第511話 公都への指令は、あっという間に手配されてますⅡ

 私たちが顔を付き合わせているところに、遅くなりましたと執務室に入ってくるニコライとリリー。



「ニコライ、私たちも今きたところだから、大丈夫よ!」



 席に座るように促すと、その前にとコーコナ領の地図を広げてくれる。



「まだ、領地名が変わってませんけど……」

「えぇ、大丈夫よ!土地は変わっていないものね!」

「はい……それで、アンナリーゼ様から伺っていたところですが、ここらだと思います」



 そういって、ニコライが指で指し示すところを見る。

 私が夢で見たところを指し示すと、皆が地図を覗き込む。

 確かに山の目前に家が並び立っており、結構な広範囲であることがわかる。



「まずは、アデルがリアノやアルカを派遣したんだけど、顔を知らない人ばかりが

 行ったら不安に思うかもしれないから、私が、今から向かうわ!馬で行けば、2日

 半で往復が出来るから……それで、指示を出してくる。社交は、それからでも

 いいし、すでに公への連絡は入れてあるから大丈夫だよね?

 現地で確認をしたうえで、公への報告とします。ウィル、悪いんだけど……」

「わかってる。俺が護衛。セバス、城で近衛たちの準備を聞いてくれ。ニコライは……」

「準備は整っています。リリーさんに手伝ってもらって後方支援はできますから!」

「それなら、私も行くわ!アンナリーゼ様のドレスだけでなく、コーコナの生地は

 今では、社交界でなくてはならないのですから……」

「ナタリーはまだ、こちらにいて欲しいの。紹介したい人もいるから……だから、

 今日は残ってちょうだい」

「……わかりました」



 ナタリーは私のお願いしに寂しそうにしているが、今回は仕方ない。こちらで、クーヘンと今後の話をしてほしいとお願いすることにした。



「ジョージア様は、今の話を公へ報告してくれるかしら?ちゃんとした報告について

 は、現場を見てから、私の謁見の日に合わせてするから……」

「わかった。今晩にでも、早速、行ってくる」

「そうそう、これ、渡しておいて。融通をきかせてくれた賄賂」

「『赤い涙』?」

「そう。これ、少々はいうことを聞いてくれるでしょ!あと、公妃様の件もある

 から、そのことの打ち合わせも軽くしてくれると助かるわ!私はなるべく、謁見

 では、領地の報告と貸してくれている近衛や文官の話をしたいと思っているから……」

「わかった。任されたよ」



 一息に話をすると、さすがに疲れたな……という意味で、ひとつため息をついた。

 それは、みなが気遣ってくれるのだが、私の疲れなど、誰かの命に比べたらとみなに微笑む。



「ニコライ、支援について、教えてくれるかしら?」

「元々、近衛に充てるつもりだった、コーコナ領の小麦については、段取りがつき

 ました。あと、住む場所なんだけど……アンバー領と違って、空き家が少ないんです」

「空き家が少ないか……」

「近衛なら、テント生活でも一応1ヶ月は大丈夫だけど……さすがにそれ以上と

 なると、しんどいはずだ。肉体労働ならなおさら、ベッドで寝かせてやりたい

 ところだな」



 そうだよね……と呟くと、領地の屋敷を解放することはできるか考える。

 ただ、領地の屋敷からだと……多少、現地から遠くなる。



「領地の屋敷からの交通手段か……」

「そうだ!エレーナに連絡取るわ!専属で半年間の輸送契約を結ぶ。近衛たち、

 荷台で輸送されても文句とか言わない?いうかな……?」

「荷馬車で輸送か……いいんじゃね?別に貴族対応してくれっていうやつらが

 いたら、それはそれで、問題だし……新兵なら、むしろそれくらいの環境下は

 味わっておくべきだろうしさ!」



 私の提案にニコライが頷き、手配を頼むことにした。

 エルドアにいるエレーナの運輸業は、私も多大な資金提供をしている。実のところ、ハニーアンバー店の関係で利用もしているのだが、格安で対応してくれているのだ。

 今では、運輸業が結構な需要があるようで、貴族ながらに忙しくしている……そう、手紙にも書いてあったことを思い出した。



「エレーナ様なら、先日お会いしました。アンナリーゼ様の何かお手伝いをもっと

 出来ないかと相談を受けていたので……お願いしてみましょう!私から連絡を……」

「いいえ、ニコライ。私から手紙を書くことにするわ!できれば、会いたいわね……」

「エルドアと社交の季節が少しズレています。謁見の終わったすぐなら、たぶん、

 時間的に会えると思いますよ!」

「わかった。それも、含めて調整をとるわ!」

「では、直接、エルドアへ向かいます!その方がいいでしょう!エレーナ様と

 こちらの中間点で落ち合うと言うのはどうでしょうか?」

「えぇ、そうね。そうしましょう!」

「アンナ、エレーナって……双子の?」

「えぇ、そうですよ!ジョージア様もよく知っている人物です」



 俺も?と考え込むジョージア。知らないわけはないだろう。義姉であるエリザベスの侍女だったのだから……



「そんな女性は、記憶にないな……」

「そうですか?エリザベスの侍女ですよ!」

「それなら……確か、ニナって名前じゃなかった?」

「まぁ、いろいろあって、今はエレーナって名乗っています。侯爵家に嫁いで運輸

 業を生業に収入を得ていて、私たちも大変お世話になっているのですよ!」

「本当?全然、知らなかった……」

「でしょうね。あんまり、たくさんの人は知らないことですから……」

「ウィルたちは知っているの?」



 疑問に思ったことが口から出たようだ。

 それに苦笑いをするウィルとセバス、ナタリーにニコライであった。

 四人については、事情を知っている。むしろウィルたちは深く関わってくれたのだ。

 懐かしいなと思っていると、セバスが懐かしいとこぼした。



「僕たち、まだ、学生の頃ですよね。エレーナの実家まで馬で行きましたね」

「セバスが馬に乗れなくて、練習もしましたわ!」

「本当本当。俺、領地の屋敷に来たときもついて行ったんだよね。ヘンリー様も

 ついてきててさ……

 あの空気は、なかなかなぁ……『ニナは、死にました』だもんな?」

「懐かしいわね!ハリーもついて行くってきかなくってね……」

「なんか、すごい疎外感なんだけど……ヘンリー殿も知っているのに?俺は知らないの?」

「ジョージア様は、忘れているだけじゃないですか?」



 私は、すっとぼけて、この話は終わらせる。

 ただ、何年ぶりかにエレーナに会えるかと思うと、楽しみになった。

 ニコライのおかげで、調整してもらえそうで何よりだ。近衛のことも上手く片付きそうで、少しだけホッとするのであった。

 隣で、ジョージアがエレーナに会うときは一緒にと懇願しているので頷いておいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る