翌日の朝、午前五時五十五分頃、武雄と士郎と和哉は居間にいた。


「延長の件、どうしますか?」


「いや、やめとくよ」


武雄は即答そくとうし、首を横に振った。和哉と士郎がわかるくらいにすっきりした顔をしていて、二人は胸を撫で下ろした。昨日、感情を吐き出した分、気持ちが軽くなったのだろうと士郎と和哉は思う。


「和哉の代わりとしてすがり続けるのは良くないしね。それに、わたしの息子は和哉だけだから」


その武雄の言葉に士郎と和哉は満面まんめんの笑みを向ける。


「わかりました!」


士郎は、ちゃぶ台の上でお代の二千九百五十一円を武雄から受け取った。


「ご利用、ありがとうございました!」


「ありがとね」


外に出て武雄が礼を言う。士郎は許可無く武雄をがばりと抱きしめた。


「父さん、また、会えるから」


「あぁ、また会おう」


武雄は士郎の背に腕を回して背中を数度叩いた。そして、どちらかともなく二人は離れた。


"父さん、また、会えるから"


これは、和哉自身の言葉ではなく士郎のものである。


武雄が言った"また会おう"というのは、今よりもっと年老いてあの世に行ったときのことだと思っているんだろうなと、士郎は考えたが、士郎の"また"はあの世行きまでよりもかなり早くのことである。

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