第45話 悪夢
普段から最下層で無双するアースに加え、今回は両親の下で厳しい修行を終えた火竜、水竜、風竜までがダンジョンに潜る。これはダンジョンに生息する魔物にとっては悪夢でしかない。
「さて、どうするよ?」
ダンジョン一階に到着した火竜がそう問い掛ける。
「そうねぇ……、狩った数を競ってもつまらないしねぇ……」
「ならこうしない?」
風竜がある提案をした。
「ダンジョンは十階ごとにボス部屋があるじゃん? そのボスに一人一回ずつ挑戦してさ、一番良い宝物をゲットした者が勝ちってのはどう?」
「その宝物の勝ちは誰が判断するのよ」
「そこは僕に任せてよ。僕はスキル【超鑑定】を持ってるからね! 宝物のレア度から価値、売却額まで全て見通せるからね!」
「一回ずつの勝負か、面白い。アース、どうするよ?」
アースは言った。
「俺はそれで今構わないよ。じゃあ十回勝負だね。ところでさ、これ勝ったら何か貰えるの?」
「そうだなぁ……。勝った奴は他の三人が入手した宝から好きな物を三つ貰えるってのはどうだ?」
「良いねぇ。で、最下位は?」
そこで水竜が嬉々としてこう言った。
「最下位は一番運がなかったって事で……、ゴッデス大陸に着くまで皆の召し使いになるってのはどう? 召し使いは主のどんな無茶振りにも応えなきゃならない。どう?」
「それは酷すぎじゃない? 水竜の召し使いなんて何言われるかわかったもんじゃないし!」
「勝てば良いのよ、勝てば。それとも……負けた時の言い訳かしらぁ? 風竜ちゃん? おほほほほ」
「ば、バカにするなよっ! 運で僕が水竜なんかに負けるわけがないじゃないか! やってやるよ!」
「じゃ決まりね」
こうしてダンジョンアタックは竜たちのラックバトルへとなりかわった。
まずは地下十階。ボスは言わずもがなジャイアントスパイダーだ。
部屋の扉の向こうにあり得ない位強力な覇気を感じたジャイアントスパイダーはこう思っていただろう。
『こいつらバカじゃないの!? いったい何回私を殺す気!? ボスなんてもうイヤァァァァァァァァッ!!』
ボス部屋に入った四体の竜はこう叫んだ。
「ボス狩りじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『ひ……ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』
それから竜たちによる蹂躙が開始された。
「……ちっ蜘蛛の糸か。ゴミだな」
「……はぁ? 毒液? いらないわよこんなゴミ!」
「……お、僕はハイポーションだ!」
「ふっ、どうやら一回戦は俺の勝ちだな。俺のは……スパイダーシールドだ」
「「「……次行くか」」」
一回戦は余裕の勝利だ。ここでアースはあるズルをしていた。そのズルとは……。
地下二十階。ポスはツインヘッドウルフだ。
「お、こりゃ俺の勝ちだろ。俺のは炎の石だ!」
「あら、奇遇ね? 私は氷の石よ」
「むむむ……! ウルフの毛皮かぁ~。アースは?」
「ふっ、俺のは炎氷の爪だ」
「「「またアースの勝ち!?」」」
二回続けてアースが勝った。そしてそれは三回、四回と続く。これにはさすがの三人も怪しさを感じ、アースに詰め寄った。
「アース、お前なんかやってるだろ。吐け」
「そうよ! これは運勝負なのにアースだけが毎回最高レアを手に入れるなんてありえないわ!」
「お願いだよアース! 僕だけにその秘密を教えてくれっ!」
「あぁん!? 風竜……、お前兄貴を召し使いにしようってのか!?」
「そうよ! 教えるなら私にしなさいっ! もしアースが召し使いになっても酷い命令はしないから! ね?」
三体の竜は欲にまみれていた。そこでアースは閃き、もっともらしい事を言って誤魔化した。
「皆さ、物欲センサーって知ってる?」
「「「物欲センサー?」」」
「そう。宝箱はさ、開けるまで中身が何かはわからないだろ? で、宝箱ってのはその物欲センサーが中身に多いに影響を与えるんだ。レア出ろ、レアが欲しいって物欲が宝箱に影響し、中身はどうでも良い物、もしくは狙っている物が絶対出なかったりするんだよ。これが物欲センサーね」
「な、なるほど! なら無心で宝箱を開けりゃいいんだな! よっしゃ! 秘密がわかりゃこっちのもんだぜ!」
「無心、無心……! よっし、欲は捨てたわ!」
「物欲センサーかぁ……。なら僕にもまだ勝ち目はあるかも!」
アースは思った。
(兄さんたち……、ダンジョンにはあまり潜らなかったな? 宝箱は敵を倒した瞬間に中身が決まるんだよ? そして、狙ってレアを出す方法もちゃんとある。偶然とか運に頼ってるようじゃ……俺には勝てないよ?)
