第206話 お掃除隊初仕事

「んじゃあ、お仕事ね。

 まず、リーダーを紹介するね!

 指示は、リーダーに聞いてくれる?」




 私はまた、木箱に登って説明を始める。




「まず、この町のリーダーを紹介するね!

 マーラ商会のニコライ!

 この町の人が、この町を清掃することになってるから!

 掃除するための道具とかは、今から配るけど、班によってしてもらう作業が違うから

 しっかり指示に従ってね!」




 わかった!と町の人たちが口々に返事をしてくれる。

 それに私は頷いて次の説明だ。




「次に、子供たちのリーダーは、セバス!

 このお兄さんに付いていって!

 きっとおもしろいことを教えてくれるはずよ!いいかなぁ?」




 可愛い声が聞こえ、セバスに突撃している姿が見える。

 突撃されたセバスは、目を白黒させながら大慌てで引率している。

 大丈夫かしら……?子供、苦手とかじゃないよね??セバスを心配するも、次の大切な仕事の説明をする。




「そして、料理が得意な方々!

 みんなのご飯を作ってほしいの。

 町の外にイロイロ準備をしたから、今日の2食分のおいしい食事を作ってね!

 みんな、たくさん、働くから、きっとお腹もぺっこぺこになるはずよ!

 あと、それが終わったら、空き家でベッドメイキングとお風呂の用意も手伝って

 ほしいの。

 リーダーは、マーラ商会のビルよ!よろしくね!!」




 奥様方が多いせいか、この班のまとめ役は大変そうだが……そこは、商人ビルの腕の見せ所だろう。

 奥様方は、ぞろぞろとビルについて町の外へ歩いて行った。




「さて、残った元警備隊員さんたち。

 私と一緒に、別の村へ行くわよ!

 あなたたちの腐った根性は、私が叩きのめしてあげるから、覚悟なさい!

 じゃあ、元警備隊員改めお掃除隊、行くわよ!!」




 木箱の上で気分よく話す私を、下で見ていたウィルは、大きなため息をついていた。

 姫さん、腐った根性叩きのめすって……一体どこで覚えてきたんだ……なんて言葉も聞こえてきた。

 ウィルのそれには、答えず、木箱の上から飛び降りた。

 見事な着地に、お掃除隊の面々は、拍手してくれたので、少し照れる。


 私は、40人程になったお掃除隊をウィルと2人で引率して、別の村まで歩いていく。




「さくさくいかないと、お昼抜きになっちゃうからね!

 まず、村に着いたら荷馬車に積んである荷物と食料を下ろして!

 食事が作れる人は、村の外で食事の準備をしてちょうだい。

 あとは、私のところに集まって!」




 村にも朝一で、掃除する旨を言ってあったので、手伝いたいと総出で来てくれた。

 町での割り振りと同じようにしていく。

 人懐っこいウィルが、難なく村の人たちをまとめ上げてくれる。

 それを見やって、私は、お掃除隊に仕事を振っていく。



 なんだか、やる気のない人が多い。

 来いと言われたから来ただけ……みたいなのばかりだ。




「ねぇ、あなたたち、やる気あるの?」

「そんなのあるわけないだろ?ねぇちゃんよぉ!」




 ゲラゲラ笑うお掃除隊。

 その中でも一部の人は、私が誰だか知っているので、そそくさと作業に入ってくれたが、今、目の前にいる人たちは、昨日、訓練場で酔いつぶれていた隊員たちだ。

 だから、私が誰かもわからないし、自分がなんでこんなことさせられているのかもわからないでいる。




「いいわよ。何もしなくて。

 むしろ、邪魔だから、帰ってくれていいわ!はい、さようなら!」




 私は、そのまま背を向ける。

 無防備に背中を向けていると思われたのか、まだ、酔っているからなのか、はたまた、腹を立てていたからなのか……私に襲い掛かる一人の元隊員がいた。



 ウィルには、見えていて声をかけようとしてくれたのだろうけど、それより私の方が早かった。




「今からこの辺一帯を掃除するのだけど、この首も真っ赤な血で洗うかしら?」




 元隊員の手首を取り捻り上げ、後ろから首元にナイフの刃をあてる。

 護身用にディルが持たせてくれたナイフ。

 わかりにくいように、隠し持っていたのだが、こんなに早く役に立つとは思いもしなかった。




「いてててて……

 わ……わかった……そう……掃除するから、ねぇちゃん離してくれ……」



 私は、今後面倒なことは、御免だと思ったので、そっと耳元で身分を明かす。

 すると、元隊員は、驚愕して、震えはじめた。




「はい、家紋」



 このナイフには、大きく2つの役割があった。

 1つ目は、文字通り護身用と、何でも用。

 2つ目は、身分を明らかにするもの。



 ナイフの柄の部分にアンバーが埋め込まれた家紋が入っている。




「ご…………ごぶ……ご無礼をお許しください!!」



 平服し始めたこの元隊員を、他にゲラゲラ笑っていた者たちが、何やってんだあいつ?とさらに笑う。




「お……お前ら、この方がどなたか知らないのか!」

「何かしこまってんだよ、小娘は小娘だろ?

 ねぇちゃん、こんなゴミ拾いなんてしてねぇーで、お酌してくれよ!

