第149話 黒いウェディングドレス

 お茶会での話は、イロイロな話が聞けるのでおもしろい。

 男性陣ばかりのお茶会ではあったが、今回のお茶会も有意義なものとなった。



「あと他には、おもしろい話とかあるかしら?」



 私は、いつものごとく情報収集をすることにする。

 男性陣ばかりだと、聞かないと答えてくれないので、積極的に何かないかと尋ねる。




「そういえば……

 アンナリーゼ様には、大変いいにくいんですけど……」



 申し訳なさそうにニコライが、何か話してくれるようだ。



「気にしないから教えて!」

「それなら……

 あの、ジョージア様からソフィア様との婚礼の品について依頼されたのですが……

 その……今回は、お断りさせていただきました……」




 私を気遣って断ってくれたのだろうと、ビルの考えに心の中で感謝する。




「えっ?それって、商売的に大丈夫なの?

 うちがどうこうするつもりもないし、させるつもりもないのだけど……」

「影響は、正直、わかりません……

 ただ、父が、うちはアンナリーゼ様にご贔屓してもらってますので、

 第二夫人のためのモノを揃えるのは、恩ある方に仇で返すことになると……」

「なるほど……

 ビルらしい配慮ね。

 私は、とても嬉しいわ!

 でも、ごめんなさいね。

 内間のゴタゴタに巻き込んでしまって……」




 ビルやニコライには、商人と顧客という立場ではあるが、本当によくしてもらっている。

 なので、今回のようなことは、本当に申し訳なく思う。




「あ……いえ、こちらも勝手に断ってしまったので……」

「ビルに謝っておいてくれる?

 あと、ビルの気持ちに、気遣いに感謝しますと。

 私のことを想ってくれるなんて、嬉しいわ。

 例え、金勘定だったとしても……」




 ニコライは、空笑いだ。




「それで、婚礼の品は、別のところで、揃えられたようですね。

 ただ、これは、ジョージア様も知らないかもしれませんが、

 ソフィア様のウェディングドレスなのですが……

 その…………真っ黒なんです!」



 ニコライの言葉に、私は、とても驚く。

 私だけでなく、セバスもパルマもだ。



「えっ?黒?」

「そうなんです!

 公都には、懇意にしているデザイナーがいまして、

 聞いたところ、ソフィア様が、内密に黒いドレスを注文されたそうで……

 ジョージア様は、白のタキシードらしいですね。

 だから、第二夫人としたジョージア様への当て付けではないかと

 言われているんだとか……」




 とんでもないことをしでかしてくれる……

 披露宴での黒薔薇に結婚式での黒のウエディングドレス……

 公爵家に入るというのに、公爵家に泥をぬってどうするのだろうか?

 聞いていると、だんだん腹が立ってきた。




「それは、違うわ!

 私に対しての当て付けじゃないかしら?

 どうしたって、私が第一夫人、正妻となるのだから。 

 それを良く思っていないのよ……

 しかし、思い切ったわね!

 一応、ジョージア様には、そのこと伝えておくわ……」



 黒いウェディングドレスには、どんな意味がこめられているのだろう。

 先月、私はジョージアと結婚式をした。

 家族を始め、みんなに祝福され、貴族諸侯にお披露目されたのだ。



 しかし、ソフィアとは、ひっそりと結婚式をすることになる。

 ソフィアの身内だけに祝われて……



 第一夫人と第二夫人では、扱いは変わる。

 公爵家の顔となるのが第一夫人である私なのだ。

 第二夫人とは、名ばかりの愛人となる。



 この国は、一夫多妻が認められている。

 お金に余裕があるなら、何人もの女性を囲えるのだ……

 だからこそ、正妻である第一夫人は、どこの貴族でも家庭内での権利が、認められている。

 社会に出ても、それは同じこと。




 ソフィアには、ジョージア以外、何もないのだ。




 結婚式に喪服を思わせる黒のウェディングドレス……




 不気味な気がしたが、1年後には、私の元にジョージアはいないのだから、そんな当て付けされても私は痛くも痒くもない。

 もちろん、国同士の政略結婚なため、私達の離婚は、許されない。

 死が2人を分かつときまで、家庭内別居をしていようが共にあるのだ。




「ニコライ、ありがとう!」

「いえ、あと、これもちょっと躊躇うんですが、

 いまだにソフィア様は、隣国の黒の貴族と繋がりがあるようです」

「そう……それについては、心に留めておくわ!」



 隣国の黒の貴族とは、バニッシュ子爵のことだ……

 あの二人が並んでいるところを想像すると、大人と子供のようだ。

 なついているということは、バニッシュ子爵と、何らかの関係はあるのだろうか?

 疑いだすときりがなくなる。



「そういえば、最近、ソフィア様、夜会に出てないって噂は、聞いたな?

 体調不良とかで、とても出歩ける様子じゃないらしいよ?」

「そうなの?」

「うん。まぁ、噂だからね、真相はわからないけど……

 噂ついでに、悪阻じゃないかって話もあるんだ」

「悪阻?」



 え?どういうこと?

 ここ最近は、ジョージア様もずっと私についていてくれる。

 なので、ありえない……

 思い当たるとしたら、一晩帰ってこなかった日だ。



 私の頭の中は、フル回転しているところだ。

 こんなことをジョージアに問い詰めるのもおかしな話である。

 なので、胸の内にしまっておくしかないだろう。



「あくまで、噂だけどね……」

「それなら、僕も聞きました。

 ソフィア様の体調が悪くて、医者を呼んだとかなんとか……

 でも、その医者は、それ以降呼ばれてないって話ですしね……

 次は、女医を呼んだっていうのも聞きましたよ?

 女医って数が少ないから、結構、噂になりやすいんですよ!」



 ますます、信ぴょう性の高い話になってきたように思える。

 もし、本当なら、私と同時期に生まれるのか……

『予知夢』でみたあの黒髪で黒目のジョージアに似た要素のない子供か、はたまた、別のジョージアとの子供が。


 今は、考えても仕方がない。

 生まれてこないと、わからないことなのだから……





「あのね、私からも報告があるの。

 ここだけの話にしてほしいんだけどね……

 私も子供ができたの」

「えぇ?」

「本当ですか?」



 コクンと頷く。



「「おめでとうございます!」」

「ありがとう。

 ただ、私、毒を盛られたりしてるから……

 なるべく、身体の変化があるまでは、公表しないつもり」

「わかりました!」

「しばらく、社交もしないつもりなのだけど、たまにはお茶は飲みに来てね!

 ウィルやナタリーそれにティアなら歓迎するわ!」



 友人たちと会えるのは、やはりとても嬉しいし、情報収集するためにも定期的に話は聞きたいと思う。

 屋敷から出られないなら、なおさらだ。





「有意義な時間をありがとう!」




 私の締めの言葉をもって、このお茶会は終了となり、それぞれ家路につくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る