地下五十階、そして地下六十階の結果でアースの優勝が確定した。
「はい、俺の勝ち~。さぁて、召し使いは誰になるのかな~?」
「「「ぐぬぬぬぬ……! 絶対さっきのは嘘だ!」」」
「嘘じゃないよ。あの話は本当さ。皆まだまだ精神修行が足りないんじゃない?」
「「「な、生意気なぁぁぁぁぁっ!」」」
そのまま地下百階まで到達するも、誰一人アースに勝てた者はいなかった。この勝利はひたすらダンジョンに潜り、どうすれば高価な物が落ちるか研究したアースの勝ちである。
「ぜ、全敗とかありえねぇ……」
「絶対コツがあるはずなのよ!」
「うわぁぁぁぁん、なんでだよぉぉぉぉっ!」
それでは風竜による鑑定結果を発表しよう。
「一位はいわずもがな俺、地竜。二位は……風竜だね。で、三位は火竜。となると最下位は?」
「わ、私!? 嘘でしょ!? い、嫌よ召し使いなんて!」
「姉さん? 往生際が悪いよ?」
「い~や~だ~っ!」
水竜は地べたを転がり回り、駄々っ子のように拗ねていた。
「姉さん、竜の誇りはないのかい?」
「誇りなんて海に流したわよっ! アース~、もう一回! もう一回勝負しよ? ね?」
「諦め悪いねぇ……。なら……三人でもう一回勝負したら? 地上に戻りながらさ? ただし、二人がオッケーしたらだけど」
水竜はガバッと起き上がり、二人に言った。
「もちろん受けるわよねぇぇぇぇっ!?」
「は? やるわけないだろ。な、風竜?」
「あぁん!?」
「ひっ!?」
水竜に睨まれた風竜は小さくなっていた。
「お姉ちゃんの言う事は絶対! 小さい頃からそう言いつけてきたわよねぇぇぇ?」
「うわぁぁぁぁん! この鬼姉ぇぇぇぇぇっ!」
「ほほほほほっ! さあ、復路で再勝負よ! 帰りは負けないんだからね!」
そう意気込み、先に進む水竜。アースはその場に残った火竜と、哀れな風竜にこっそりとネタバラシをした。
「おまっ、やっぱりズルしてたんじゃねぇか!」
「しっ、姉さんに聞こえる。あまりに可哀想だったからさ。これであの暴君に痛い目をみせてあげようよ」
「……アース、お前……悪だな」
「秘密がわかればこっちのもんだ! よし、姉さんがボッコボコに凹ましてやるっ!」
宝箱は敵を倒した瞬間に中身が決まる。物欲センサーも確かにあると言えばあるが、本命はそこじゃない。大事なのはラストアタックだ。このラストアタックでクリティカルヒットを与えると何故か最高レアの宝が手に入る確率が跳ね上がるのである。その確率は九割。最下層の宝はレア度が高すぎるため最高レアとまではいかないが、ある程度高レアなものは落ちる。それは適当に狩るより遥かに高確率となる。
「さあ、二位を目指して帰るわよっ!」
何も知らない水竜はやる気に満ち溢れていたが、地上へと帰還した頃、そのやる気は霧散したのであった。
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