第18話 死の大地
「ま、まぁとにかく乗ってよフラン。早く死の大地に向かおう」
「あ、はいっ! あの……どう乗れば……」
アースは首を下げて背中を指差した。
「背中に乗って首に掴まってもらえる? あまりスピードは出さないからさ。多分それで大丈夫だよ」
「わ、わかりました! 失礼しますね?」
フランがアースの身体によじ登り、首にしがみつく。
「ア、アースさん? その重かったりしませんよね?」
「あはは、大丈夫大丈夫。凄く軽いから気にしないで。じゃあゆっくり浮くからね? よっ!」
「きゃっ!」
アースは翼をはためかせ、ゆっくりと木の上まで浮かび上がる。眼下には鬱蒼とした森が延々と広がっていた。
「森ってこんな広かったんだなぁ……」
「た、高いですぅっ!」
「あはは、大丈夫だよ。じゃあゆっくり東を目指そうか」
アースはとりあえず森を抜けようと東に舵を切り空を進んだ。空を一時間進むとやがて視界に禿げた大地が映った。
「あれが……死の大地……。酷いな……」
「あ、穴だらけで何も無いです……」
死の大地には草花一つなく、完全に大地が死んでいる様子を窺わせている。何をどうしたのかはわからないが、そこでは生物は暮らせないらしい。
「よし、一端地上に降りよう」
「あ、はい!」
アースは森の切れ目まで進み、地上へと降りた。そこは海岸があり、砂浜が広がっている。だが、死の大地に砂浜はなく、まるで崖の様になっていた。
「大地が競り上がったんだろうなぁ……。これじゃ船は入れないか……」
「凄いですねぇ……」
フランも死の大地を見るのは初めてのようで、目の前の光景に圧倒されていた。
「よし、じゃあまずここに拠点を建てようか」
「ここに……ですか?」
「うん。実はずっと探してた食材があってね。ここなら海も近いしあるんじゃないかってね。それに、ずっと野宿ってのもキツいし。さあ、拠点づくり開始だ!」
アースは人型に戻り、まず崖から砂浜に階段を作る。そして崖の上の森を少し切り開き、死の大地に面して家を建て始めた。その間、フランには大地の質を確かめさせていた。
「……う~ん……。精霊の声が全く聞こえませんね……。やはりこの大地は完全に死んでますね。これでは作物も育たず雨も染み込まない……。どうにもなりそうにないですね……」
フランは黒くなった土をつまみ、質を調べていた。森の大地からは精霊の声が聞こえるが、死の大地からは何一つ聞こえない。精霊が宿れないほど死の大地は酷い状況にあった。
「ほい、完成。フラン、どう?」
「は、早いですね!? どうも何も……ここから向こうの大地は完全に死んでます。精霊の声が全く聞こえません……」
「そっか……。いったいどうしたらこんな風になるんだろうねぇ……。ま、それはこれから考えるとして、家に入ろうか。これからどうするか話し合おう」
「はいっ!」
アースはフランを連れ家に入った。二人が家に入ると、木の陰から黒いフードを被った者が姿を現した。
「……不審者発見……。人間一、エルフ一……。報告に戻る」
そう呟き、フードの人物は木の陰から姿を消すのであった。
そして家の中では二人が今後について話し合っていた。
「待つ?」
「うん。大地は死んでるでしょ? だから魔族は森か海からしか食べ物を得られないと思うんだよ。で、海の側はこの家で防いだ。だから魔族の目にも映ると思うんだよね。こっちから接触したら警戒させるだろうし、あっちから来るまで待とうかなってね」
「なるほど……。わかりました! 私もアースさんの案に賛成します」
「ありがとう。じゃあ海産物を探しながら魔族が来るのを待とうか」
「はいっ!」
そしてその日の深夜、思いの外早く目的の人物が現れた。
「「「「な、何だこれはっ!?」」」」
アースは二階の窓から仕掛けたトラップの様子を窺っていた。
「よし、ヒットだ。さあ、魔族と対面だ」
アースは二階から竜の姿で飛び出し、トラップにかかった魔族たちのところへと向かった。
「何じゃこのロープはっ! なぜ切れんのじゃっ!?」
「魔王様~、敵が来たみたいっす」
「なにっ!?」
魔族たちは足をロープで繋がれ、木に逆さ吊りとなっている。ロープはオリハルコンを糸状にし束ねた特別製だ。切れるわけがない。
「君たちが魔族?」
「なっ!? り、竜じゃとっ!? 報告では人間とエルフじゃと……」
「それは俺が人化した姿じゃないかな。やっぱり見てたんだね」
「人化……くっ! 誰じゃ偵察に出た奴はっ!」
「……」
誰も名乗りでなかった。
「しかしまぁ……魔王自ら出てくるなんてねぇ……」
「ふんっ、当然じゃ! 長が率先して動かねば誰が付いてくるか」
「なるほど。あ~俺は地竜、名はアースだ。敵対する意思はない。今からロープを解くから暴れないでくれよ?」
「竜相手に暴れるわけなかろう。早く解くのじゃ!」
アースは魔族たちを縛っていたロープを解いていく。
「全く……。酷い目にあったのじゃ」
「すまないね。でもこうしないと戦いになってたかもしれないだろ?」
「むっ。まぁ……。人間がいたならそうなっていたじゃろうな」
「そう思ったからトラップを仕掛けたんだよ。さて、君が魔王?」
目の前にいる真っ赤な髪に角を生やし、漆黒のマントを羽織った少女がマントをはためかせ、腰に手を当て名乗りをあげる。
「いかにも! 妾が魔王【リリス・デモン・グロウフィールド】じゃ!」
「そっか。じゃあ中へどうぞ。俺達がここに来た目的を話そう」
「……よかろう。話くらいは聞いてやるのじゃ」
こうして、アースは目的の一つであった魔族との対面を早々に果たしたのであった。
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