第395話 領地周遊

 領地での領主及び領地名の発表を終え、私たちは領地を一周して公都の屋敷に戻ることにした。

 公都から一緒に来たみなとニコライを連れ、朝早くから馬車で出発した。


 まず、向かう先は、布工場である。

 ここが、この地でも大きな要の役割を果たすことになっているので、公爵としてちゃんと挨拶が必要だろう。

 今日から2日間は、公爵仕様で領地を回ることになった。



「こんにちは、工場長」

「い……ようこそ、いらっしゃいませ!公爵様」



 私の顔を見て引きつっている可哀想な工場長に私は笑いかける。



「そんなに緊張しなくても大丈夫よ!

 この前、来たときみたいな感じで、どこかのご婦人程度に扱ってちょうだい」

「そういうわけには……」



 仕方ないので曖昧に笑っておくことにした。

 そして、私からの提案も持ってきているので、話し合いの場を設けてほしいというとすぐに場所の提供をしてくれる。



「あの……それで……前回は大変失礼なことを申し上げてしまい……

 お金までいただいて……申し訳ありません……」

「一体、何のこと?

 対価として払ったものなのだから、別に申し訳なく思ってもらう必要はないわ!

 それより、ニコライからも話をさせてもらっていたと思うんだけど……」

「あの、それなのですが……」

「ダメかしら?」

「いえ、大変、ありがたいお話すぎて、もう、判断がつかず……」

「うーん……働く環境は今と変わらないの。

 こちらに、人を置いて、服とか布製品に関するひとつの工場ととして、場所の

 提供してもらえないかしら?

 あの、布がたくさんあった倉庫の隣って……空いてるって聞いているのだけど」

「えぇ、あの場所は空いてます。あんなところでよかったですか?」



 恐縮しきっている工場長には悪いが、30人程度の人と作業台が入れる場所があれば十分だ。

 なので、予備倉庫として使われていない場所があるなら、そこを借りれればいい。

 布製品だから、あまり光が当たって、色あせてしまうとせっかくの商品価値も下がるが、北側であるあの場所なら、窓があっても日が当たらないから大丈夫だろう。

 ただ、冬は寒いかもしれないので、そこは、考えないといけない。



「では、あの場所をお貸しします。というか、この工場をアンナリーゼ様の傘下に

 なるというお話でしたね?」

「そうなの。私の傘下に入ってもらって、ハニーアンバーというお店で、ここで

 作った服や布製品を売ることにするわ!

 主には貴族や富豪の妻や娘を対象に考えてはいるけど……男性物の得意な子も

 いるからそちらも作るつもり。

 あとは、領民向けの服も作るわ!なるべく安価で、着やす服をこちらは考えて

 いるの。領地での販売を考えてはいるのだけど……他の領地へ展開出来ないかは

 ニコライの腕次第ね!」



 後ろにいるニコライに笑いかけると、既に何領かには話が通っていると返事が返ってきた。

 さすが、未来の大商人は仕事が早くて助かる。

 同時開店を考えているお店のことを考えても、なるべく多くの品を作りたいところではあるので、今、アンバー領では、この前購入した布で、どんどん服が作られているところだった。



