第586話 お熱

 エレーナに会う目的地へ行くまでの間、移動については朝から夕方でまだ日がある時間までの移動とした。

 夜間の移動が危ないのと、長距離移動は、子どもたちがやはり疲れてしまう。



「アンジェラ様、大丈夫でしょうか?」



 デリアが、桶に冷たい水を汲んできてくれ、濡らしたタオルをアンジェラの頭に置いてくれる。



「さすがに、はしゃぎすぎよね……ノクトに連日馬に乗せてもらっては騒いで

 たのと、帽子は被っていたけど、真夏のの日差しが堪えたようね?」



 ふぅふぅと荒い息をはきながら、夢でも見ているのだろう、にへらっと締まりのない顔をして眠っている。



「アンは大丈夫?」

「えぇ、大丈夫よ。ジョージは、どこも辛くない?」

「うん、大丈夫」



 そうと言って、抱きしめると少々体温が高いように感じた。ジョージも表面化されていないが、無理が出ているのだろう。



「ママ?」

「ん?」

「ママの手、冷たくて気持ちいい」

「さっきまで、水に手を浸けていたからね。ほらぁー」



 ジョージの頬を両手で挟むと、ひゃあ!と騒いでいる。可愛いジョージにも、無理はさせられない。



「デリア、ネイトはどう?体調の方は……」

「離乳食もよく食べられますし、特に体調の悪さは感じません」

「うん、わかったわ」

「ネイトも元気?」

「えぇ、そうね!デリアが気を使ってくれているから」



 くしゃくしゃっと頭を撫でるとジョージは目を細めて喜んでいる。



「アンナ、果物もらってきたよ」

「ジョージア様、ありがとうございます」

「アンジーの具合、どう?」

「わかりませんけど、熱中症かもしれません。気を付けてはいたんですけど……

 小さな子どもですから……」



 私は肩を落とし、ダメですね、私と呟いた。



「大丈夫だよ。屋敷に残すわけにも行かなかったんだ。それに、子どもたちの側に

 いられる方が、いいはずだよ」

「そうだと、いいのですが……」



 自信なさげに、ため息をつくと、ジョージアとジョージがそれぞれ、私の頭を撫でてくれた。



「アンナリーゼ様、明日の日程ですが、1日進まず休みましょう。余裕を持って

 日程が汲んでありますし、ここからですとあと1日くらいの場所ですから」

「ありがとう、ニコライ」

「それと、お持ちしました」



 そういって、私に差し出してくれたのは、見慣れた試験管であった。



「デリア、コップを用意してくれる?」



 かしこまりましたと、デリアが用意してくれるのを待って、ジョージアが持ってきてくれたリンゴを向くことにした。

 シュルシュルっと剥いていくと、ジョージアとノクトがすごい以外そうにこちらを見ていた。



「アンナって、リンゴ剥けるんだね?」

「えぇ、基本的に野宿とかしながら、狩りとかにお母様と出かけたりしていました

 から、芋とかそういうのもできますよ!ノクトもできるでしょ?」

「俺は、食う専門だったから……」

「できないの?」

「イチアができるから、いいんだ」



 そっかと、剥いたリンゴを切り分けていく。

 ジョージに切り分けたのをあげると、シャリシャリ言わせて食べている。



「アンジェラ、食べられる?」



 うっすら瞼をあげて、にこぉっと笑っているアンジェラは、まだ、夢の中のようだ。



「まだ、もう少し、眠ろうか……」

「食べさせてあげなくていいの?」

「寝ているのに食べると、誤嚥する場合があるので、ちゃんと起きてから食べ

 させることにします。良かったら、食べてください」



 ジョージアとノクトに渡すと、ジョージは、さっきのを食べ終わったようで、もうひとつ欲しそうにしている。

 残ったリンゴを渡すと、また、シャリシャリと食べている。こりすのように、食べている姿が可愛い。



「アンナ様、コップの用意できました」



 デリアから受け取ると、私はそのコップに、試験管から半分だけコップにうつし、残りはまた蓋をしておく。



「どうするの?それ」



 ジョージアはリンゴを食べながら聞いてくるので、ニコッと笑う。

 ジョージがリンゴを食べ終わるのを待っていると、食べ終わってごちそうさまと言っている。少しずつ言葉も覚えてきたので、いろいろ教えるのも楽しい時期ではあった。



「ジョージ、リンゴ美味しかった?」

「うん、おいしかった」

「よかった。また、剥いてあげるからね!」



 余程、美味しかったのか嬉しそうにしているジョージに今度は、コップを渡す。



「お水、飲んでおきましょうか」



 コップを手にして、コクコクっと飲んでいく。無味無臭の万能解毒剤は、水だと言われてもわからないだろう。



「なっ」

「少し、ジョージも熱っぽいのですよ。だから、飲ませておきますね」

「そうだったの?」

「はい。小さな体には、少々長旅すぎましたね……帰りのことも考えて、十分な

 休養を挟んで帰ってくる必要がありますね」



 あぁ、そうだなとジョージアは、頷く。



 お腹も満たされたので、少し眠いのか、ジョージもコクリコクリと船を漕ぎ始めたので、抱きかかえてアンジェラの隣に寝かせた。

 ふぅふぅと苦しそうなアンジェラにもジョージにもネイトにも、可哀想なことをしてしまったなと反省をする。

 アンジェラの額に置いてあるタオルを取り、水に浸して取り替えてやると、気持ちいいのか、少しだけ口角をあげる。


 少ししたころ、楽になったのか、アンジェラが目を覚ました。



「……ママ?」



 熱があるのと見覚えのない部屋に不安を覚えたのか、少々ぐずりそうな声である。隣で、ジョージがぐっすり眠っているので、起こさないように急いでアンジェラの元へ向かった。



「アンジェラ、起きたのね」

「ママぁ」



 抱きついて泣いているので、大丈夫よ、ママはここにいるからねと背中を優しく撫でてあげると、お腹すいたと自分のお腹をさすり始めた。

 仕草が少し大きくなっても変わらず、可愛いので、私はクスっと笑ってリンゴを剥いてやり、シャリシャリと食べているのを見ていた。さっき、ジョージも食べていたけど、同じような食べ方に笑ってしまう。

 その様子をきょとんと見ていたが、試験管に残っていた万能解毒剤を飲ませ、もう一度寝るように、お話を聞かせてあげると、すっと眠りについた。



「アンジーは寝たようだね」

「えぇ、リンゴもしっかり食べていましたし、薬も飲んだから、明日には大丈夫

 でしょう」



 無理はしないよう、気を付けようとジョージアと二人で頷きあった。

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