第246話 夫婦で過ごす日

 玄関で別宅の執事を撃退した後、ジョージアが鳴らしたベルが聞こえたのでディルと一緒に部屋に急ぐ。




「おはよう!よく寝られた?」




 まだ眠いのか、ぼうっとしているジョージアが座っているベッドへ腰を掛け、手を伸ばした。

 そのままジョージアに引き寄せられ、おはようのキスをされる。




「もう!ジョージア様ったら!!」




 なんだか、恥ずかしくなってきて、ジョージアの背中をバンバン叩いてしまう。

 痛かったのか、なんだか涙目になっている。




「軽食の用意をしたけど、食べる?もう少し後の方がいい?」

「頂こう。アンナはもう食べたのか?」

「まだ、食べていませんよ。一緒に食べましょう。私もお腹がすきました」




 私もジョーの元へ行ったり別宅の執事と遊んでいたのでまだ食べてなくて、お腹がすいている。

 お腹すいたよという意味を込めて、私は自分のお腹をさすると、ジョージアは、クシャッと私を見て笑った。

 今は、冬なので部屋は温かくしてくれてはいるけど、上にかけるものが必要だと思い、手じかにあるガウンをジョージアに渡した。



 応接セットに軽食を用意してもらったので、二人で並んで食べることにした。




「顔色、だいぶ良くなったね。今日はこのままここにいて、ゆっくりするように」

「しかし、そういうわけにはいかない。領地の……」




 私は、ジョージアが言おうとする言葉を手で口元を抑えて言わせない。

 どう見ても、ジョージアには、休息が必要なのだ。

 わがままでも言って、休ませようと思った。



 そして、私は、ジョージアを見て反省する。

 私も、先日までこんな顔していたのだろうか?

 みんなに心配かけていたことを申し訳なく思い、もっと、周りを頼ろう、自分も大事にしようと心がけることにした。



 私、ジョージア様が側にいなかったし、領地のことを想って少し気負いすぎていたのかもしれないわね……

 今の穏やかな気持ちを考えると、ぽっかり空いた穴が何だったのか、それを埋めるために忙しくしていたのだと気づく。


 みんなは、もっと早くに私の異変に気付いていたのだろう……だから、気遣ってくれていたし、側にいてくれたのだ。

 友人や侍従たちには、感謝しかない。




「いいではないですか。たまには休憩も必要。

 ただ資料を見て唸るだけが仕事じゃないわ。

 領民を想うなら、よりよい政策を考え、豊かにし、返していかないと。

 そのための公爵が、疲れて頭が動かないじゃ困るわよ!

 私なら、そんな情報が入ってきたら、一発殴りに来ちゃうかも……」




 寝起きのジョージアに冗談で言ったつもりだったのが、どうも顔が、冗談じゃないという怯えていた。




「さすがに物騒だぞ……しかも、洒落になっていない。

 アンナは、普通にやってのけられるだろう?

 俺やうちの警備隊より、よっぽど強いのだから……」

「そんなことないですよー!!って言いたいですけど、可愛らしく守られている夫人では

 ないですねぇ……」




 尻つぼみに言うと、そうだろ?とジョージアが笑っている。




「ところで、どこに行っていたのだ?」




 私は……答えるのに、少し悩む。

 さっきのことは、言わなくていいだろう……




「子どものところにいっていたの。

 もう、お昼ですからね、あんまり顔出さないと、あの子気にするから……

 可愛いのよ、とっても!

 ジョージア様、顔が情けなくなっていますわ?

 何を考えているのやら……やらしい……」




 ジョージアに、ジョーの話をすると、顔が綻んでいる。

 昨日、初めて抱いていたのを見ていたので、きっと我が子のことを想ってくれているのだろう。

 可愛らしいので、からかうことにした。



「そなたには関係ないであろう。どこの誰を想っていようと……」

「はいはい、うちの子かわいいもんね。しかたないですよねぇ?

 将来それはそれはモテモテですよ。

 それこそ、ジョージア様以上になるに違いありません。

 ジョージア様って意外と見る目のない残念男子でしたからね……

 私というのが近くにいたのに、声すらかけないって。

 顔も成績もいいだけにもったいなかった。

 メアリーって覚えていますか?」



 反論したそうに口を開きかけたりしていたが、私は知らぬ顔して、我が子自慢から、ジョージア様のヘタレ話に展開していく。

 ただ、それじゃ可哀想なので、少し別の話に変える。

 まぁ、からかうのは続くのだけど……




「メアリーとは栗毛のおとなしそうな子ではなかったか?」

「そう!そうです。よく覚えていましたね。

 私の大親友です。

 で、よく話していたんですけど、私も薄々気づいていましたよ?

 ジョージア様が、私をチラチラと見てたの」




 私が、ジョージアをからかうと、顔が真っ赤になった。

 学園でのことを思い出したようだ。




「いつ話しかけてくるのでしょう?といつもいつも2人でこっそり話していたんです。

 私たち年頃でしたから、恋の話は朝まででもしていましたし、ちょうど、

 メアリーには想い人もいましたからね。

 ジョージア様は、メアリー曰く私のこと気になっていたでしょ?とっても。

 でも、隣にいつもこわーいトラと狼がいたので、こっそり2人で話をすることしか

 できなかったですね。

 そのおかげで今、ここにいられるのでしょうけど……

 私のハチャメチャなところは見せずに済んだからよかったです!」

「俺は、王太子もヘンリー殿も苦手だったからな。

 気持ちを自覚していたけど、アンナのことは、初めから諦めてもいたのだ。

 他の子息たちが、アンナに迫っている姿を見ては、いつも羨ましかった。

 へたれだと思われていても仕方ない

 その分、卒業式は爽快だったけどなぁー

 高嶺の花を伴っての入場は、最高だった!!」




 私は、そのころのジョージアを思い出し、ふふふっと笑う。




「ジョージア様の話は初めて聞きました。

 本当に私のこと好きだったのですね。

 ちゃんと好かれていたなんて光栄です。

 あのときは、恋に発展もせず終わりましたが、これからは愛で続けていければ

 いいですね。

 私の方は、怖いトラも狼もおうちに置いてきましたから、大丈夫ですよ!

 私が守ってあげますし!!」




 私は、お腹を抱えて笑ってしまう。

 こんな話ができることが、まず、嬉しいし、思わず殿下とハリーの前にジョージア様を庇っている姿を思い浮かべてしまった。

 あまりにもぴったり過ぎて、笑ってしまったのだ。




「どこにそんな面白いとこがあったのだ……どこもおかしくないぞ!?」

「ジョージア様は可愛らしいですね。ぎゅーっとしたくなります」



 私は、おもむろに立ちジョージアへ近寄っていき、ジョージアの頭を私に引き寄せる。

 すると、ジョージアが腰のあたりに腕を回してきて、私を膝の上に座らせる。

 視線があい、どちらからともなく唇を重ねる。



 途中、腰にあった手が、胸に触れられたが私は、何も言わなかった。

 ジョージアがしたいように触らせておく。


 さっきまで、ふざけあっていた雰囲気はどこかへ行き、変わりに熱っぽい視線を向けられる。




「ジョージア様……」




 呟いた頃には、抱きかかえられベッド移動するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る