悪夢ーこれは正夢なのか

母さん、今日はどこに行くんだ?

 ふふふ、着いてからのお楽しみ


母さん、少し音量大きくして

 本当、この歌好きね

うん、そうなんだ


僕たちは隣に座りあって

たわいもない会話をして

僕が小さい頃

よく母さんが歌ってくれた歌を聞いて

その瞬間を生きていた


右ハンドルの母さんの横で

黄色い建物が、横を通り過ぎていくのを

認識する


いつもと変わらない

何も変わらないと

思っていたんだ


っっ!! 母さん!!



母さん! 母さんっ!

ねぇっ! 母さん!

起きてよ! 母さんっっ!!!



タロウ

1人になっちゃったよ……


☆☆☆


「っっっっ!!!!」


漆黒の暗闇が僕を怯えさせた


「か、母さんっ、母さん……」


肩で荒く息をしながら、母さんの寝室に

僕は急いだ

息が止まりそうだった

早く、早く確認しないと……


「っ!! 母さん……」


母さんが寝ている

僕は一気に脱力した

そして静かにその場に座り込んだ

両手を胸に押し当てて

服をこれでもかと握りしめた


(良かった……良かった……)



覚えているのは

母さんと車に乗っていて

僕らはどこかに出かけていたこと

黄色い建物の横を過ぎた時に

何かが突っ込んできた


シャッターが切られたように

場面が変わって

僕は、母さんを

必死に必死に

何回も何回も

さすって、起こそうとした


そして、またシャッターが切られたように

場面が変わって

僕は、1人で

愛犬のタロウの散歩をしていた

いつもは母さんと一緒に

タロウを散歩していたのに……


人間は悪夢ほど、覚えていると言うけれど

こんな悪夢を見るなんて……


当然、母さんにこの悪夢を見たことは

言っていない


僕は毎日怯える

これは、正夢なのかと

お願いだから

本当にならないで

お願いだから

僕から1人にしかいない家族ー母さんを

奪わないで







 

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