第279話 元将軍、公都へ連行

 サラおばさんから了承を得られたことをヨハンへの手紙として書き、リリーに言って人を割いてもらい、肥料をヨハンのところへもらいに行って、その足でサラおばさんを手伝ってくるようにお願いする。

 私の指示に素早く動くリリーをノクトは感心しきっていた。

 ノクトの連れてきた農民も一緒に手伝いに行ってくれたようで、私はこれで成果を待つだけとなった。

 ちょうど、それらを片付けたころに、領地にいられる期間が過ぎたので、今日は公都へ戻ることになった。



 領地から公都へ向かう馬車の中、私とノクト、ジョーとデリアが一緒に馬車に揺られる。

 ジョージアとイチア、リアンは後続の馬車に乗り込んでいる。



「それで?俺は、アンナの後ろについていくだけでいいのか?」

「そうね、とりあえず、それでいいと思うわ!悪いのだけど、その日、イチアは置いていってね!」

「あぁ、それは一向にかまわないが……俺、面が割れているのに、城の中なんて歩いて大丈夫なのか?」



 意外と心配性なのか、ノクトは私に聞いてくるが、私も知らない。

 とっ捕まえるつもりなのかなんなのか……公の真意は私がわかるわけもない。

 でも、ノクトに胸を張って言えることはひとつだけだ。



「何があっても配下になってくれたのだから、守ってあげるわよ!」



 私は、ノクトに向かって言い放つが、未だにグズグズと何か言っている。

 隣に座っていたデリアが、それに苛立ちを爆発させた。



「ノクト様……いいえ、アンナ様の従者になったなら、ノクト!

 アンナ様が、わざわざ守ってくださると言っているんです!何が問題なのですか?」



 横に座っているおかげで、デリアは見えないが、その雰囲気でとても怒っているように感じる。

 ノクトのことを紳士だ!と言っていたにも関わらず、事私が絡むとこういう風に誰にでも怒気を含ませるのはよくないな……と心で呟いたが、デリアもなかなか怖いので言わないでおく。

 犠牲になるのは、ノクトだし!

 ちょっとくらい、デリアに叱られてもいいだろう!

 私の配下になるということは、デリアに逆らわないということだ!としっかり心に刻めばいいと思うよ!うんうん。寧ろ、私もデリアには逆らえないでいるのだから……

 よっぽどじゃなければ、私はこの件に関して、見過ごしてしまおう。



「しっかしよぉ?俺も命かかってるから、心配なんだわ!」

「あなたの首が胴から離れるくらい私たちにはなんの支障もありませんし、アンナ様が守るって

 言ってくれるなら、必ず守ってくださいます!

 だいたい、それくらいのことで怖気づいているって、本当に将軍だったのですか?情けないですね。

 どうしてこんな人を従者にしたのですか!」



 見過ごそうと思っていたのに、とばっちりだよ……と、心の中で愚痴りながら、デリアに苦笑いする。

 デリアって、本当に私のこと信頼してくれているのが今の言葉の端々からわかる。

 でも、酷い言われようだな……ノクトも。

 とばっちりを受けたので、フォローもしつつ、少し窘めておこう。

 上位者がこういうときに口をきちんと出すことも大事だとお母様からこっぴどく言われている。



「心配は、無用よ!

 ノクトのことは、ちゃんと守るわよ!首と胴もちゃんとつながった状態でね。

 それにデリア、少し言い過ぎね。

 ノクトは、アンバー領にこれからかなり貢献してくれる存在になりうるのだから、それほど邪険に

 しないでちょうだい。その気持ち、わからなくはないけど……」



 はぁ……と、ため息が漏れる。

 デリアが小さな声ですみませんと謝るので、ぽんぽんっと肩を叩く。

 理解してくれて何よりだ。



「それにしても、ノクトを公都へ連れていくだなんて……さながら公都への連行ね?

 元将軍も、形無しだわ!」

「形無しはひどくないか?

 アンナの従者になったのだから、元将軍はもう捨ててもいいんじゃないか?」

「必要でしょ?

 練兵してもらうのに、元将軍の肩書は、必よ……ないわね!

 その腕っぷしだけでなんとかなりそうよ!

 それに、中隊長のウィルもいるし。

 一応、ウィルの方が、爵位持ちだから、それなりに敬ってあげてね?警備隊の前だけでいいから!」

「あぁ、そうだな。その方が、いいだろう。

 ウィルのやつの嫌がる顔も見れて、おもしろそうだ!」

「たしかに……嫌がるでしょうね?まぁ、そこは、仕方ないじゃないね?」



 私とノクトは、ウィルを思い浮かべニタニタと笑う。

 私たち、三人とも実は似た者同士なのだ。

 どういう風にかっていうと、仲の良いものをいじるのが大好きで、いじられるのが大嫌いで、でも結局笑いにしてしまえば……ため息をつきながらでもいいことにしてしまうあたりが似ている。

 そのなかでも、1番の大雑把なのは、圧倒的に私で好きなことを言っているのだけど……

 友人が離れていかないことを考えると、私、人に恵まれているわね、と改めて感謝する。



「それにしても、アンナの下にも友人にも結構いい人材が集まっているな?」

「でしょ?私、それが自慢なのよ!

 今の面子をみて、絶対絶対アンバー領を公国一の領地に変えられると信じているのよ!」



 ノクトに笑いかけると、あぁと返してくれた。

 公や公世子お墨付きの領地にしてみせるわ!

 なんたって、本当にいい人材が集まっているのだもの。

 この上に、父が育ててくれたフレイゼンからも研究者はやってくるのである。

 それを受け入れて、やっと私の領地改革メンバーが揃うのだ。

 まぁ、何人かは突発的に手に入った人材ではあるけど、嬉しい誤算だと思っている。



「それにしたって、住むところがまず必要だな?何軒か、建てるか?」

「それなのよね……領地にも別宅があるんだけど、そこを学校にしようとしているの。

 だから、その周辺を学都の中心地と考えてはいるんだけどね?」

「なるほどな……まぁ、それは、領地に帰ってからじっくり考えるとしようか」

「えぇ、そうね。目下の公爵位をもらう方が先だし、ウィルやセバス、ナタリーの確保が必要なのよ!

 そうだ、帰ったら、ナタリーに手紙を出してほしいんだけど……引っ越し準備をそろそろしてほしい

 のよね」

「畏まりました。

 では、私の方からお手紙を出させていただきます。

 アンナ様は、明日の準備もございますので、そちらを優先してください!」



 自分で進んでやろうと思っていたのに、デリアに先に言われて、お願いねというしかない。

 なので、任せてしまった。




◆◇◆◇◆




「おかえりなさいませ、アンナリーゼ様」

「ただいま!ディル。さっそくなのだけど、客間の用意をお願いできるかしら?」



 私の後ろから降りてくる大男に一瞬怯んだが、すぐさま手配をしてくれる。

 うちの侍従っていつも思うけど優秀ねと思っていたら、声を大にしてノクトが言ってくれる。



「よく統制の取れた侍従達だな!さすが、アンバー公爵家だ!」

「お褒めにあずかりありがとうございます!」

「では、客間への案内に少しお時間をいただくので、まずは、こちらに……」



 デリアがすかさず応接室へと案内する。

 本当によくできた侍従たちに感謝だ。

 少し落ち着いたら、臨時お給金払わないと!そのためには、お金の捻出捻出と頭の中にメモを取るのであった。

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