第145話 よく食べますね?

 パルマが家に来てから1週間。


 午前中は、デイルのところ勉強させてもらい、午後は私のそばで仕事をする様になった。




 今日は、屋敷の侍従たちのお給金計算だ。

 これが、なかなか大変。

 私、1人でやってたんだけど、今月と来月は、パルマがいるので手伝ってもらうことにした。

 なんか、納得いかない金額の人もいるのよね!なんて思っても、今の私では、やっつけ仕事になっているので、口出しできない。

 もう少ししたら、このへんの給与体制とかディルなどの後進話とか考え様と思う。




「デリア、何か食べるものはないかしら?」



 そういってデリアの方を向くと……困った顔をしている。



 先程、もらったばかりのクッキーもお皿の上はすでに空っぽだ。

 それなのにお腹がすく。

 そして、食べ物がきれると気持ち悪い。




「アンナリーゼ様って、とてもたくさん食べられるのですね?」




 不思議そうに私を見つめるパルマ。

 デリアは、パルマの言葉を否定しようとしたが、現状の食べる量を考えると言葉が出なかったようだ。




「よかったら、どうぞ!」




 パルマは、自分用のお菓子を全部くれる。

 私は、それもすぐにたいらげてしまう。

 というか、もごもごしていないと、気持ち悪いので常にもごもごと口を動かしていたい気分なのだ。


 私も、こんなことは今までなかったので不思議でしかたなかったが、食べられるので病気ではないだろう……と思っている。





「アンナ様、さすがにちょっと食べ過ぎなのではないですか?

 昨夜も食べ物を探してましたよね……」

「バレていたの?

 何か口に入れてないと気持ち悪くて……」




 気持ち悪いという言葉に反応して、デリアは、私に近づき熱がないか見てくれる。

 特に変わったこともなさそうだ。




「ちょっと、旦那様に相談してきますね。

 席を外します……」




 私の部屋から出て行くデリア。






 しばらくするとジョージアとデリアが、連れ立って部屋に入ってくる。




「明日、主治医を呼ぶから、しばらくおとなしくしてるんだよ?」

「私、どこも悪くありませんよ?

 体調は、すこぶるいいくらいです!」




 返答した私に、ジョージアは釘を刺していく。




 ジョージアは、私を本当に心配してくれるのだから……と素直に聞くことにし、今日は、仕事を切り上げた。



 もちろん、パルマにも今日は休むように伝えると、ディルのところへ行ってきてもいいか尋ねられたので許可をだした。





 特に用事もないので、セバスに手紙を書くことにする。



 ニナの弟でパルマのことをどうしようか悩んでいること、そして、こちらに来て私の配下になりたいと言っているので、諦めさせるにはどうしたらいいのか……

 もし、どうしてもこちらに引越ししてきた場合の爵位は、どうしたら取れるのかなどなど盛りだくさんで手紙を書いていく。




「パルマの将来にきっと役に立つ答えをくれるはずよ……」





 祈るように封をして、デリアに託すとすぐに送ってくれたようだ。





 翌日、ヨハン教授が私の診察に来てくれる。

 アンバー領にいればもう1日かかるはずだが、何故か翌日に来たので驚いているところだ。




「おひさしぶりです。

 アンナリーゼ様、お元気でしたか?

 おっと、元気じゃないから呼ばれたのか……」




 とてもめんどくさそうに私の方を見ている。




「久しぶりね。

 残念ながら、私は、すこぶる元気よ?」

「そうですか……

 じゃあ、触診から……」

「あの……」

「はい、目よし!胸に異常なし!」

「なんか、その言い方嫌だ!」

「次、脈。

 今日は、手首でとるから静かにしてて……」




 真剣な顔でヨハン教授に言われたら、逆らうこともできず、大人しくしている。

 その様子を、ジョージア、ディル、デリア、パルマが見ている。

 そんなに見つめられると、恥ずかしいのですけど……




「デリアといったかな?」

「はい、そうです」

「アンナリーゼ様の月のものがなくなったのはいつ頃かわかるか?

