第622話 せっかく、コーコナにいるのだから!Ⅲ

 お昼を食べた後、少しだけのんびりして伸びをした。

 ふぁあとすると、凝り固まった体がピーンとなる。すると、コットンが近くにやってきて、隣に腰掛けた。



「アンナリーゼ様、まだまだ、全然終わっていませんね……」

「そうね、日が暮れるまで、私は手伝うからね!」

「ありがとうございます」



 それでも、進まない綿花畑の摘み取り作業にコットンはため息をついた。そこに、土木作業上がりの領民のうち、男性陣がやってきた。



「アンナリーゼ様、お手伝いに来ました!」

「えっ?あなたたち、これから休憩でしょ?」

「領主が働いているのに、休むわけにもいきませんから」

「ありがとう。でも、休まないと、堪えるわよ?」

「そうは言っても本業を疎かには出来ませんから!

「そうね、わかったわ!次の作業に入る1時間だけは、絶対休んで?」



 わかりましたと、領民たちが自前のはさみを出して、作業に入る。さすがだ!慣れない作業の奥さまがたの何十倍速で綿花は摘み取られ、畑が綺麗になっていく。摘み取った枝葉を片付けていく人までいて、どんどん綺麗になっていった。



「すごいわね……さすが、本職さんだね!」

「本当ですね?あくせくしながら頑張ってはいたんですけど、かないませんね」



 ふふっと笑うと、私も割り当てられた畑へと向かった。

 本職さんに比べれば、遅々たるものだが、ひとつでも減るよう作業をしていく。

 暑い中、汗を拭きながら、少しずつでも刈り取っていく。1時間すれば1つの畑が終わる。ただ、暑さでぼうっとしてしまう。作業に来てくれてた奥さまがたは、はさみの代わりに摘み取り作業をしている人に飲み物を配ってくれていた。



「適材適所ね?」



 ふぅっと、屈めた腰を伸ばして体をほぐすと、水を持ってきてくれた。ちらっと周りを見渡すと、すごく綺麗に片付いて行っている。

 飛びぬけて頑張っていた奥さまは一体何しているだろうか?と見ると、摘み作業に勤しんでいた。

 さすが、とても刈入れが早い!私も水をもらって一息入れたことで、作業に戻る。



 作業に没頭していたので、目の前のことだけしか見えてなかったのだが、綿花を

 手に取って見た。

 初めて触る感触にほわっとなる。すごい……弾力もあるけど、繊細な感じがする。これが、私のドレスになるのかと思うと、感慨深くなった。

 摘み取った後、どんなふうにするのだろう?私は、その先も気になった。



「あとで、コットンに教えてもらおうかしら?」



 せっかく、コーコナにいるのだ。知りたいことは、全部教えてもらったらいい。私はまだまだ知らないことがたくさんあるのだからと、知れることに心躍らせた。



「その前に、この綿花畑を綺麗にすることね!」



 そういって、腰を屈め、また、作業に入ると、あっという間に2時過ぎになる。

 目の前のことに集中すると、周りが見えなくなるのは、私の悪い癖だ。リアンに声をかけてもらい、気が付いた。



「アンナリーゼ様、もう、そろそろ土木作業へ戻ってもらわないといけない時間ですよ!」

「えっ?もう、そんな時間?」



 はいと、ニッコリ笑うリアンに、頷くと大きく息を吸う。




「みんあぁー!時間だから、休憩に入ってちょうだい!しっかり休んで次の作業に入って!今日は、ありがとう!」



 大きな声で叫ぶと、後は頼んだと返事がくる。私は答える代わりに大きく手を振って答えた。



「さて、続きをしましょう!」

「その前に、アンナリーゼ様も休憩です!」



 リアンに引っ張られて、通路に連れていかれる。地べたに敷物がひいてあり座らされ、お茶の用意された。



「ありがとう、リアン」

「どういたしまして!それより、根を詰めて働きすぎです。少し休憩をなさってください」

「うん、そうするね!」

「アンナリーゼ様は、ご自身をもっと大事になさいませ。ご自身を犠牲にしてまで、誰かを幸せにする

 必要はないのです」

「そうも、いかなわよ!領主ですもの。領民の幸せを願うのも私の仕事なのよ?」

「では、ますます、アンナリーゼ様が自身を大事になさいますように!領民は、アンナリーゼ様のことを

 大切に思っています。アンナリーゼ様が、領民を思うほどではないかもしれませんが、アンナリーゼ

 様が領民みなの希望でもあるのですから。忘れないでください!」

「デリアにもディルにも同じようなこと言われた気がするし、ウィルやセバス、ナタリーにも……

 私って、本当に、周りが見えてないのね……」

「そうですよ!アンナリーゼ様が倒れられて叱られるのは、私なのですから。デリアは、とても怖い

 のですよ?」



 茶化していうリアンに私はクスクス笑う。想像できてしまった。デリアが腰に手を当て、「アンナ様!」と怒っている様子が。リアンも同じく想像したのだろう。クスクスと笑う。



「ナタリー様も、きっと……同じですからね。帰ってから叱られるのは、ごめんです」

「ナタリーもデリアに負けじと、怖いわよね……だいたい、私が悪いんだけど、そんなに怒らなくても……って思うのよね!」

「それは、アンナリーゼ様が無茶をなさるからです。アンナリーゼ様は、本当にご自身のことに無頓着

 すぎます!」



 反省しますと肩を竦めるとそうしてくださいとリアンに言われた。



「さて、休憩も済んだことだし……リアンは逆に少し休んでから作業に戻ってちょうだい!」

「いえ、私も作業へ戻ります!」

「リアンこそ、心配する子どもたちがいるのだから、自分のことも大事にしてちょうだいね!」



 肩にポンと手をおき、私は、摘み取り作業へと戻っていった。

 日が暮れるまでにあと3畑終わらせたい……願望を胸に、はさみをチョキチョキと動かした。

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