第495話 おいちーね!

「アンジェラ!」



 名前を呼ぶとアンジェラが走ってきた。その後ろを追いかけるようにレオとミアが走ってくる。



「転ばないようにね!」



 走ってきたアンジェラを抱きとめると、楽しそうだ。

 普段から走り回っているアンジェラはわりと早く私のところについた。



「ママ、こんにちは!」



 抱きついていたアンジェラは一旦離れて、ペコリと挨拶をする。

 その姿が可愛らしく、こんにちはと挨拶を交わしながら手袋をとり頭をわしゃわしゃと撫でる。

 すると、満面の笑みで抱きついてきた。

 後ろからついてきたレオとミアも挨拶をしてくる。こちらはきちんとした挨拶だ。

 畑の真ん中では似つかわしくないが、完ぺきな挨拶にこっちは私が満面の笑みで向かえる。



「レオもミアもこんにちは!二人とも完ぺきな挨拶ね!」

「「ありがとうございます!」」



 二人も褒めたことが嬉しかったのか、頬を緩めている。

 腕の中にいるアンジェラが興味を持ったらしい。もそもそっと動いてキョロキョロしていた。



「ママ、何してたの?」

「アンジェラが食べるパンを作るための麦の種をまいているのよ!

 ほら、見てごらん」



 麦の種が入っている麻袋を見せてあげると覗き込んでよくわからないわぁっと感嘆の声をあげている。

 初めて見るのだろう。目を輝かせているあたり、血は争えないとクスっと笑ってしまう。



「さぁ、ご飯にしましょうか!みなさんもご用意出来てますから食べにいらして

 ください!」



 デリアがやってきて、大きな声で畑中に響き渡る。

 みな、一様に作業をやめ、わかった!とかおうとか返事が返ってくる。

 それを聞いたデリアは頷くと先に行きますねと言葉を残し食事の準備をしているところへと先に向かう。

 用意された場所までアンジェラと手を繋ぎ歩き出す。



「ご飯楽しみねぇ?」

「アンジェラは食べることばかりね?」



 苦笑いをすると、お腹がすいたのか、いつものようにお腹をさすっている。



「今日は何かしらね?楽しみだね?」

「何かなぁ?」

「お昼楽しみ?」



 うんと頷いている。その頃には、用意された場所に着いたので、手を洗いに行き腰掛けた。

 ぽてっと座るアンジェラ。



「アンジェラ様、もう少しお行儀よく座らないといけませんよ!」



 デリアに指摘され、渋々座り直すアンジェラにみんなが目を丸くる。

 わりと自由奔放な自分の娘は、私カナタリーの言うことしか聞かない。

 リアンに優しく諭されれば、ちゃんと出来たりする。

 ふだん、デリアと関わることがないのだが、私が叱られているのを度々見ているからなのか、いうことをきちんと聞いていて驚いたのだ。



「なんだろうね……力バランスがよくわかっているのかしらね?」

「アンナ様、どういうことですか?」

「いえ、なんでもないわ!」



 私は、そそくさと目の前におかれた料理の毒見を始める。



「アンナ様!それは、私が!」



 デリアに声をかけられたが、私はいいわと自ら毒見をする。実はここに運ばれるまでに一度毒見はされている。

 ここに並んでからの毒見をデリアがしてくれると言うのだが、断った。

 私の方が毒耐性がついているので、デリアよりいいと判断する。

 デリアに倒れられると困るので、進んでしたら叱られるのであった。



「うん、食べていいよ!」

「……ママ、デリアにめっされた?」

「そうね……でも、毒があるかないかはちゃんと調べないといけないから」

「ドク?」

「体に入れたら危ないものよ!もう少し大きくなったら、アンジェラも毒耐性を

 付けるからね。ちょっと、苦しいかったりするけど……大人になってからだと

 遅いからね」

「アンナ様、それは、僕たちも?」

「レオたちも?」

「うん、そう……僕たちもつけたい!」

「……わかったわ!ウィルに話しておくわ!」



 レオの話が終わるのを待っていたのだろう。お腹をぐるぐるさすりながらスプーンを持っている。

 野菜たっぷりのスープと誕生日会のときに食べた蒸かした芋とパンが出てきた。



「アンジェラ、食べても大丈夫だよ!」



 目を輝かせて、スプーンをスープに突っ込んであむっと口に運んだ。あいている手を頬にあてむぅうと唸っている。

 美味しく無かったのだろうか……?と思ったら、逆だったらしい。



「おいちーね!」

「そう、美味しかったのね!難しい顔ををしていたから、口に合わなかったのかと

 思ったわ!」



 好き嫌いはないアンジェラが難しい顔をすることはないので、驚いた。



「最近、アンジェラ様は、本当に美味しいものに出会うと、ちょっと難しいお顔を

 することがあるんですよ!今日は、アンナリーゼ様と一緒にですし、外でたべて

 いるので、いつもよりおいしく感じられるのでしょう!」



 リアンが近くにやってきてお味は同ですか?と聞いてくれる。

 とてもおいしいわと答えると、リアンはクスっと笑う。

 アンジェラの食欲を見れば一目瞭然だった。

 おかわりもありますから、言ってくださいねと言葉を残し、配給の手伝いに行ってくれた。



「アデルが今日の護衛?」

「そうです。アンジェラ様たちのですけど……」

「うん、よろしくお願いね!」

「しかし、あの、アンナリーゼ様にこういうことを言っていいのか迷ったんですけど……」



 ん?と首を傾げると、オロオロっとしながらアデルが話始めた。



「あの、領民たちと馴染みすぎじゃないですか?服装とか……アンジェラ様たちが

 走っていかないとわかりませんでした」

「そう?そう言ってもらえて嬉しいわ!アンナちゃんは、ふふ、この領地のお転婆

 娘なのよ!」

「アンナ様は、どこでも同じです」



 デリアの一言で笑いが起きる。聞き耳をたてていたらしい領民も楽しそうに食事が出来ているようで何よりだ。

 ママという声にアンジェラを見ると空になったスープ皿を私に見せる。

 おかわりが欲しいようである。

 デリアにお願いして2杯目のスープを嬉しそうに食べている。


 幸せそうな食卓を囲んだとこんな話をしたら、ジョージアは、何故俺がいないときにするのかと嘆くのが目に見えてきた。

 ジョージアとジョージも連れて、ピクニックに出かける……そんな時間も作らないとなと考えるのであった。


 さぁ、食休みが終わったらまた種まきだと思っていたら、ぱさっと麦わら帽子を頭に乗せられる。

 被ってくださいねとデリアに言われ、親子お揃いの麦わら帽子を被るのであった。

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