第28話 前夜祭

 アースはフランと外壁内の中央に移動しながら考えていた。これから何をするにしても恐らくどの区画からも不足してくるものが出るのではないかと。

 そこでアースはこの中央に自分の家と工房を作る事にした。そこで作られる物は必須となる本当に生きるために必要な必需品の他に、娯楽や便利グッズといった嗜好品といった物である。必需品は無償で配り、嗜好品は販売する事にした。そして販売された物は他人に転売してはいけない事も明記しておく。さらに、アースが作った物で利益を得ようとする者には厳しい罰を与える事も付け加える。


 中央に到着し二日、全ての区画が交わるポイントにアースの家と工房、そして販売所が完成した。


「これが私達の城ですね、アースさんっ」

「そうだね。ここがこれから俺たちの本拠地になる。一緒に頑張ろうね、フラン」

「はいっ!」


 本拠地を完成させたアースはストレージから板状の何かを取り出し魔力を流す。


「? アースさん、それは?」

「これは魔道通信機。離れていても会話が出来る魔道具だよ。あ、もしもし? リリス?」


 アースは魔王リリスに連絡をとる。


『もしもし? どうしたのじゃアース?』

「ああ、急で悪いんだけど明日会議を行いたいんだ。エルフの長と魔王、そして獣王に俺の四人で今後について話し合おうかなってね」

『ふむ。わかった。どこに行けば良いのじゃ?』

「それぞれの区画が交わる場所に俺の家と工房を作ったからそこに」

『帰ってこんと思ったら……今すぐ行く!』


 そこで通信は終わった。


「これで良しっと。次は獣王だな」


 アースは獣王ガラオンにも同じ内容を伝えた。獣王も快諾し、すぐに来ると返事をしてきた。


「明日で良いのになぁ……」

「ふふ、皆のリーダーであるアースさんに呼ばれたら皆すぐに来ちゃいますよ」

「リーダーって……。ま、良いや。後は兄さん達だけど……。中々帰って来ないところをみると……父さんたちと再会を楽しんでるのかも知れないなぁ」


 三体の竜は絶賛死にかけているとは思いもしないアースであった。


 そしてエルフの里を作ってから二日目の夜、魔王と獣王が先に中央区へとやって来た。そこになぜか明日来る予定のエルフの長までやって来ていた。


「話し合いは明日なのになぁ……」

「ふふっ、良いじゃない。まずは顔合わせしておきましょうよ」


 エルフの長ルルシュがそう仕切り、魔王と獣王を見て言った。


「私はエルフの長ルルシュ・ルノワールです。この中では私が一番歳上かしら? 皆さんよろしくね」

「ルルシュ・ルノワール……! かつて初代魔王が心を寄せたあの……!」


 そう魔王が震えていた。


「あなたが今の魔王ね?」

「う、うむ! 妾が当代魔王、リリス・デモン・グロウフィールドじゃ。よしなに頼む」


 まずは二人が言葉を交わす。続けて獣王が胸に手をあて、自己紹介を始めた。


「我が獣王ガラオン・イル・ゴッデスだ。まずは受け入れてもらえた事を感謝いたす。ありがとう」

「大変でしたね。最近の人間はどうかわかるのはあなただけ。明日情報をもらえると助かるわ」

「ああ。奴らの非道っぷりは明日の会議で嫌と言うほど語るつもりだ」


 三人が言葉を交わし落ち着いた瞬間を見計らい、アースが声を掛ける。


「本当は明日の会議後に親睦会でも開こうと思ってたんだけど皆集まったし今からやろうと思う。前夜祭って感じかな。皆に俺から料理と酒を振る舞うよ。ちょっと待ってて」


 そう言い、アースは中庭にバーベキューコンロを出し、椅子とテーブルを並べる。テーブルにはダンジョンで集めていた様々な酒や肉、野菜が並べられる。


「す、すまぬアース殿。我は熱い食べ物は……」

「あ、もしかして猫舌?」

「う、うむ。我はライオン型なのでな」

「そっか、なら……生肉で大丈夫?」

「むしろ生肉が良い。すまぬ」

「ああ、全然大丈夫だよ。じゃあ獣王にはオークキングの生肉ね。後はエールかな? 他の皆は焼けた肉にこの特製タレをつけて食べてね。お酒は好きに選んで良いよ」


 アースが肉を切り分け、フランが焼いている間にルルシュとリリスが酒を見て悩む。


「私はそうねぇ……この葡萄酒にしようかしら」

「妾はこの米酒にする! 米は妾らのソウルフードでもあるからな!」

「あら、それも美味しそうねぇ」


 そんな感じで飲み物が決まり、前夜祭が始まった。そしてアースは後悔した。何故酒を出してしまったのかと。


「あはははは! 美味いっ、美味いのじゃ! えろえろえろ……」


 リリスはキラキラ製造機に。


「ほらほら、獣王。もっと飲みなさいよ」

「い、いや我はもう……」

「あぁん? 私の酒が飲めないってのかい?」

「い、いただきます……しくしくしく……」


 ルルシュは絡み酒、獣王にその災害が直撃していた。


「アースさんも飲んでます?」

「ん? ああ、飲んでるよ。フランは?」

「私も葡萄酒を少々。あ、これ焼けましたよ? はい、あ~ん……」

「あ~ん……うん、美味しいよフラン」

「はいっ! では次はこれなんか」


 二人は自分たちの世界に入っていた。


「……なにあれ」

「仲がよろしいですな……」

「うぶっ……えろえろえろ……」


 そんな二人をジト~っと眺める二人とひたすら吐きまくるリリスなのであった。


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