第178話 じゃじゃ馬は、あなただけではなくてよ!

 ウィルたちと話した後、自分がとっても衰えてしまったことを実感した。

 学園で教科書のような剣技しかできないパルマにすら負けてしまったのだ。

 悔しかったから2週間、みっちり体を動かす。



 筋肉痛……きついな。



 でも、領地へ行くのなら、そんなことは言ってられないので、私は、とにかく、スカートを翻し剣を振り、出産前の体に戻るよう整えていく。

 呼吸の仕方、間合い、読みあい……一人で鍛錬していても、感覚はなかなか戻ってこない。

 ジレンマとの戦いになってきた。




 2週間の特訓でパルマには勝ったが、パルマに勝っても仕方がない。

 実践むきの人間に勝たないといけないのだ。




「ディル、今日は出かけても大丈夫?」

「えぇ、大丈夫ですよ!

 ウィル様のところに向かわれるのですか?」

「そのつもり……やっぱり、実践じゃないと戻ってこないわ」




 そうですかと、出かける準備をディルは、してくれる。




「馬車は必要ですか?」

「うーん、馬?」

「馬ですか……

 アンナリーゼ様がいつも乗っていた馬が、繁殖に入りましたので、

 他の馬をご用意しないといけませんね」

「そうなの?

 私、選んでいいかしら?」




 もちろんですと、ディルは私を厩舎に連れていってくれた。



 厩舎の中を歩く私。

 どの馬も毛艶がよくて、よく手入れをされていることがわかる。

 2往復したところで、4回とも目についた馬がいた。

 牝馬のようで、丸い可愛らしいお尻をしているが、そこそこ筋肉もついていてかっこいい馬体をしている。




「アンナリーゼ様は、こいつに目をつけたか!」




 厩舎のロン爺が私に話しかけてくる。




「この馬、目がいいわね!

 ちょっと、挑発的ではあるけど……

 馬体も申し分のないし、この子がいいわ!」

「この馬は、軍馬だったのじゃ!

 アンナリーゼ様は、さすがだと言いたいんだがな……

 ただ、この馬は人を乗せるのを極端に嫌ってな……うちの厩舎に流れてきた。

 血統もいいし、軍馬だから丈夫。

 気性が荒すぎるくらいじゃな……

 いわゆるじゃじゃ馬っちゅーやつじゃわい!」




 はっはっはっ!とロン爺は笑っている。

 でも、私、この子が気に入ったので、乗せてもらうことにする。




「やめた方がえーぞ?けがする……!」

「厩舎から出してくれるだけでいいわ。

 じゃじゃ馬は、あなただけじゃなくてよ!」




 そういって、馬房から顔を出している馬の鼻を撫でる。

 今のところは、かなり大人しい。

 さて、どんなじゃじゃ馬なのだろう?

 私とどっちが上かしらね?



 ふふっと私から思わず笑みがこぼれてしまう。



 庭に出してもらい、鞍を乗せようとしてまず振り払われた。

 なるほどね……

 糸を背中に載せるやり方とかもあるけど……

 うまくいかないこともある。

 それにとても時間がかかるのよね……あれって。




「手綱を貸してくれる?」

「え……?」

「いいから!」




 私は、ひったくるように手綱持ってくると、手ごろな台を見つけて近寄っていく。




「せーのっと!!」




 台からいきなり、鞍のない馬の背中に乗った。

 もちろん、馬はびっくりしているが、たぶん私のことは見えているはずだ。



 暴れまわっている馬の背中で足を使って腹を挟み込み、縦髪を引っ張って落ち着かせる。


 

 私が今から何をするのか。

 それもきちんと理解しているのだろう。

 眼光がさらに厳しくなった。

 そして、この馬は、相当頭のいい馬だと見当をつけている。

 じゃないと、私を見る目があんなに強い目をしていない。



 すると、なんとなく落ち着いてきたように思えた。




「行こうか!」




 ポンっと腹を蹴ると前に進む。




「あの障害越えられるかしら?」




 私の声に反応して耳を動かしているようだ。

 この子、本当に賢いみたい!




 手綱を少し緩めると、難なく障害も越えて、元居た場所まで戻ってくる。




「アンナリーゼ様、大丈夫ですか?」




 ディルとロン爺が、心配して駆け寄ってくるが、私は何ともない。

 むしろ、この馬との相性は抜群にいいようだ。




「この子名前は、なんていうの?」

「それが、こんなじゃじゃ馬だったから誰も乗りたがらなくて……

 名前がねぇーんですわ!」

「また……名付けなのね。

 うーん。レナンテなんてどう?」




 鬣を撫でると嬉しそうに鳴く。




「じゃあ、今日からお前はレナンテだ。

 アンナリーゼ様に大切にしてもらえよ!」




 ロン爺が嬉しそうにレナンテの鼻の頭をかいている。




「でも、こんなにレナンテが、従順だなんて……

 私の方が、じゃじゃ馬ってことかしらね……困ったわ……」




 ディルにロン爺が顔を見合わせて、大笑いする。




「アンナリーゼ様もそういえば、ウィル様に言われてましたね!」

「そうよ!

 ウィルだけじゃなくて、結構有名な話なのよね……

 じゃじゃ馬同士、馬が合うってことかしらね?」




 おもしろくもないのに、その場にいるみんなに笑われる。

 失礼ね!と思ったのは、私だけでなくレナンテも鳴いていた。

 気が合うわね!と優しく撫でるのであった。




「鞍つけてくれる?

 もう大丈夫だと思うから!」




 かしこまりましたとロン爺の助手が、用意してくれる。




「パルマとデリア、あとスーザンとジョーを後から馬車できてくれるよう

 伝えてくれる?」

「アンナリーゼ様は、先に行かれるのですか?」

「そうね、早く体を動かしたくてしかたないもの!!」




 そういって、私は髪を束ねる。

 まさにポニーテールだ。



 私は髪を、レナンテはしっぽを一緒のように振って、屋敷からお城まで向かう。

 さてさて、ウィルに遊んでもらえるようになるまで、皆に遊んでもらいましょう!




 意気揚々と城に向かう私たちであった。





 城の訓練場は、私が来るようになって以降、死屍累々であったと記録に残っている。

 まぁ、死人ではなく、私にぶちのめされた近衛たちざっと100人が毎日倒れているのだ。

 たまたま見た人は、ギョッとするだろう。



 100人の近衛の真ん中にスカートを翻し、舞っている私が、次々なぎ倒していくのだから……



 3週間、練習をして、エリックに挑み、そのあとウィルに挑む予定である。

 今は、まだ、2週間。



 あと1週間、みっちり近衛たちをシバキ倒す予定だ。

 久しぶりに体を動かしているので、楽しくて仕方がない。

 日に日に軽くなっていく体に喜びながら、衰えたものを磨きかけるのであった。

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