第170話 あっ!
「デリア、お腹痛い……」
「アンナ様……?」
私は、お腹を抱えてうずくまっていく。
それを見てデリアは、慌てて私に駆け寄ってくると同時に叫んだ。
「ディル!ヨハン教授を!!」
デリアが叫んだすぐ後には、バン!と私室を扉を勢いよく開けるヨハン。
実は、ヨハンはお産が初めてということで、助手が今回のメインで面倒をみると横で説明しているのだが、私は、とにかく、それどころではなかった……
「うるさい!
痛いって言ってるのよ!」
はい、キレてしまいました。
それ以降、ヨハンは黙り込み、助手がテキパキとデリアたち侍女に指示を出していく。
私は、ベッドに横たわらされ、押さえつけられる。
何故か……無駄に暴れるから。
陣痛が始まったと聞いてか、ジョージアが入ってきたが、デリアに邪魔だと叱られて部屋を追い出された。
切なそうに追い出されて行ったジョージアを私はチラッと見た。
ただ、今は、痛すぎてそれどころではなく、騒いでいる最中だ。
一通り騒ぎ終わったら、すっと痛みが引いていく。
「まだ、始まったばかりですから……しばらくかかりそうですね」
ヨハンの助手は、私の状態を見てそういった。
え……?
この痛みって……まだ続くの……?
私は、ゾッとする。
それだけで、ぐったりしてしまった。
泣いたり叫んだりしていた私が、大人しくなったことで心配になったジョージアが部屋に入ってくる。
「アンナは大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。
まだまだ時間がかかりますから……
旦那様、少しアンナリーゼ様とお話しててあげてください」
助手に言われ私の側にきたジョージア。
「大丈夫?」
「……痛いです……」
そういうと、ベッドの縁に座り、微笑みながら頭を撫でてくれ、背中から腰も撫でてくれる。
「頑張るんだよ!
俺は、何もしてあげられないけど、待ってるから……
無事に生んで、元気なアンナと子供見せて」
空いてる手をギュっと握ってくれる。
それが、何より安心できた。
ふぅっと息をもらした瞬間、また、痛みが来る……
その瞬間、握っていた手で思いっきりジョージアをはたいてしまった。
ごめんと思う気持ちもあるけど……痛みが来れば、知ったことじゃない!
デリアに再度追い出されたジョージア。
心配そうにしてくれているジョージアの顔を見たのが最後だった。
「アンナ様、いきんでください!!」
「ふぅーーーーーん!!!」
何度このやり取りをしただろうか……
精魂尽きて、もう無理だ……と、思った。
「う……うぎゃぁ……うぎゃあ!」
「生まれましたよ!アンナ様!」
デリアは、涙を浮かべ、私に寄り添ってくれる。
「かわいらしい女の子ですね!
アンナリーゼ様、見てください!」
くたくただった私は、赤ちゃんの顔を見た瞬間に笑いと涙が流れてくる。
「真っ赤ね……」
頬を撫でると我関せずとむにゃむにゃしている。
「アンナリーゼ様は、母乳ですよね?
少し、練習しましょうか?」
「はい……」
ヨハンの助手に言われるがまま、赤ちゃんを抱く。
「アンナリーゼ様、お上手ですね?」
「そうかしら?
私、クリスしか抱いたことないけど……
そういってもらえると嬉しいわ」
「アンナ様……」
出産後すぐに席を外していたデリアが戻ってきた。
浮かない顔をしているので、あぁ、とうとう現実になったのね……と、私は悟る。
「旦那様は、別宅に呼ばれて向かわれたそうです……」
「そう……
仕方ないわよ、向こうも今日、出産なんでしょ?」
「それでも……アンナ様を優先するべきです!」
デリアは、泣き始める。
声をかける気力も起きなかった。
『予知夢』どおり、ジョージアは、別宅へ行ったのだ。
私のジョージアとの幸せな時間は、今、終わってしまった。
「ごめんなさい、赤ちゃん、頼めるかしら?」
デリアに赤ちゃんを渡し、私は少し眠りたいとその場で片づけをしてくれている侍従たちに出ていってくれるようお願いする。
泣きはらしたデリアにディルが寄り添うように、赤ちゃんを連れて部屋から出て行ってくれた。
私は、ゴロンと転がり天井を眺める。
今日は、出産でとても疲れた。
体中、筋肉痛になりそうなくらい軋んでいる。
「ジョージア様……
アンジェラ……生まれたよ……」
ポツポツ天井に向かって私は誰もいない部屋で呟く。
その自分の声が聞こえて、涙が次から次へと流れてくる。
それは、とまることなく、次第に嗚咽へと変わっていく。
ベッドで体を丸め、布団をかぶり、クマのぬいぐるみを抱き、私は、部屋の外に漏れないよう気を付けながら泣きじゃくる。
ジョージア様……
次から次へとジョージアとの想い出が蘇る。
その度、涙が零れっていく。
そのまま、眠ってしまった……
…………………
ふと、赤ちゃんの泣く声が聞こえた気がする。
私は目を覚ました。
私は、ベッドからでてガウンを羽織り、声が聞こえた方へフラフラと歩いていく。
聞こえていなかったはずの泣き声は、だんだん聞こえるようになり、目の前の扉の向こうで大泣きしているのがわかる。
「ごめんね!
お腹、すいたよね!」
デリアに預けていた私の赤ちゃんを抱きあげる。
「アンナ様……」
「なぁに?
話は、後ね!
今は、お腹を空かせてるから……」
私は赤ちゃんに母乳を与える。
まだ、上手に吸えないのか戸惑っているので、私は、そっと赤ちゃんの食事を手伝う。
その顔を見ていると、なんだか、ホッとする。
「可愛いね!」
抱き上げていた私は、愛おしさがこみあげてきた。
「私、頑張るからね……」
頬を撫でると、満足したようだったので、背中を優しく撫でる。
げふっとしている。
そんな我が子は、なんだか、不思議な生き物に見える。
そのまま抱いていると、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。
満足して、寝てしまったようだった。
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