 それか、最後の日か……」

「なっ!何を言い出すの!

 こんな男性ばかりのところで!!」

「アンナリーゼ様、うるさいですよ!

 だまらっしゃい!」




 私は、慌てふためくが、ヨハン教授に叱り飛ばされ、それでも気持ちが右往左往しているところだ。




「えぇ、それなら、わかりますよ。

 たしか……先……先々月の月半ば頃が最後……



 !!!



「もしかして……?」





 デリアは、何かわかったようだ。

 私は……自分には無頓着なため、自分のことを言われているのにさっぱりわからなかった。

 それは、私だけでなく、ジョージアもパルマもである。

 ディルは、わかったようでなんだかとてもあたたかい表情で笑ってくれた。




「あぁ、懐妊だ!」

「おめでとうございます!アンナ様!」



「「「えっ?」」」



「誰の解任?」

「ボケたことは、それくらいにして……

 ご懐妊だよ、アンナリーゼ様。

 来年の春ごろ生まれるかな?」



「えっ?生まれるって、子供が?」

「他に何が生まれるんだ?スイカか?カボチャか?」




 失礼な物言いだが、まぁ、そこは許そう。



 でも、イマイチ実感がわかなかった。

 つわりって、食べ物を見ただけで気持ち悪くなるって聞いていたし……

 本での予備知識もそうだった。



 ジョージアも似たような知識だったのだろう……

 全く私にそのような症状がなかったため、『懐妊』と聞いてもピンと来ていないようだ。




「今、どんな感じ?」

「どんなって……特に変わってないわ……

 しいて言えば、口の中に何か食べ物を入れておかないと、食べ続けないと、

 気持ち悪い……」

「ふーん。

 アンナリーゼ様は、食べ悪阻だね。

 食べないと気持ち悪いけど、食べ過ぎると母体にも子供にもよくないことも

 あるから、量を調整したり食べるものの味を薄味にして食事を分割するとか

 ちょっと工夫が必要だ。

 生まれるまで、俺が側にいてやろう!

 その方が、都合がいい!」




 ヨハン教授が、何か、勝手にこの屋敷に住むような話になっているが、それは、今のところどうでもいい。




 むしろ、今は、子供だ。

 子供が、お腹にいるのだ。




 あの子が、ここに……




 そっと、自分のお腹をさすってみる。

 まだ、なんともなっていないお腹を、皆がみている。





「アンナ、おめでとう!」




 ジョージアは、私の前にかがんで私の手の上から一緒に私のお腹に手を置いてくれる。




「ありがとう、ジョージア様。

 なんだか、実感がわきませんね?」

「俺も……

 でも、嬉しいよ!」



 ニッコリ笑うと、ジョージアも優しく微笑んでくれる。




「元気な子供、生んでおくれ!」

「そうなるように頑張ります!」





 二人で微笑みあっていると、ディルとデリアが一気に慌ただしい雰囲気になる。





「あぁ、そうだ。

 服とかは、ちゃんと考えたほうがいいよ。

 もっと、ゆるっとしたのとかのほうがいいな……

 あと、ヒールも禁止!

 食べるものは、塩分控えめ!小分けにして何回も食べさせて!」







 ヨハン教授の独り言のような呟きで、翌日にはすべてそろっていたことに驚いた。

 食事から服やら靴など、何もかもが、私のことを思って用意されるものとなったのだ。








 私は、少し、怖くなった……





 ハニーローズ……私とジョージア様の子供で、ハニーローズ、戦争を終わらせる者。

『予知夢』のその子が、とうとうお腹にいるのかと思うと、震える。





 元気に育ってね……

 私、あなたのこと全力で守って見せるから!!




 怖くて、震えてしまったが、母になるのだ。

 決意固く、ハニーローズを守ると私自身に誓うのであった。

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