第162話 ぐぅのねもでません。
毎日毎日、家にいるとつまらない。
愛しいといえども、美人なジョージアを3日も眺めていれば、飽きてくるのだ。
でも、きっと、外出許可は、出ないであろうことはわかっている。
ジョージアをどうにかして外に連れ出すしかないのだが、最近、やたら執務を頑張っているため、少々、可愛くお願いしたからといってきいてもらえないことは、わかっている。
なので、私も私の仕事をしよう。
まず、お兄様からの手紙を読んだ。
何々……
また、パルマが冬休みの間、頼みたいという内容だった。
夏に預かったとき、私とディルは相当なつかれたらしい。
まぁ、好かれるのは嬉しいのだけど、今回はどうしようかな?と考えた。
「ディル、今度の冬季休暇にパルマが来ることになったらしいの。
また、お願いしてもいい?」
「パルマなら、歓迎します」
「じゃあ、夏季休暇のときを基本として働いてもらいましょう。
前回、見習いってことでお給金出してなかったんだけど、
今回は、出してあげてほしいわ!
こっちに引っ越して来ることを考えると、お金は、必要だから……」
かしこまりましたとディルは、答えてくれた。
あとは、任せておいて大丈夫だろう。
何気に最近、ジョージアからもらうお金に投資で儲けたお金をこっそり台所につぎ込んでいるので余剰金はあるのだ。
それを知っているため、ディルに反対の意思はなかった。
「アンナ?
パルマにも給金って出せるの?」
「えぇ、そんなに多くはありませんが……」
ジョージアは、感心しているような、驚いているようなだ。
「どうかされました?」
「あぁ……
いや、その……別宅の……」
「あぁ、給金が少ないって話ですか?
ディルと評価して最大限の努力はしていますよ?
給金に似合う仕事をしてくれれば、上がりますよって言っておいてください!」
きっと、ソフィアに言われているんだろうなっと思う。
間者をしてくれているメイドから話は聞いていて、どんな生活をしているか把握しているのだ。
「それより、別宅の支出が高すぎませんか?
ここ、もっと絞れると思うんですけど……」
ジョージアは、明後日の方を向いている。
これは、期待できないなぁ……仕方がないので、見なかったことにしておく。
ただ、今後のソフィアが使った分のお金は、男爵への清算として、いずれ取り戻したいと思っているのでメモは取っておく。
兄からの手紙の続きを読む。
フランが生まれたことも書いてあった。
アンナおばさんに負けず劣らず、クリスもフランも元気だよ!って、お兄様におばさん呼ばわりされたくない!
でも、クリスやフランに言われるなら……悪い気はしないなぁーって思えてくるから不思議だ。
いつか、会ったら、『アンナさん』って呼んでもらおっと。
はぁ……クリスやフランに会いたいよぉー!!
許可……おりるわけないよね。
里帰り出産とか……してもいいのかなぁ?
チラッとジョージアを見たが、何か察したのだろうか……?
「アンナ、ダメだからね!」
ジョージアに先にダメ出しされてしまった。
私の考えなんて、筒抜けなのだろうか?
フランへのプレゼントと、エリザベスにも何か送ろうと考える。
何がいいかしら?
ニコライに相談してみましょう!
ニコライの呼び出しなら……大丈夫でしょう?
チラッと見ると……
今度は、ジョージアはこちらを見ていなかった。
難しい顔をして、考え込んでいる。
次に来ていた手紙を開ける。
エレーナからの手紙だった。
エレーナは、双子が生まれたのですって。
男の子と女の子か……
どっちも可愛いだろうな。
手紙を読みながらぶつぶつ言っていたのがジョージアは、聞こえたのだろう。
「双子は、大変だぞ……
うちだとアンナが3人って思うと、可愛いけど……」
「何ですか?」
「可愛いです!」
ジョージアの方を見ただけだったが、何か言おうとしてやめた。
そんなに、私こわくないよ!と思ってまた、手紙を読み始める。
名前は、結局、私の提案した、マーフィーとリアーナになったようだ。
エレーナの子供も、きっと可愛いだろう。
あぁーこっちの双子ちゃんにも会いたい……!
