第48話 交渉

 突如沖に現れた見た事もない鋼鉄製の船を見たゴッデス大陸に住む人間達は驚愕していた。


「な、なんだありゃ! 鉄の塊が海に浮いてやがる!」

「ど、どうなってる! ありゃどこの国の船だ!?」

「す、すぐにライハ様に知らせを! 急げっ!!」


 慌てる人間達をアースは操舵室から眺めていた。


「……初めて黒船を見た日本人の感覚ってああだったんだろうなぁ……。兄さん、姉さん人化はオッケー?」

「「「おうっ」」」


 アースは余計な刺激を与えないために人化して交渉に臨む事にした。

 しばらく待っていると馬を走らせた人物が遥か彼方から駆けてくるのが見えた。


「来たようだね。さあ、相手はどんな人間かな」


 アースは馬が港に入ってきた事を確認し、操舵室からスピーカーを通して声を掛けた。


「あ~あ~。我らに攻撃の意思はない。今から港に入るが、攻撃はしないでもらいたい。もし攻撃されたら敵対する意思があるとみなし、相応の対応をさせていただく。貴殿らが賢い選択をすると願う。以上だ」


 その声を聞いたライハは驚いて声も出なかった。


「ライハ様!」

「……はっ! 皆の者、間違っても攻撃はするな! 船が着くまでその場で待機だ!」

「「「「はっ!」」」」


 アースは船を回転させ、バックで岸へと着ける。


「ふ、船が自在に動いて……後ろに進むだと!?」

「ど、どうなってんだ!?」


 人間達はあまりの技術の差に構造すら理解出来ていなかった。ただただ船が岸に着くのを口を開けて見るしか出来なかった。

 アースは船を停め、兄達を率い甲板に降りる。


「初めまして。この中で一番偉いのは誰かな?」


 アースはライハを見てそう告げた。


「私だ。私はライハ・ウル・ミカエル。連合国を先導しているミカエル王国の王だ」

「連合国ね、今ゴッデス大陸を統治しているのはあなたか?」

「いや、私と三人の王で統治している」


 そう話している間に、ライハが言った三人の王が馬を飛ばして港へと到着した。


「な、なんやアレ!? ごっつい船やな!?」

「こ、鋼鉄の船……?」

「むぅっ、なんだあの魔力は……! あの四人……、ただ者ではないな……」


 遅れて到着した三人がライハの後ろに並ぶ。


「その四人か、なるほど。では交渉を始めようか」

「交渉?」


 アースは船から岸へと飛んだ。続いて三人も飛ぶ。


「そう、交渉だ。俺達はデモン大陸から来た。目的は人間の考えを知る事。グラディス帝国皇帝は俺が討ち取った」

「な、なにっ!? ち、ちょっと待て……! デモン大陸に人が住んでいるのか!?」

「ああ、今は人の姿をしているが正体は竜だ」

「「「「り、竜っ!?」」」」


 ライハ達はそれぞれ武器に手をかけようとした。


「良いんだな? 抜いたら戦争。悪いけどそうなったら最後、この大陸から人間は消え失せるよ?」

「くっ……!」


 ライハは剣に伸ばした腕を下げた。


「……交渉と言ったな。何が望みだ」

「そうだね、さっさと話を終わらせようか」


 アースはライハに向けこう宣言した。


「まず、人間はデモン大陸に近づくな。近づいたら船は沈める。この鋼鉄船が一隻だけだと思うな」

「……」


 ライハは黙ってアースの言葉を聞く。


「次に、俺達は無駄な争いは好まない。そちらから手出しされない限り俺らも人間に手出しはしない。そして、そちらが望むなら取り引きにも応じる準備がある」

「取り引き?」

「そうだ。現在デモン大陸では竜、エルフ、魔族、獣人が慎ましく平和に暮らしている。俺はその平和を壊す奴は許さない。先のグラディス帝国との一戦でのこちらの被害はゼロだ」

「あ、あのグラディス帝国と戦って被害ゼロだと……!?」


 ライハ達は開いた口が塞がらなかった。


「この船を見てわかるように、俺達の文明はお前達より遥か先にある。そうだな、例えばあの船に積んである主砲、それ一発でこの辺り一帯を消し飛ばす事が可能だ」

「い、一発だと……」

「そうだ。やって見せようか?」

「ま、待て! 私達に敵対の意思はないっ!」

「後ろの三人も?」


 三人の王も首を縦に振る。


「良かった。なら交渉はここまでだ。デモン大陸に侵攻して来ない限りはお前達の命は保証しよう。それと、少しこの大陸を見て回りたい。許可をもらえるかな?」

「見て回る? 何が目的だ」

「別に。人間に興味があってね。グラディス帝国にも良い人間はいた。その人間達は今デモン大陸で暮らしている。これからわかるように、全ての人間が悪人って事もないんじゃないかと思ってね。もし、全ての人間が悪人なら今すぐ絶滅させるんだけどさ。今回ここに来た目的はデモン大陸に近付かせないようにするのと、人間の調査だ。協力してもらえるかな?」


 ライハは頷くしかなかった。目の前には四体の竜、しかも鋼鉄の船。逆らったら死ぬのは目に見えていた。


「……好きに見て回るがいい。だが……、民を傷付けるのは許可出来ない」

「罪を犯している人間でも?」

「……そうだ。罪を犯した者はきちんと捕縛し、裁判にかけられた後処罰されなければならない。裁かず殺すなど無法地帯の温床となってしまう。ここは法治国家だ。これだけは守っていただきたい」

「良いだろう。では……」


 アースは戦艦に手を触れ、戦艦をストレージの中へと収納して見せた。


「「「「っ!? き、消えた!?」」」」

「スキル【ストレージ】。収納しただけだよ。じゃあ……町に案内してもらえる?」

「……こっちだ」


 アースはライハ達四人に案内され、人間の町へと向かうのであった。

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