第214話 どうしても欲しいもの

 次の日、屋敷から昨日ユービスに借りた馬にまたがり、ユービスのいる町へ行く。

 昨夜の報告会のおかげで、とてもうきうきした気持ちになった。

 だって、利息付けてお金が入ってくるんだもの!

 嬉しいに決まっている。

 金欠では、決してないけど……盗まれたお金が少しでも増えて返ってくるなら嬉しくないはずはなかった。




「はぁ……嬉しいわ!

 でも、気は抜けないわね……取らぬ狸のなんちゃら~っていうものね!

 気を引き締めないといけないわ!」




 馬上で、それでも喜びを隠せない私は、お昼前に町についた。




「おはよう、ユービス」

「これは、アンナリーゼ様。

 お子様とゆっくりできましたか?」

「いいえ……昨日は、ぐっすり、寝てしまいました……

 それと、今からヨハンのところへ行きたいのだけど、馬このまま借りていいかしら?」

「もちろんいいですよ!

 お掃除隊は、どうしましょうか?」




 私は、おもむろに考える。

 この町は、まだ片付いていないところがある。




「ユービスに任せるわ!

 お願いしてもいいかしら?」

「よろしいのですか?」

「うん、まだ、ここも片付いてないからね!」




 そこまで言えば、ユービスも引き下がらない。

 ありがたく、お掃除隊を貸してもらうと言っている。

 でも、すでに、お掃除隊は、この町を片付けるのに体を動かしているのが見える。

 いつも率先して動いている男性を見かけたし、他の隊員に声をかけているようだった。

 ああいう人がいると、とてもまとまっていいなと思わずにいられない。

 私は、話したことないけど……今度話しかけてみようと思った。




「じゃあ、ごめんね!

 ちょっとヨハンのところに行ってくる!」

「お気をつけてくださいね!」




 馬上からユービスに手を振り挨拶を済ませ私は、初めてヨハンの研究所へでかけることにした。



 目的のものをどうにかできないか確認するためだ。

 もちろん、利益を考えてはいるけど……何より自分のためでもある。

 あぁ……何かいい答えがもらえると、いいけどな……淡い期待を胸に森の方へと馬を向かわせるのであった。




 初めて訪れた、ヨハンにと用意した研究所は、森の中ではあるが、そこだけ日当たりのよいとてものんびり時間が流れるような素敵な場所であった。

 白衣を着た人が、出歩いているところを見ると助手たちが、ヨハンの指示で動き回っているのだろう。




「ヨハン教授はいるかしら?」




 私は馬から降りて、引いて歩いていた。

 手近にいた助手に話しかける。




 すると、忙しそうにしている助手は、ヨハンのいる方を指さすだけだ。

 失礼な人ねと思ったが、フレイゼンの学都でも大体こんな感じだったので、流す。




「あぁ……アンナリーゼ様ですか……?

 こんな遠くまで、わざわざお越しいただいて!」




 指刺された場所に向かうと、とても面倒くさそうに私を見ながら、ヨハンはぶつぶつ言葉とは思えないような呪文を言い始めていた。




「こんにちは!ヨハン教授!

 久しぶりね!!

 ちょっと、教えて欲しいのだけど……」

「あぁ、それなら、そこのやつに!おー……」




 チラッと私を見たヨハンが固まる。

 私は、ただニコニコと笑っているだけだが、怖いものでも見たかのようだ。




「あ、な、た、に、教えてほしいのよ?ヨハン?」




 再度ニッコリ笑うと、流石に呪文を唱えていたヨハンもため息と共に諦めたようだ。




「で、何?」




 公爵夫人に向かって……こんなゾンザイな扱い。

 旧知の仲だから許されるが、さすがによくないよ!と思ったけど、そんなことで機嫌を損ねて私の質問に応えてもらえないと困るので黙っておく。




「砂糖を作りたいの!」

「砂糖?

 あんなくだらんもの……あぁ、アンナリーゼ様の成分か……」

「なによ!成分って!!」

「ないと、すぐ怒るじゃないか!

 最近取ってないんだろう?ちょっと怒りっぽいぞ?」

「そんなことない!」




 ヨハンは、私を怒らせる天才なんだと思う。

 もぅ!っと怒っていると、おもむろに研究室へ入っていく。

 私は、黙ってその後ろについて行くのだった。

 相変わらずの部屋だ。

 物が雑多に置いてあって、それでいて不思議なものもたくさんある。

 私は、一人分が座れるスペースのある椅子に座って待つことにした。



 頭をかきながら、どこにやったかな……確かこの辺に……いや、あっちだったか?なんて呟きながら本棚や床に積んである本などをひっくり返している。

 本が欲しいなら、絶対助手に聞いた方が早い気がするんだけど……まぁ、気が済むまで待つけど……と思いながら、ぼぉーっとヨハンを見ている。




 今、提案した砂糖は、ローズディア公国でも高級品だ。

 そこそこお金持ちでなければ食べられない。

 さらに、アンバー領では、砂糖ひとかけらで私の結婚指輪が買える値段であった……

 高級品を通り過ぎて、超高級品。

 甘味としての蜂蜜でも、この領地では、かなりの高級品であった。

 なので、どうしたら、私達……私の食卓に並びやすくなるのか……を考えて、領地で栽培できないか……と思い立った。

 確か、植物からできていたと思い出したのだ。




「あぁーあった!

 これこれ……アンナリーゼ様、これですよ!」




 とても、汚い本を私に事もなさげに渡してくる。

 結構分厚いのでつまむわけもいかず、しっかり持つことになる。





 ぺらっとめくると、ヨハンがもっとこっちだとページを捲っていく。





「砂糖の元の栽培方法と、作り方。

 まぁ、この地じゃ……無理じゃないか?

 かろうじで南の方だろうけど……まず、苗も種もないしな……

 どこかで確保しないといけないけど、ローズディアでもトワイスでもないはずだ。

 うーん……確か、インゼロ帝国のどこかの農作物だったはずだ!」




 そこまでわかれば、もういいだろう?帰った帰った!という顔で私を見てくるが、そうは問屋が卸さない!

 欲しいと言えば、欲しいのだ。

 まるで、地団太を踏む子供のようだと思ったが、これは、最重要課題だ。


 砂糖を作れると、私の食卓にも並びやすくなるし、領地から輸出もできる。

 さらには、高級品砂糖は、お金になるのだ!

 継続的に領地への恵みを考えると、どうしても欲しいものとなる。




「いくら、アンナリーゼ様でも、インゼロに友人はいないでしょ?

 諦めてくださいよ!

 もし、苗か種が手に入ったなら、協力は惜しみませんけどね!」

「言ったわね!

 ヨハン教授、待っていなさい!

 必ず、種か苗かを手に入れてみせるから!」




 この本借りていくわ!と、ヨハンの研究所を出て、ユービスのいる町へと戻る。

 インゼロと言ってピンとくる人物が1人だけいた。

 私に会ってみたいと言ったその人を思い出す。




 敵国では、あるんだけど……そんなの関係ないわね!

 今は、だって小競り合いもしていないし!



 馬に乗り、私はほくそ笑む。

 砂糖までの道が開けそうなのだ。

 早速、手紙を出しましょう!きっと、会ってくれるはずよ!そんなことを思いながらパカパカと馬上で揺られるのであった。

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