 可愛いんだからさ!それに……」

「そ、それくらいにしておけ!!」



 ブルブル震えながらさっき可愛がってあげた元隊員は叫ぶが、通じないだろう。

 何回もこのやり取りをするのも面倒だったし、これから、さらにきつい仕事を任せないといけないのに、こんな状態ではいつまでたってもまとまらない。

 村人たちには聞こえない程度で、それでいて元警備隊員たちには聞こえるように私は、身分を明かすことにした。




「あなたたちにも、面倒くさいから、身分は、明かしておくわ!

 私の名前は、アンナリーゼ・トロン・アンバーよ!

 このアンバー公爵領の公爵夫人をしているわ!

 あぁ……これ、家紋ね!」

「公爵夫人が、んなとこ……に……い…………わ?」

「いるのよね!」




 私は、ナイフの家紋を見せ、胸をはる。えっへんと。




「働かないなら、あなたたちいらないから帰ってくれて結構よ!

 食べ物は、働いてくれた人のだから、食べることも許可しないし、

 訓練場に帰っても入れないよう言ってあるから、無駄よ?

 仕事する?しない?さぁ、どっち?」




 腰に手を当て、どうするの?と隊員たちにせまる。

 そうすると、そこにいた者たちは、みな跪いて仕事を手伝わせてくれと言う。

 脅したわけではないのだけど……なんとも居心地のいいものではなかった。




「じゃあ、キリキリ働いて頂戴!

 たくさん掃除しないといけないところがあるんだからね!」




 その言葉を最後に、お掃除隊のみんなが働き始める。

 私も、それを眺めるだけでなく、実際体を動かすことにした。

 これは、私から始めたことだ。

 私も、体を使い、アンバー領のためにしっかり働くべきだと思っている。




「ゴミは、袋に入れてまとめて頂戴!

 後で燃えるものは燃やすし、使えそうなものは修理するから!」




 私の指示とウィルの指示で、サクサクとゴミを拾い、道端を箒で履き、バケツで水をまきながらデッキブラシで石畳を洗う。



 汚かった村の道も家の周りもとても綺麗になった。



 村人総出で手伝ってくれたおかげで、予定より早く終わってしまった。

 まとめられたごみを一か所に固めておく。

 それを今度は、焼却しないといけないのだが、それは、とりあえず後ですることにした。




 ちょうどお昼の頃合いになり、いい匂いがしてくる。

 そして、準備ができたようで鍋を叩く音が聞こえた。




「みんなぁ!お昼ができたから、手を洗って、スープ皿とお皿持ってきて!」




 私の声にいち早く村の人たちが動き始めた。

 お掃除隊にもお昼を食べる準備をするよう声をかける。




 それぞれ行きわたったようで、ホクホクとした顔を皆がしている。

 久しぶりに食事にありつけた人もいるようで、本当に嬉しそうに笑って食べている人がいるのが印象的だ。




 これは、なかなかよかったと思う反面、今日限りになってしまうのはいけないと反省する。



 私は、村人と一緒に食べることにした。




「こんにちは!

 今日は、お掃除手伝ってくれてありがとう!」




 私が、お礼を言うと村人たちは、柔らかい笑顔を私に向けてくれる。




「こちらこそ、ありがとうございます。

 こんなきれいになるとは……」

「できれば、この状態を維持してほしいのだけど……

 みなさん、それは、可能ですか?」




 村人たちは顔を見合わせている。




「どうかしましたか?

 何か困りごとでもあるんです?」

「いや、なんていうか……

 この村は、見ての通り貧乏で、そこまで気が回らなくて……

 お恥ずかしい限りで……」




 苦笑いをしている村人たち。




「うん、今後は、ちょっと意識してくれると嬉しいわ!」

「あの……今日は、こんな食事まで用意してもらったのですけど……」




 あぁ、と思った。

 明日は、もう、掃除をするところがこの村にはないのだ。




「もし、時間があるなら、明日もお手伝いしてくれる?

 町の方の掃除を手伝ってほしいの!」




 村人たちは、ぱぁっと明るい顔になる。

 やっぱり、みんな何かしたかったのだろうか?

 ただ、食事にありつけることが嬉しいのだろうか?



 どっちでもいい。

 アンバー領が明るくなるのであれば……




「もし、手伝ってくれるなら、町に行く人と村に残って手仕事をしてくれる人に

 分かれてほしいんだけど……」

「手仕事ですか?」

「そう、アンバー公爵夫人が昨年の冬に依頼したカゴバックの作成とか、

 藤ツルで日用品を作ってほしいのよ!

 あと、今日の不用品の修理とかね!」




 私の言葉に目を輝かせるのは、女性たち。

 お小遣い稼ぎを喜んでくれているようだ。



「わかりました。

 では、そのようにします!

 ところで、あなたの名前を聞いていいですか?」

「私の名前は、アンナ!

 みなさん、よろしくね!」




 みんなにニッコリ笑って自己紹介する。




「そうそう、今日持ってきた食材は置いていくから、上手に使ってね!」




 私は、その場から立ち上がり、ウィルたちの方へ向かい指示をする。

 今日のところは、ゴミ処理が終われば何もないので、それだけ済ませて町へと帰るのであった。

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