいうと、先に荷馬車が出発する。
私たちは、道具を集め、片付けていった。大きな木の下で、帰りの馬車を待つことになる。
「アンナリーゼ様……濡れてしまいます」
「いいのよ!別に。帰って着替えればいいだけだから!」
「それでも……」
心配してくれるリアンにニコリと微笑んで、私は手伝いに来てくれていた農家さんの方へ向かう。
「あっ、領主様!」
「お疲れさんだべ?」
「今日は、みなさん、ありがとう!」
「いんやいんや、お互い様だべな!それより、雨にもそれ程ぬれずに収穫出来た
ことがよかったっぺな?」
「うん、おかげ様で、コーコナの産業が、潰れなくてすんだわ……本当に、あり
がとう!」
ペコリと頭を下げると、領主様!ダメだっぺよ?と騒ぎ始める農家さんたち。
私は、ニコっと微笑むと、やいのやいのと言っていた農家さんたちは黙ってしまった。
「何か、できればいいんだけど……私、何もしてあげられることがないの……」
「いいだっぺ!領主様が変わってから、おらたちの生活がぐっと楽になったっぺ!」
「どういうこと?」
「綿花の買い取り額が、通常価格より少々値上がりしたんだっぺ。お貴族様たちの
ドレスや下着を作るのに需要があるとかで」
「あぁ、なるほど!コーコナ領で作られる布地は、肌触りもいいから、みんな
重宝しているのよ!だから、買い取り価格も良くなったのね!」
「領主様が、変わったおかげだっぺな?みんな」
んだんだと賛同する農家の人々に私は、深々と頭を再度下げた。
普段、こんなにコーコナの農家さんと話をする機会が少ない。こうして、私の進めていたことの結果、領民が潤っていると言ってくれるなら、それは本望だったし、それに応えて仕事をしてくれるたくさんの領民がいてくれることに感謝をした。
「また、後日、改めて何かお礼をさせてください。本当に、コーコナの綿花が
使えなくなると、お店が潰れてしまうところでしたから……コーコナの一大産業
である綿花農業は、私たちが運営しているお店を支えてくれているの。だから……
本当に助かったわ!ありがとう!」
お礼を言い終わった頃、荷馬車が戻ってきた。
私たちは、その荷馬車に乗って、それぞれの場所へ帰る。
「みんな、風邪ひかないようにね!」
大きく手を振ると、領主様も!とみなも手を振ってくれた。
少しの間だけではあったが、領主と一緒に仕事が出来たことを良く思ってくれたらしい。
私は、それが嬉しくて、仕方がない。
クシュン……
「アンナリーゼ様!」
「お風邪をひいてしまわれましたか?」
「大丈夫よ!それより、みんなは大丈夫?」
えぇと言いったころ、コットンの家についた。そこで、暖炉に火を入れてもらい、冷えた体を温める。
「こんな雨の中、みんなが働いてくれていたのね……」
「まぁ、それで誰かの命が奪われるようなことがなくなるなら、みな頑張って
くれますよ!では、私は作業へ戻ります。しっかり、体を温めておいてください。
アンナリーゼ様には、まだまだ、働いてもらわないといけませんからね!」
アデルは、土木工事へと戻っていき、リアンは台所を借りたのか、温かいお茶を用意してくれた。
手渡され一口飲むと、ほぅっと息をはき、体に温かい液体が流れ込んでいく。
思っていたより、冷えていたことに驚き、私は少しだけ暖炉に近づくのであった。
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