第428話 お手の早い子爵にはご用心Ⅲ

「次は、お店の話?」

「えぇ、そうですね……あのお店は、一体何なんでしょう?」



 明らかに疲れてきているエールにお茶のおかわりをさせて落ち着かせる。



「いっきに話したつもりはないけど、結構、飛び回っていろいろとしてきたから、

 聞く方は大変よね。また、の機会でもいいのだけど……私、年単位で領地に引篭

 もることにしているから!」

「それは……社交界はいいのですか?」

「エール程、足しげく通う必要はないわ!公が主催するものだけに参加すれば事

 足りる。

 あとは、私の目となり耳となり足となってくれる信頼できる協力者がいれば、

 なんの問題もないよ!」

「なるほど……それでも、社交界を離れることには不安はないのですか?」

「ないわ!だって、私は、領地を駆け回っているほうが性にあうもの!」

「社交界の華が、これじゃあ、形無しですよね……」

「あら、ウィルだってそうでしょ?正装して夜会に行くのはウンザリしているじゃ

 ない!」

「確かに……私にとって、それほどいいものではないですしね……何処かのお姫様の

 情報源なだけですし……できることなら、行きたくはないですよね……」



 非難がましく私の方を見てくるウィル。



「なるほど、ウィル様も夜会では女性たちと一緒にいるところを見ていますが……

 アンナリーゼ様への貢ぎ物のために参加ということですか……」

「なんか、それって、私が神話にでも出てくる吸血鬼か何かみたいね!女性からの

 貢ぎ物って意味で」



 ちょっと怒ったように話すと、二人ともが笑いだす。

 確かに若い女性からの情報源は侮れない。口が軽いという意味ではとても助かるのだ。

 これは、ウィルがあっての人誑し作戦ではあるのだけど……



「アンナリーゼ様は、あまりそういった情報収集はご自身でされてませんよね?」

「うーん、夜会ではね。基本的に私の情報の取り扱いは、機密事項が多かったりする

 から、私が表だって動くとまずいことも多いのよ……

 それに私だけでなく、アンバー公爵家がいろいろとやらかしすぎているから、注目

 度が高すぎて……」

「あぁ、伝説の夜会のようなことがおこるということですか?」

「伝説の?」

「実際見ていないですけど……一人で夜会に参加された日のことは、ローズディア

 では、伝説の夜会と呼ばれていますよ!あれほど、男性陣を虜にする人が、ローズ

 ディアには今までいませんでしたからね。みんな、アンナリーゼ様とお近づきに

 なれるチャンスだと思っていたのでしょうけど……この私も含めて」

「そうなのかしら?トワイスでは、あれが普通だったからなんとも思わないわ!」

「あれが、普通なのですか?」

「えぇ、普通なのよ。だから、殿下が側にいたとしてもあれくらいの人だかりはいつ

 もできるのよね……」

「私はトワイスの夜会に行ったことがないですけど、見ものでしょうね?」

「なれたものだから、わからないわ!

 あっ!お兄様に言っておきましょうか?エールへ夜会のお誘いしてと」

「さすがに、トワイスまで遠征は……しかし、夜会であれほどの華と称されていて

 も、領地で駆け回っているほうがいいという気が知れませんね?」



 本心から不思議そうにしているエールがおかしくてクスっと笑う。



「私の人となりをきちんと知れば、自ずとわかってくるものよ!」



 私をじっと見つめるエールに微笑んでおく。きっと、エールにはわからないだろうという思いからだ。



「そういえば、アンナリーゼ様のお話がおもしろくついついいろいろ聞いてしま

 いました。あと疑問に思ったことは、また近いうちに聞くことにして……」

「えぇ、いいわ!いつでも来てちょうだい!」

「言質はとりましたから、本当にいつでもきますよ?」

「えぇ、構わなくてよ!それで?」



 コホンと咳ばらいをしてエールが私に向き直る。



「先日、お話がありました貝殻についてなのですが、一体何に使われるのですか?」

「何って、いろいろよね?それを言わないといけないかしら?私は、他の人が思い

 つかないことをやって、ほくそ笑みたいの。

 だから、ゴミをちょうだいと言っているのだからよくなくて?」

「はい、まぁ、貝殻については、殆どがゴミと化してしまいますので、引き取って

 いただけるのであれば、ありがたいのですが……」

「深く考えないことね。私と付き合っていくのであれば、あまり考えすぎると、結局

 答えなんて出ないわよ!いただけないのなら、他にも考えないといけないから……」

「いえ、連絡をいただいてから、レストランや兵士たちの家族に問いかけてかき

 集めました。今日、お持ちしているのですが、本当にゴミなので申し訳なく思って

 しまって……」



 恐縮しきったエールに私はいいのよ、それでと声をかけた。



「それで、今日はどれくらいかしら?」

「荷馬車3台分です。これで、ゴミが減らせたのでとても助かります」

「そう、ありがとう!ところで、今回だけで無くて、定期的にいただくことは可能

 かしら?例えば……5年ほど継続的に」

「それは、可能でしょうけど……領地には、集めて置く場所がないのです」

「それなら1週間に1度、石切の町へ持って行ってくれるっていうのはどう?

 ここよりは近いし、1週間に1度なら荷馬車1台分くらいでしょ?」

「確かに……それなら、任せてください!妻にそう伝えておきます」

「でも1週間で荷馬車1台分って、相当貝を食べるのね?」

「えぇ、貝と一口にいってもたくさん種類もありますし、食べ方もたくさんあるの

 で、だいたい、どの料理にも貝は欠かせないですからね!」



 なるほど。海がある領地は、海鮮があって然りな食卓事情なのかと、考えた。

 美味しそうよね……とか考えてしまった。



「エールの領地は、海鮮以外にも作物も豊富なの?」

「作物ですか?海に近いですからね、塩害とか、まぁいろいろあるので、基本的に

 小麦などいつも食べる分については、領地外から買っていることも多いですね。

 そうすると、輸送料だけで毎年領地が傾きそうですよ……」



 しめたと思った。

 買い付けをたとえばアンバーでしてもらえば、逆にアンバーも魚介が仕入れやすくなるんじゃないかと思ったのだ。

 ただ、領地またぎぐらいならまだしも、国が違うわけで、そのへんどうなんだろうと考えてしまった。

 提案してダメでしたでは、示しがつかないので、まずは、セバスに確認が必要だ。



「ごめんなさい、少しだけ待っていてくださる?」

「えぇ、お待ちしていますよ!女性の待っていてなら、いつまででも」

「おじょうずね!」



 ふふっと笑って私はノクトの手を借り席を立った。

 そのまま、セバスたちが使っている執務室へと急ぐのである。

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