第410話 次へ確認

「そろそろ公都での仕事は片付いてきたかな?」



 私は、読んでいた書類を纏めトントンと揃えているところだ。

 そんな私の方へと顔をあげながら、不満そうにこちらを見ていた。



「そうなの?」

「えぇ、ニコライの報告を待って終わりかなと思ってます。

 私、それだけ終わったら……アンバー領へ戻ろうかと思っているのです

 けど……」



 執務机で作業をしていると見える骨壷を見ながら、ジョージアに次の予定を告げる。

 カルアもずいぶん待たせてしまっているのだ。

 そろそろ家に……家族の元に帰してあげたい。

 私の視線の先に気付いたのか、ジョージアも骨壷に視線を向ける。



「カルアか……もう、長いこと経つんだね。

 そろそろ、家族の元に帰してあげないと可哀想か……」



 曖昧に笑うと、ジョージアが大丈夫?とこちらに近づいてきた。



「私は、大丈夫ですよ!ジョージア様こそ、大丈夫ですか?」

「……あぁ」

「大丈夫じゃないことくらいわかりますから、いいんですよ!泣いても私を罵って

 も。私とカルアは主従の関係でしたけど、ジョージア様とソフィアは、私が切ら

 した縁ですからね。その権利はありますから!」



 ジョージアの手が私の肩にそっと置かれる。



「アンナと生きるって決めたから、ソフィアにしてあげられることはもう何も

 ないよ」

「ときどきは、ソフィアのことを思い出してあげてください。

 形は違えど、ジョージア様のことをソフィアも想っていたでしょうから」



 肩に置かれた手にそっと重ねるように手を置くと小さな声で聴こえてくるジョージアのありがとうの言葉に胸が締め付けられるようだった。

 しんみりした空気を払うようにジョージアが、今日の次の話を振ってくる。



「少ししたら、ウィルたちがくるそうだけど、帰る予定の打合せ?」

「そうですね!領地へは、アンジェラも連れて帰ることになるので、万全の体制

 じゃないと……私、向こうで出産予定ですけど、いいですか?」

「いいよ!予定ごろになったら、ジョージとそっちに向かうことにするよ!」



 今度は、付き添うからねと笑うジョージアに私も笑顔で応えておく。



 話が終わった頃、ディルにウィルたちがきたことを知らせてもらった。

 どこに案内するか聞かれたので、執務室に通してもらうことにする。



「じぁあ、俺はレオたちを連れて、アンジーの部屋にいるから、何かあったら

 教えて!」

「わかりました!子どもたちをお願いしますね!」



 あぁと言葉を残し、ウィルたちと入れ違いにジョージアが執務室から出て行く。

 扉の向こうでレオやミアと話しているジョージアがチラッと見えた。

 レオもミアもジョージアに何事か笑いかけ話しているようで、ほわっと笑うジョージアが、子どもたちの相手をすることが嬉しそうにしているので私の心もほわほわする。


 こんな未来がくるとは……幸せな気持ちになる。

 お腹もほっこり温まった気がした。



「よぉ!姫さん、久しぶり?」

「ウィル、ナタリー、セバス!ようこそ!座ってちょうだい!」



 私が三人を迎え入れると、みなそれぞれ挨拶だけして、いつもの席に座った。



「ノクトは?」

「ニコライに何か相談受けてる」

「そぅ、じゃあ、後からでもいいわね!」

「で、今回は、何?」



 ウィルは、察しはついているが、わざわざ聞いてくるのには確認の意味もあるのだろう。



「うん、そろそろ、領地に戻ろうかと思って。

 ニコライの方も落ち着いてきたかなって判断したんだけど……」

「確かに、毎日、人が入ってるって話だな!

 庶民向けの服の売れ行きがいいらしい!貴族も買っていくって聞いて、俺、

 驚いたよ!」

「それは、確か、アンナリーゼ様も着ていると噂がたったからですわ!

 この前、ジョージア様と公都のどこかへお出かけされたと聞いてますけど、たま

 たま見かけた人が広めたらしいですね!」



 なるほど、噂話が好きなのは、何も貴族だけではない。

 庶民も好きで、よく買い物ついでに集まって噂話をしている光景をよく見た。



「えぇーそうだったの?

