第614話 なんですか?
執務室に籠って、明日の炊き出しの資金の計算をしていた。どう考えても赤字ねとため息をつきながら、何か新しい儲け話がないのか頭を捻る。
ただ、そうしても、出てくるものはなく、外から聞こえる雨の音に鬱々とさせられる。
「本当にずっと雨ね……まだ、大丈夫だったら、いいけど……」
空を見上げながら、『予知夢』で見た災害の様子を思い出す。少しずつ、災害の容貌が変わりつつある『予知夢』を考えれば、少しだけホッとしてしまう。
ただ、気を抜くわけにもいかない。災害が起こることには変わりないし、領民の命がかかっていることにも変わりない。
私は、ふぅっと息をはいて、伸びをする。そういえば、昔、デリアにおもしろいものを教えてもらったことを思い出した。
「リアン、ナタリーはいるかしら?」
「えぇ、部屋にいらっしゃいますよ!今日は出かける予定はないそうなので」
「そう、じゃあ、ちょっと行ってくるわ!」
私は席をたち、ナタリーたちが使っている部屋へと向かった。
コンコンと扉を叩くと返事があり、部屋に入る。
「アンナリーゼ様」
「急にごめんね?」
「いえ、いいのですよ!ここは、アンナリーゼ様のお屋敷ですから!それより、
どうかされましたか?」
「うん、ちょっとお願いがあって……、ってそれは、秋物のドレスかしら?」
「えぇ、こちらに来たので、次のドレスの話もしています」
「今度はレースで首元を隠して、肩を出すの?」
「そうです。冬になれば、ファーを纏うこともできますから、そうすると、首元に
レースがあると綺麗見えるかなって」
ナタリーが手で縫っているものを見せてもらうと、見事なものである。冬に向けてではあるので、紫も色が濃いのかと思っていたら、ここを広げると……とラベンダー色がチラチラと見える。
秋から冬にかけて着るドレスなので、濃い色と春を待っているという意味を込めて薄い色を使っているらしい。
いつもナタリーの考えるドレスには感心させられる。
「それで、どうかしましたか?」
「あぁ、うん。綿と端切れと裁縫道具を借りるのはないかなって思って」
「何をされるのですか?」
「うーん、なんていうか、気持ちの問題なんだけど……ちょっと、おまじないを
して見ようかなって」
「おまじないですか?アンナリーゼ様も可愛らしいことをされるのですね!」
「……たまにはね?」
「端切れでいいのですか?」
「えぇ、大丈夫。色は、なるべく明かるいので、出来れば、刺繍糸もくれると
嬉しいかも!」
ナタリーに頼むと、ひとかかえ渡してくれた。さすがに、こんなには作らないが、結構な量が出来るだろう。
「また、後で伺っても?」
「いいわよ!見に来てくれる?」
わかりましたといい作業に戻るナタリーの部屋から、執務室へと向かう。
部屋に入ると、大量に何かしらを持っている私に驚き、リアンが駆け寄ってくる。
「一体、どうされたのですか?」
「ナタリーに端切れをもらってきたの!」
「……何をなされるので?」
私はニコッと笑いかけ、リアンにも座るようにいう。
「今日は、時間あるかしら?」
「はい、あります。私は基本的にこのお屋敷のことは口出し出来ませんので、この
お部屋だけが居場所ですから」
「そう。なら、少し手伝ってくれると助かるのだけど……」
わかりましたと頷くリアンに10㎝程の刺繍糸で三つ編みしてほしいことを伝えると、疑問に思いながら、手を付けてくれる。
「出来たら、輪っかにしてくれると嬉しいわ!」
「それは、構いませんけど……なんですか?手に持たれているのは……」
「てるてる坊主って言うんだって。デリアに昔、雨の降ってほしくないとき、どう
したらいいかなって聞いたときに、こういうおまじないがあるって聞いたことが
あるの。あくまでもおまじないとかだから、効果は……わからないけど、やって
みてもいいかなって思って。手持無沙汰だしね!」
「明日の準備については、もう、殆どが終わってますからね……わかりました。
でも、その形、見ていると、可愛らしく見えますね?」
「そうでしょ?子供だましみたいだけど、一家に1つあると、いいかなって」
私は、端切れを整え、てるてる坊主を作るための布を作っていく。小さすぎるのは他の端切れとくっつけていったり、余すことなく、使えるようにとくっつけていった。布自体はいいものではあるので、あとは、顔を作る。もちろん、これは、刺繍でするので、細かな作業を延々としつづけた。
部屋の扉がノックされ入出の許可を出すと、そこにはナタリーとベリルが一緒に入ってくる。私の細やかな作業を見て、ナタリーが驚く。
「アンナリーゼ様、私に言ってもらえば、もっといい布をお渡ししましたし、
それに……その作業だって……」
「いいのよ!時間が出来たから、作っているだけだから」
「これを作っているのですか?」
机の上に置かれたてるてる坊主を手に取るナタリー
「子供だましなんだろうけどね?雨が止むおまじないなんだって!」
「なるほど。私も手伝いますわ!ベリルも、ほら!」
「は、はいっ!」
ナタリーは近くから椅子を持ってきて私と対面に座り、ベリルはリアンの前に腰掛けた。
四人で奇妙な作業をしていると、お昼ですよ!とココナが執務室に入ってくる。
私たちを見て、不思議そうにしていたが、手の空いているものが、お昼過ぎならいるらしく、手伝うと申出てくれたので、業務に支障が出ない程度に手伝ってくれるようお願いする。
いつの間にが、色とりどりのてるてる坊主は、大小たくさん出来上がる。
「アンナリーゼ様。これ、売ってもいいですか?」
「えっ?」
「てるてる坊主?でしたっけ?私、売れると思うのです。どうでしょう?」
「えぇ、いいけど……」
「ありがとうございます。少し、おもしろい感じにいたしましょう。商品にする
ので、端切れではなく、ちゃんとした布を使ってもいいですよね?まずは、試し
から……という形で……」
その話を聞きながら……ナタリーもいつの間に商魂逞しい令嬢になったなぁと感慨深くみつめる。
なんですか?と可愛らしく言われるたので、素敵な女性になったねと微笑んだ。
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