「この地に、レタンという者がいることは知っているかしら?」

「あぁ、はい……」

「あまり、いい相手ではないのね……しっかり、脅して置いたから、もう大丈夫

 だと思うんだけど、ここに出入りすることは許可を出しても大丈夫?」

「えぇ、いいですけど……性根が腐っているので……」

「たしかに……でも、目は確かよね?」

「そうなのです……」

「ここには、コーコナ以外の布地も集めることになるから……ごめんね」

「いえ、服を作るのであれば、それは仕方のないことですね。

 レースや質感の違う布地はよそからでないとないですから……今日、着ていた

 だいているのは、こちらのですか?」

「そうよ!ここの布地とあとは絹糸でレースを作ってあるの。

 着心地がとてもいいのよ!」



 ありがとうございます!と顔を綻ばせる工場長。

 工場長もここの布には、もちろん力を入れているのだ。

 その顔を見ただけで、誇りを持って仕事をしていることがわかる。



「それじゃあ、今後ともよろしくね!」

「わかりました。またのお越しをお待ちしております!」



 私は、工場長の顔を見て微笑み、次なる綿花農家への向かうのであった。



「話、まとまって良かったです」



 ニコライがホッとしているが、ニコライが下準備してくれているおかげもあるのだろう。

 あとは、私が出向いているから断りにくいというめんもないないことはないと苦笑いしておいた。



「次の綿花農家は、多少しぶってはいますからね……今後のためにも傘下に入って

 もらえると助かるのですけど」

「そうなんだ?まぁ、貴族に期待していないって話してたものね……

 コットンは私の正体をすでに知っているから、今日の訪問でどんな答えをくれる

 か少し怖いわね……」

「確かに、でも、渋ってはいても、領地主導になるのと、自分たちだけで運営する

 のとでは、違いますからね。

 働き手を考えたら、自ずと協力してくれるのではないかと思っています。

 あっ!見えてきましたね」



 ニコライに言われ、私は馬車なの外を見る。

 ちょうど収穫時期に当たるのか、白いわたのようなものを収穫しているのがちらほら見えた。

 目ざとく馬車を見つけてくれたのか、コットンがこちらにやってきてくれた。



「アンナリーゼ様!」

「お久しぶり!」



 私はノクトにお願いして馬車から降ろしてもらい、収穫作業を遠くから見せてもらっているところだった。



「また、こんな遠くまで来ていただけたんですね!」

「うん、今日は、お願いをしに来たのだけど……ちょうど収穫時期だったのね。

 忙しいときにきてしまったのね……」

「本格的なものは、もう少し秋が深まってからです。あわてんぼうの綿花だけを収穫

 しているところですよ!

 ところで、お願いというと……例の傘下への話ですか?」

「えぇ、そうね」



 私は、それ以上は何も言わなかった。

 何か、コットンが言葉を言おうと口の中で、モゴモゴしているような気がしたので、待っていることにした。



「アンナリーゼ様、お受けしようと思っています」

「理由は聞いても?」

「まず、領地主導になるということは、領主となられたアンナリーゼ様の協力が

 得られること。

 ヨハンという方にあったときに、研究者を何人かアンバー領へ学都から連れて

 くるというお話をきいたので……もし、協力していただけるなら、品種改良の

 手伝いをと思いまして……」

「えぇ、それは、もちろんよ!

 コットンだけでなく、私たちにも利があるのだから。他にもあるのかしら?」

「……領地名です。コーコナは、蚕の繭のことを指しているのでしょ?

 祖父が養蚕をしているのですが、アンナリーゼ様に出会ってから、人が変わった

 ように良く笑うようになりました」

「私というより、タンザね。

 蚕の繭を大きくすることに成功しているのよ!長年、色々な品種改良をしていた

 ようだけど、タンザの研究が役にたったのと、順調に育っていることが嬉しい

 みたいね!」

「そうでしたか……繭を領地名にしたからには、布や糸へ力を入れてくれるのでは

 と、考えたんです。確かに、傘下に入ってほしいとは言われたけど……

 それだけではと……

 工場長のところは、資金提供のお願いをしたと言ってたので、うちもできればと

 思っていたところ、それよりも、研究者が品種改良を手伝っていただける方が

 いいなと」

「資金提供もできるだけするつもりよ。

 アンバーに比べれば、コーコナは何もかもが揃っているからね!」



 私はニコッと笑いかけると、苦笑いのコットン。

 手を差し出す。



「これから、領地のために私の手を取ってくれるかしら?

 悪いようにはしないわよ!」



 再度笑いかけると、喜んでとコットンは私の手を取ってくれた。

 交渉成立。

 さて、これで、この領地の産業基盤である綿花農場をおさえることができた。

 あとは、タンザのいるところだが……あそこは、もうすでに答えをもらっている。

 なので、今回は行かないことになっている。


 とりあえず、まわらないといけないところは回ったな……と考え、公都の屋敷目指して帰るよう指示を出す。


 公都までは、1日半馬車に揺られないといけないので、途中で宿を取り、翌日再出発をした。



 馬車の中は、セバスとニコライが一緒に乗っているので、ずっと、コーコナでの話を聞いたり提案したりをしている。

 領地の執務室に籠っていいたときよりずっと楽しかった。

 私、こんなにも誰かに領地の未来を語りたかったのかと思うと、自然と微笑む。



「アンナ様、どうされたのですか?」

「うん、私、セバスやニコライと領地の話をするのがとても楽しいなって!

 どんなふうに変わっていくのかしら?アンバーもコーコナも。

 楽しみ出仕方ないね!」



 私の言葉に頷きながら、セバスとニコライも領地改革や今後の夢を語る。

 そんな時間が、優しく過ぎた頃、公都の屋敷へとついたのであった。

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