 それなら、私、もっとナタリーに作って貰った服を着て出歩けばよかった

 わ……」

「仕方ないですよ!誰もそんなところまで見られているだなんて思っても見ない

 ですから、でも、そんなふうに公爵アンナリーゼという広告塔は、大きく取り

 上げられているのですね!より一層、着る服には気を付けてもらわないと……」

「ボロを着て歩くなってことね……善処するわ!」



 ナタリーは軽く頭を振って、善処ではなく、気を付けてくださいと私を窘める。



「んで、いつ戻るんだ?」

「準備もあるから……1週間後か2週間後くらいかなって……ただ、あんまり遅い

 と」

「出産の関係ですね!僕たちでは、対処できないですからね……間をとって10日後

 の出発としましょう!」

「じゃあ、準備をお願いね!デリアやリアンに伝えておくわ!」

「俺らも準備は整えておくわ!で、姫さんにひとつお願いがあるんだけどさ?」

「何かしら?」



 ウィルからのお願いは滅多にないので、聞き入れられることならと思い聞き返す。



「領地に帰る前に、訓練場に一緒に行ってくれないか?その、エリックがどうして

 も会いたいと……あと、レオたちもエリックに会いたいと言っているもんでさ」

「いいよ!いつ行く?私、準備って言っても、デリアがきちんと揃えてくれるし、

 むしろ私がいると邪魔になるから……出かけている方がいいと思うんだよね」

「じゃあ、姫さんの体調見ながら、明日ってことで!」

「わかったわ!ジョージア様も連れて行っていいかしら?アンジェラも連れて

 いきたいし、そうなると、ジョージもってなるから……」

「ご家族揃ってどうぞ!」



 私は久しぶりの訓練場に胸を躍らせる。

 アンナリーゼ杯が終わってから、忙しくてなかなか足を運べていなかった。

 なので、剣は握れないが楽しみである。



「エリックか……もう今手合わせしたら、勝てないわよね……戴冠式見た?

 胸板が厚すぎない?どうやったら……あんなに鍛えられるんだろう?」

「エリックは、筋肉がつきやすい方だからなぁ……あれだけは、羨ましい。

 おっさんもだけどさ?なんで、あんなに逞しいわけ?」

「ウィルだって、あるでしょ?」

「そりゃ、鍛えてますから?なかったら困るけどさ?あの二人は、なんていうか、

 異常じゃん!」

「誰が、異常だって?」



 そこに乱入してきたノクトとニコライが扉の前で苦笑いをしていた。



「遅れてすみません。ノクト様に聞いてもらいたい話があったので……」

「全然いいわよ!私たち時間を決めて集まったわけじゃないから、気にしない

 で!」

「んで、何話してたんだ?」

「おっさんとエリックの胸板が異常だって話をしてたわけ。

 どうやったら、そうなるの?」



 ウィルが不躾にノクトのを触っている。



「鍛えれば……と言いたいところだけど、ウィルの筋肉とはちょっと違うからな。

 堅くて大きくて見栄えのする胸板が俺だとしたら、ウィルの筋肉はしなやかだ

 からな、誇張しにくいんだろ。

 自分の戦闘に合わせた体つくりをしていけばいいさ!ウィルは、その点抜かり

 ないだろ?

 息子もどっちかっていうと、ウィルの方の体質だから体捌きの基礎は、ウィルが

 教える方がいいだろう」

「そっか、わかった!ありがとな、おっさん!」

「で、何がどおなっているんだ?」



 私を見ながらノクトは状況を教えてくれという。

 座ってもらい、説明を始めた。



「まず、領地へ戻ろうかと思っているの。10日後の出発で考えているわ!

 特にニコライに問題がなければ、なんだけど……どうかしら?」

「えぇ、問題はありません。欲しかったものや小物も入ってきていますし、お客も

 途切れることもなく問題も今のところは何も出てません!

 キティが先日、マカロンの作り方を覚えたと言ってまして、試作品としてお持ち

 しました。良ければ、店で出したいのですが……」



 私は、差し出されたマカロンに手を伸ばす。

 その前にナタリーが先に毒見をしてくれた。



「とっても美味しいですわね!これなら、私買いたいですわ!」



 ナタリーも絶賛のマカロンは、確かに美味しかった。この前、ジョージアと一緒に行ったお店の味によく似ている。



「これは、公都にあるお店の味とよく似ているわね!」

「よくわかりましたね?喫茶店の店主に教えてもらったそうです。キティは、友達に

 なったと喜んでいましたよ!」



 なるほど……お菓子作りという共通点で、仲良くなったのだろう。

 店主の優しそうな顔を思い浮かべた。



「それで、まだ、何かあるんだろ?さっきの話からして」

「えぇ、明日なんだけど、訓練場に一緒に行ってほしいの!エリックとの手合わせ

 して欲しいんだけど……私、見てみたいわ!」

「行きたいのは、山々なんだが……」

「何か予定でも?」

「明日は、ノクトさんと一緒にコーコナへ行ってもらう予定だったんですよ。

 そういうことでしたら、日を改めましょうか?」

「うぅん、お店の関係でしょ?そちらを優先して!ただの興味本位だけだから!

 コーコナへ行くなら……お願いが1つあるのだけど、いいかしら?」

「子ども用の肌着をね……まだ用意できてないことを思い出したの」

「そのお腹の子の分ですか?」

「うん、アンジェラのときのももちろん使うんだけどね……少し足りないねって

 話をしていたから、それ用に仕入れてきてくれないかしら?」

「わかりました!アンナリーゼ様が出立される前には戻ってきますから、そのとき

 にお渡しできるようにします!」



 ありがとう!とニコライにお礼をいい、明日のお出かけが決まった。

 ジョージアへ明日のことと領地へ行く話をしておかないといけないという話になり、今日のところは解散となった。



 私はみなが帰ったあと、ジョージアとデリア、ディルに今後の話をし、それぞれに今後の仕事を任せることになったのあった。

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