ジョージア様!と心の中で叫ぶけど……聞こえていないだろう。
しかたない……
仕事も軌道に乗るかどうかってときに双子だと……本当に大変だなぁ……と思ったけど、乳母を雇っているのかなぁ?とか、ちょっと先輩ママに思いをはせる。
「あっ!ニコライ!」
「ニコライがどうしたの?」
「エレーナのところを早速訪ねてくれたようで、いい時間をいただけましたって
書いてあります!」
「ん?」
「まだ、話していませんでしたか?」
「あぁ、何のことだか……」
ジョージアは、興味を持ったのか話を聞く体制になった。
どうせなら、休憩も兼ねるようで、ディルが飲み物をデリアがお茶うけを準備してくれる。
「エルドアにエレーナという友人がいるのです」
「先ほどの、双子ちゃんのママかな?」
「そうです。
侯爵様と新規事業を展開しているのですけど、ニコライをそこに紹介したのです」
「それは、商人とどんな関係があるの?」
「運輸業って言って、商人や送りたい人の代わりに送り先に荷物を運ぶっていう
仕事なのです。
まだまだ、需要がないのが、ネックなのですけど……
大店の一員であるニコライに意見をもらうなりしたらどうかと連絡してたんです。
逆にニコライには、使いたくなるか使い勝手はどうなのかと試してほしいと
お願いしていたのですよ!」
私の話を聞き、そんなことまでしているのか……と、ジョージアは、唸っている。
が、そんなのは朝飯前というか、雑な指示さえしてしまえば、頭のいい従者や友人、しいては商魂たくましいニコライがきちんと私が思う方向へすべて仕切ってしまうのだ。
果報は寝て待て。
私は、ただ待っていればいいだけなのだ。
たぶん、ジョージアが悩んでいることも、皆に少しずつ手伝ってもらえば、難なくできることのように思う。
あんまり口出しするのも悪いと思うので、言わないでおく。
「アンナ、ちょっとこれを見てくれ」
なんと、ジョージアからお呼びがかかる。
「なんですか?」
「このあたりの整備でこういうものが出ているんだけど、どう思う?」
ジョージアに報告書を見せてもらう。
まだ、領地の報告書は、統一するようにと指示を出してないので昔の様式でとても読みにく。
まだ、今見せてもらっているものは、ましな方だったので、ふむふむと読んでいく。
「これですか?
……うーん、ちょっと待ってくださいね。
ディル、今日は、ヨハン教授はいるかしら?」
「はい、いらっしゃいますよ?
お呼びしますか?」
「お願いできる?」
私が急にヨハンを呼び出したため、ジョージアは不思議に思ったらしく、こちらをうかがっている。
「お呼びですか?」
無精ひげを撫でながら部屋に入ってくるヨハン。
「もしかして、寝てた?」
「いえ、ちょっと……」
「また、研究?
ほどほどにしてくれない?
体壊したら元も子もないわよ!」
そういって叱ると、はいはいと言っているが、きっということは聞かないだろう……
まぁ、助手がその辺を上手にやってくれるだろうから、私は、それ以上は言わないでおく。
「ジョージア様からの、課題。
この植物がね、邪魔なの。
でも、ただ捨てるだけでは、もったいないから、何か活用方法あるかしら?」
「あぁーこれなら、ずぅーっと南の方でもよく見かける植物ですね。
カゴにしたり、カバンにしたり、あとは……縄の代わりに使ったりってしてましたよ
冬の女性の手習いとか、お小遣い稼ぎとかに藤カゴを作って売ってみたらどうです?
特産品とかにもなるでしょ?」
「藤カゴ?
こんな固い植物……どうするの?」
「その辺は……商売人の方がよく知っているかもしれないなぁ……
大きなざるみたいなものを作ってくれたら、私も買わせてもらうよ!」
そういって、ニカッとヨハンは笑う。
「だそうです。
ニコライに聞いてみますか……?」
「あぁ、そうだな。
アンナは、こんな風にして問題解決をしていくのかい?」
私をぱちくりと見ながら、ジョージアは」問うてくるが、当たり前だ。
私一人の知識なんて、たかが知れている。
それに、私は、自他ともに認めるおバカさんなのだから、知っていそうな人に聞いて問題解決できるなら、それに越したことはない。
「むしろ、ジョージア様は、他の方に聞かないのですか?」
「あぁ、自分で調べたり……」
「それでは、時間もかかりますし、効率も悪くないですか?」
「ぐぅのねもでません……」
そんなやり取りを見ているヨハンは、いきなり大声で笑い始める。
「アンナリーゼ様、フレイゼンのお家が特別なんですよ!
あなた方は、4人とも好奇心旺盛だ。
知識を求め、他人に聞くことを恥とは思わない。
聞いて当たり前、教えを乞うて当たり前。
普通の貴族は、そうじゃない。
だから、フレイゼンの人間は、私はすきなのだよ!」
ヨハンに褒められたのかけなされたのかよくわからないが、フレイゼンは、やっぱりちょっと変わっているらしい。
その好奇心ゆえに、学都が繁栄しているし、情勢が読む力があるのだと教えてもらう。
なるほど……そうなのかもしれないという気になってきた。
「解決策に繋がりそうですね!」
私は、ジョージアにニッコリ笑うと、ジョージアはやや苦笑いをしていたが、さっきまで悩んでいたことが解決できそうな雰囲気になってきたことに安堵の色も見える。
「アンナの財産は、その人との繋がりだな……」
「そうかもしれません。
子供には、私の財産はすべてあげるつもりですよ!
私のあげられるものなんて、しれてますからね……」
私は、あいまいに笑う。
私があげられるものは、少ない。
残りの人生で、私のすべて持っているものを伝えきれるだろうか……
願わくは、この子が、どんなに苦しいときでも、辛いときでも、小さな幸せを見つけられ、それを育て誰かに分け与えられるようなそんな子になってもらいたい。
いつも、希望を諦めないでほしいな……
そう思いながら、お腹を撫でるのであった。
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