第18節 謎肉と子供
ギルドを逃げるように出てきた二人はそのまま速足のまま近くの市場に入ると、流れるようにグラフォスはそこで串焼きを二本購入していた。
街の真ん中にどでかく構えている噴水広場まで歩いてきた二人は近くにあった椅子へと腰かける。
グラフォスは背中に背負っていたリュックを椅子のわきに置いて口の中に串を入れる。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
すでに一本目の焼き肉串をほおばっているグラフォスからもう一本の串を恭しく受け取ったアカネは恐る恐るといった様子でほおばる。
「これおいしい……」
「おいしいですよね。塩がよく聞いているのにそんなに油もしつこく感じない。何の肉を使っているのかわからないところも、好奇心を揺さぶられますよね」
「え、鶏肉じゃないの?」
アカネは焼き鳥だと思って食べていた肉を何の肉かわからないと断言され、若干おびえた様子で手にもつ串肉を眺める。
「鶏肉にしては弾力があるんですよね。鳥皮ともまた違う感じのこの微妙な歯ごたえがくせになります」
「確かにそういわれてみればそうかも……。ホルモンにしてはぱさぱさしてるし」
「店主に聞いても教えてくれないんですよ。秘密の一点張りで」
「あ、聞いたことあるんだ……」
「もちろん、気になりますから」
気になることがあれば相手がだれであろうが、何であろうが突っ込んでいくのがグラフォスである。
これまでそれで得られた結果は少ないが。
「ま、さすがに魔物肉とかは使ってないとは思いますよ。ちゃんとした肉だと思います」
「そ、そうだよね」
アカネはグラフォスの真顔で冗談か真面目に言っているのかわからない言葉に苦笑いを返しながら再び謎肉串を口に入れる。
「うん、やっぱりおいしい」
「それでどうでした? ギルドは」
アカネが串を頬張る横ですでにグラフォスは肉を食べきっており、その手に残るのは何も刺さっていない木串のみとなっていた。
それをくるくるとまわしながらアカネに尋ねる。
「え? どうっていわれてもなぁ……。グラフォス君の行動が気になって周りを見る余裕がなかったというか……」
「確かにそれはそうかもしれませんね。ドリアさんも騒いでましたし」
「あれは君も悪いような……」
「わかってますよ。さすがに僕も突っ込みすぎたなと反省しています」
アカネの思わぬ返しにむすっとした表情で答えるグラフォス。
そんな彼の様子をみて苦笑を浮かべながら先程訪れたギルドの様子を思い浮かべていた。
「なんかギルドっていうより、酒屋さん? なんていうんだろう。依頼受付とかがついでみたいな印象が強かったかも……」
「確かにこの昼にギルドにいるのはただの飲んだくれた冒険者か朝一のおいしい依頼を逃してふてくされてやけ飲みしている冒険者くらいですからね」
「そうなんだ……」
「朝一に行けばもっとまともな冒険者がいっぱいいるので、ちゃんとギルドっぽい感じはありますよ」
グラフォスは説明するように話しているがかくいう彼も朝一のギルドなど数回しか足を運んだことはない。夕方などたいていの場合ミンネの説教を受けているため、いったことはない。
「まあ機会があれば朝一、夕方に行きたいですね」
「そういえばグラフォス君はなんであの時外にいたの?」
「あの時? ああアカネを助けたときですか。僕も外で情報収集をしているんですよ。僕は別に冒険者ってわけじゃないですからね。夕方にギルドに行く必要はないです」
アカネは情報収集という物言いに違和感を覚えたのか、軽く首をひねり重ねて尋ねる。
「情報収集にしては高度な魔法を使ってた気がするけど……あんまり覚えてないけど私のけがはひどかったし……それがほとんど一瞬で治るなんて」
「まあ……それは……」
「あ、答えづらいことならいいの! ミンネさんにも隠してるくらいだもんね?」
アカネは昨日ミンネにグラフォスが使った魔法のことを話そうとしたときの、彼の必死の抵抗を思い返し若干顔を赤くしながらグラフォスの言葉を止める。
「……昨日のその件に関してはほんとにすいませんでした。それにミン姉にも別に隠してるわけじゃ」
「あ、グラフォスだ!」
グラフォスの弁明は途中で突如として辺り一帯に響いた子供の声に遮られる。
「ほんとだ! グラフォス兄ちゃんだ!」
「かわいいお姉ちゃんと一緒だ!」
「ナンパしてるのー?」
一人の男の子がグラフォスたちが座っているところに近づいてきたかと思うと、周りには続々と子供が集まり、数十秒後にはそこには10人くらいの子供が集まっていた。
「ナンパじゃないし、急に集まってこないでください」
「えー、ここにいるってことはまたお話聞かせてくれるんじゃないのー?」
「そうだよー、そうじゃないならどうしてここにいるのさー」
「やっぱりナンパ―?」
「グラフォス君これっていったい……」
和やかな空気が流れていたのが一変一気に騒々しい雰囲気へと様変わりしたアカネの周囲。
驚きを隠すことができず、まだ肉が残ったままの串を手に持ち立ち上がると、おろおろしていた。
しかしそんな彼女のことなど小さな子供が気にするはずもなく立ち上がったアカネのもとに一斉に子供たちが群がる。
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