第624話 せっかく、コーコナにいるのだから!Ⅴ

「悪いわね!」

「全く、悪びれているように思いませんけど……」



 私はコットンに今晩の宿のお願いをして、コットンの自宅に泊めてもらうことになった。



「領主が、領民の家に泊まりこむだなんて……聞いたこともありませんよ!

 それに、アデルさんもリアンさんもノクトさんまで……一体全体、何を考えて

 いるのですか?」

「うーん、何を考えている……」

「コットンさん、言うだけ無駄だと思います」

「アンナリーゼ様は、深く考えておられませんよ。効率第一ですからね……」

「そんなこと、ないよ?ねっ、ノクト?」

「効率を考えるのは、いい領主の証拠だ!何事も、無駄は省けるところから、

 省かないと!なっ、アンナよ!」



 私とノクトは、ニコニコとコットンに笑いかけ、コットンはじめ、アデルとリアンも大きなため息をついた。



「部屋は、大きくないのです……まさか、領主様を泊めるなんて、思いもしない

 ですからね」

「部屋なんて、どんなのでもいいわ!屋根と壁があれば、私は平気よ!なくても……

 いいのだけど、さすがに、リアンに叱られる……」



 チラッと、リアンの方を見ると、もう怒っていますというふうであった。

 確かに、コットンとはいえ、迷惑をかけてしまっているのだ。

 申し訳ない気持ちもあるが、ここは明日の作業を頑張ることで、許してもらおうと思った。



「そういえば、アンナリーゼ様にいただいた、てるてる坊主ですか?」

「えぇ、それが、どうかしたの?」

「あの効果、抜群ですね?さっき、空を見てきましたが、明日も晴天間違いなしです」

「だよね?私も驚きの効果なんだよね……子供だましと侮っていたけど……」



 みなが頷く。まさか、あの小さなものが、ここまで効果抜群に晴天続きなのは、驚いている。もしかしたら、災害も何もなく済むかもしれない……ここ2,3日は、そんな予感みたいなものを思っていた。

 ただ、こればかりは、自然が相手なのだ。今、晴れているからといって、その先で、前よりもっと酷い雨が降らないとも限らない。

 晴れているうちに出来る限りのことはしないといけないと、私たちは、気を引き締めていたところである。



「どうにか、綿花の摘み取りが終わるまで、天気が持ってくれるといいのだけど……」

「この後、収穫した綿花を洗う作業があるので、できれば、そのときも晴れて

 いてほしいですけど……収穫さえ出来ていれば、後の作業は遅れても大丈夫です

 から、とりあえず、あと3日……欲は、言いません!2日、晴れることを願うばかり

 です」

「あと3日で収穫が終わりそうかしら?」

「こことは違うところでは、専業さんが収穫してますからね!今日、終わったと

 連絡がありました。明日からは、その方々も手伝ってくれることになりますから、

 もう少し、早く終われるんじゃないかと、考えています!」



 そっか、じゃあ、明日も泊まりね!と呟くと、困ったようにコットンは苦笑いした。



「領主ですよね?アンナリーゼ様。明日は、人手がいりますから、泊まる場所を

 提供しますが、明日は、ちゃんと帰ってください。警備面でも……」



 コットンは、そう言って、私の両脇に控えるノクトとアデルを見てため息をついた。この領地で、1番の戦力がここに集まっているのだから、危ないとは言いづらい。

 どうしたの?と聞くと、何でもありませんと黙ってしまった。

 わかって聞いた手前、申し訳ない。でも、謝ることはしなかった。それは、コットンもわかっているのだろう。



「アンナリーゼ様は、いつまでこちらにいらっしゃるのですか?」

「今のところ、災害対策が終わってしばらくしてから、アンバーに戻るつもりよ?」

「公都でなく、アンバーですか?」

「えぇ、アンバーが私にとって、拠点だと思っているからね。あっ、だからって、

 コーコナを蔑ろにしているわけじゃないよ?ナタリーやニコライがこっちに

 しょっちゅう来ているのは、私の代わりに領地を見てくれていたり、領地運営の

 提案をしてもらったりしているのよ」

「あぁ、だから、領地には、よくこられるのですね?」



 ちょっと安心したような顔をしている。やっぱり離れた領地を治めるのは、どっちつかずになってしまい、不安に思われているようだ。そこは反省するべきだなと思った。例えば、私が来れなかったとしても、ジョージアが来ることも考えた方がいいだろう。

 年に何回か、視察に出向くというのは、するべきだな……と考え直した。



「領主宛に書いてもらった手紙は、全部目を通しているわよ!そこに必要な支援は

 送っているつもりなんだけど……」

「確かに、早いですね……男爵のときは、なかなか、意見が吸い上げられることが

 なかったんで、みなで驚いていたところです」

「領民の税収は、出来る限り領民の生活に還元したいと思っているから、意見を

 もらえば、検討して必要だと思えば、なるべく早くみなの元へと考えているわ!」

「貴族は、着飾ってお茶会や夜会に出かけて遊び惚けているもんだと思ってました

 ……こりゃ、認識を改めないと……」



 私は苦笑いをした。もちろん、そういう貴族もいるからだ。注意喚起も含めて、コットンには話しておくことにした。



「コットンの認識は正しいの。基本的に貴族はお茶会や夜会に出て、贅を競うこと

 もひとつの在り方だもの。あとは、そういう会に出るのも理由があって、そこで、

 領地の特産品を売ったり買ったりの取引があったり、新しい情報を得たりと

 一概に遊んでいるわけではないのよ。中には、遊んでいる人もいるから、

 そこは、見極めないといけないけど……」



 深く頷くコットン。比較的、領民の中でも、コットンは貴族に理解ある方だ。私はこんなふうに貴族に対して興味を持ってもらえること嬉しく思う。それと同時に、気の引き締まる話でもあった。

 領民に恥じない貴族でありたい。



「明日の作業もたくさんありますから、今日はゆっくりお休みください」



 部屋を案内してくれ、私たちはゆっくり休む。



「明日も頑張ろうね!」



 コットンに呼びかけると、はいと返事をして自身の部屋へと戻っていった。

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