第16節 ミンネがくれた金貨と貨幣価値

「仲いいんだね」


 店を出てすぐグラフォスの隣に追いついたアカネは未だ不満げに赤くなった額をなでている彼に微笑みかけながら話しかける。


「まああの冒険者はともかくとして、ミン姉とはいつもあんな感じですよ」


 グラフォスはそういいながらも納得のいっていない顔でミンネに渡された金貨を見つめながら歩を進めていた。


「そういえばミンネさんから渡されていたけど……それは?」

「え? ……ああそっか。アカネはこっちの知識に疎いんでしたね」


 アカネは若干気まずそうにうなずきながらグラフォスが手渡してきた金貨を眺める。

 表面は若い聡明気な雰囲気のある男女が見つめあい手を顔の前で握り合っている。

 裏を返すと大きな滝の絵が描かれていた。


「ずいぶんと精巧に造られている金貨だね」

「それはこのアウリントで流通している通貨ですね。1マが銅貨、1ラが銀貨、1ガが金貨、1マラガが白金貨ですね。今言った順番で価値は大きくなっていきます。それは1ガですね」

「へー、そうなんだ」


「1マ10枚で1ラ、1ラ100枚で1ガ、1ガ10枚で1マラガです。一般庶民で使われている主流の通貨は基本1ラまでですね。マラガ単位になってくるとまあまあ名の知れた冒険者くらしか持ち合わせていないんじゃないですかね」


「え、それじゃあ、この金貨一枚って相当な大金なんじゃ……」

「まあ……そうですね。いつもの食事なら2週間は持つんじゃないですかね。結構余裕で」

「ええ!」


 今自分が持っている金貨の価値を知り、少し慌てたようにグラフォスに金貨を返す。


「そんな大金を投げて渡すなんてミンネさんはすごいね……」


「まあその分街探索を楽しんで来いってことなんでしょうけど。僕も一応稼いではいるんですけどね。ミン姉は受け取ってくれないんですよね」


 グラフォスはそういうとポケットから小さなポーチを取り出してその中から銀貨と銅貨をそれぞれ一枚ずつ取り出す。

 銀貨と銅貨には金貨の裏面と同じように大きな滝が流れる様子を描いた絵は刻まれていたが、表面は特に大した模様はなかった。


「金貨に刻まれている人は、何か有名な人?」

「この二人はこの国を造ったとされる大魔導師様ですね。まあいうなればこの世界を造った神様みたいな感じです。」

「神様なんだ……」


「創造世界マジエイトは四人の魔導師が造り上げたっていう伝承が残されているんですよね。そしてそれぞれの魔導師が国を造り上げた。世界の中央に位置するアウム様とリントー様が造ったのがこのアウリントという国、世界の南に存在するセレナ様が造ったとされているセレナ。そして北に位置しているのがフェイ様が造られたノーフェイ。それぞれの国の金貨以上の通貨にはそれぞれの国の創造主である魔導師様が描かれているらしいですよ」


「らしいっていうのは?」

「僕も本で読んだだけですから。実際にこの目で見たことあるのはこの国の金貨だけですからね」


 グラフォスはそこまで話し切ると、自らが取り出した銀貨銅貨と一緒に金貨をポーチの中にしまった。


 話しているうちに周りは徐々に人の多い市街地にでていて、人の行き交いが激しくなる。

 アカネは周りの大きな大人にぶつからないようによけるので必死だったが、グラフォスは慣れているのか特に気にすることもなく大人の間をすり抜けるように歩いていた。


「でもここまでくると白金貨も見せたいですね……」


 グラフォスはアカネが付いてきていることを確認しながら顎に手を当てて考える。


「でもそんな簡単に手に入るものじゃないんでしょ?」

「そうですね。僕では1年間死ぬ気で森にもぐっても手に入るかどうかはわからないですね」

「それだったらそんなに無理しなくても……」

「アカネは気になりませんか? 白金貨には何が刻まれているのか。どういった形をしているのか」


 グラフォスは人が途切れた道の端でふと足を止めて少し遅れていたアカネの方に向きまっすぐな目でそんなことを尋ねる。


「え、それは……まあ見てみたいかなっていう気持ちもあるけど」

「そうですよね。僕もちゃんとは見たことはないんで、この目でしっかりと見てみたいんですよね。これはいい機会ですよ」

「でもその方法が無茶をしないといけないんだったらやめた方がいいんじゃないかな?」

「一個だけ無茶をしなくてもいい方法があるかもしれません」


 グラフォスは無表情を崩し口角を少し上げる。それはいたずらを思いついたかのような彼には珍しい年相応な表情をのぞかせていた。


「いい方法って?」

「まずは、街探索の一環もかねてギルドに行きましょうか」


 グラフォスはそういうとギルドに向かって一直線に歩みを再開させる。

 アカネはそんなグラフォスの様子に戸惑いながらも急いで彼の後を追いかけるのであった。

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