第56話 無音の世界

 模擬戦のおかげか、今日は早く眠くなった。

 ベッドに座っただけで、とろんとした瞼は重く閉じていく。

 そのまま、シーツに潜り込んでベッドの中で丸くなると……体はぽかぽかとしてきて、いつでも寝れる状態になっている。



 部屋に戻ってくる前に、もちろん当たり前のように兄に珍しくメチャクチャ叱られた。

 正式な模擬戦を申し込んで、審判も立てて、相手も戦ってくれるって言ったから、別に叱られる道理はないのだけど……令嬢らしからぬ行いというので、叱られたのだ。

 いつものことだと思うので、兄に叱られるのはなんだか納得いかない。


 しかし、兄にも兄の考えがあったのだ。

 あと1年で、自分のところから離れていく妹のことを思うと気が気じゃないらしい。

 頼むから、大人しくしてくれと懇願された。

 懇願されたくらいで大人しくなるのであれば、とうの昔に深窓の侯爵令嬢と言われていたであろう。

 そんなことにはならないと、もう諦めているのだと思っていたのだが……兄は、手の焼ける妹に一般的な令嬢になることも忘れないよう諭してくれたのである。

 はねっかえりは、厄介ごとを招き入れるらしいのだ。

 兄なりの心配なのだろう。


 叱られたことを思い浮かべていると……そのまま抗いようのない眠りについてしまった。




 もやもやっとした見たことがない景色が広がる。

 あぁ、これは夢だとわかる。

 ここ1年くらいは、現実が忙しすぎて見ていなかった。

 私の夢は、視覚的に見ることはできるが、音のない映像もある。

 長い映画を見るようなときもあれば、一瞬だけの映像も。

 今回は、少し長めの映像のようだった。



 うーん。これは、どういう状況なのだろうか……?

 ソフィアに似た男の子……が、私の子供と対峙している……?


 あっ!男の子の腕に、アンバーのブレスレットがはまっていた。

 ジョージアとソフィアの子供だろう。

 アンバー家の人間として扱われるのは、妻の場合は、国宝になっているアンバーの宝飾品を付けなければならない。

 第二夫人や子供であれば、準国宝級のアンバー家に伝わるアンバーの宝飾品を付けることになっている。

 ただし、正当な継承権を持つ蜂蜜色の瞳を持つ子供は、瞳が宝石の代わりとなり、一切の宝石がなくても当主の次の上位で扱われる。



 私の子供は、当主の次となるわけだ。

 ソフィアの子供が、何を言っているのか音声がないのでわからないが、なんとなく読み解くことはできそうだ。

 年の頃からいうと、ちょうど私ぐらいだろう。

 よくよく見るとそこには、シルキーそっくりな男の子と、イリア嬢にそっくり女の子がいる。


 あぁ、これは学園で行われるお茶会の一幕なのだろう。

 周りには、テーブルが並んでいて、それぞれの前には、素敵なカップにお茶が入っていて、とてもおいしそうなお菓子が置かれている。

 そして、我が子が、ソフィアの子どもやイリア嬢の子どもを言い負かしたという構図だろうか……?

 ここだけにみんなが集中していて、お茶会で注目を浴びているようだ。

 


 誰に似たのか、無鉄砲な。

 あぁ、私に似たのか……

 容姿は、ジョージア様そっくりなのに……もったいない……もちらん、自分のことは棚に上げている。

 私なら、完膚なきまでに言い負かしはしないだろう。

 頭で勝てるとは思っていないので、武力行使あるのみ!である。



 見た感じ、ここがお茶会の下座ね……イリア嬢がしそうな嫌がらせだわ……まったくぅ……親子そっくりなのね……結婚する予定のハリーもとっても大変そうだ。

 そう思ったところで、映像が途切れた。



 私はそのままぐっすり眠りについたようで、次に意識が戻ったら、すでに朝であった。



 夢で見た内容は、まだはっきり覚えている。



 早めにぐっすり眠ったようで、いつもより少し早く目が覚めた。

 朝食までには、十分すぎる時間があったので、この時間を利用して、先ほどの夢を書き綴ることにした。

 未来の我が子のために……どこまで、役にたつのかはわからないけど、それが私の役目であるのだからと言い聞かせて筆を動かせるのであった。

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