青のロック・ストリート
和弓カノン
プロローグ
ステージに溢れるスポットライトの光。
ドラムが刻む軽快なリズム。
奏でるギターの歪むサウンド。
響くベースの重低音。
キラキラと輝くシンセサイザーのメロディ。
ヴォーカルのシャウト。
沸き起こる歓声。
興奮で満たされる空間。
全身全霊でパフォーマンスするバンドマン。
ロックを全身に浴びるオーディエンス。
振り上げる腕。
ウェーブのように揺れる手のひらの群れ。
飛び散る汗。
一斉にジャンプ。
満面の笑顔。
コール・アンド・レスポンス。
皆んな揃ってコーラス。
ハンドクラップ。
アンコールを叫ぶ声——
それは、ロックバンドの奇跡。
過去より引き継がれながら、人々の縁を繋ぎ、世界中を巡り、転がり続ける……
『バンドブーム』
1988年から1990年——昭和の終わりからから平成の始まりにかけて、多くのロックバンドが世の中を騒がせた。
それまで、流行歌といえばアイドルや演歌・ポップスなどの歌謡曲だったが、ロックバンドがヒットチャートの上位を独占したのだ。
さらに90年代は『ヴィジュアル系ロックバンド』が、音楽シーンを席巻した。当時の少年少女達はバンドマンに憧れ、バンドを始める男子、熱狂的ファンになる女子が急増した。
しかしブームというのは去るものであり、若者の人気はあっという間にアイドルやダンスグループに取って変わられた。
そして急速にブームは収束して、多くのバンドが解散または活動休止してしまった。
だがそれでも続けるバンド、新しく始める若いバンドは増え続けた。ロックサウンドは人々の心を掴み魅了していたのだ。
それからも、全国のライブハウスやコンサートホールで頻繁にライブが開催された。
多くのバンドが集まる『ロックフェス』イベントが、夏だけでなく年間を通して開催され、何処も何千、何万人もの観客を集めた。
ロックはすっかり日本の音楽シーンに定着したかと思われた。
だが、しかし……
21世紀になってから10年も過ぎた頃には、ロックが”若者の音楽”というのは過去の話となっていた。
90年代に若者だったロックバンドのメンバーは高齢になり、ファンも一緒に歳を取った。
かつての演歌やクラシック音楽と同じように、ロックも中高年が楽しむものになっていた。
さらに、バンドマンは老化による体力の低下・病気でライブ活動が出来なくなり続々と引退してゆき、ロックバンドの数は年々減少していた。
そして2020年。
世界中のエンターテイメント業界に、追い打ちを掛ける出来事が起こった。
——新型ウイルスの脅威。
それは年明けからまたたくまに感染が広がって、日本でも都市部を中心に感染者が激増した。感染力が高く、重症・死亡に至る可能性もあることから、人が集まるライブ・コンサート・イベントの開催が一切出来なくなったのだ。特に小〜中規模キャパのライブハウスは感染のリスクが高いと判断され、閉店を余儀なくされた。
ロックバンドはライブが出来なくなり、インターネット配信ライブ、動画配信イベントに切り替えていたものの、それも1年も過ぎれば先の見通しが立たないことで活動を辞めて、バンド活動から引退せざるを得なくなってしまった。
ロックバンドを志す若者もいなくなってしまった。音楽でプロとして活動する者はコンピューターによる楽曲制作であり、ライブ演奏は行わない。
アイドルやアニメ・ゲームソングで”ロック風”の音楽は存在しているものの、『ロックバンド』は、音楽シーンのメインストリームから姿を消していった。
そうして、一時代を築いてきた数々のロックバンドの姿は、人々の記憶から忘れられていった——
2035年。
『ロックバンド』は、日本のエンターテイメント業界から消滅した。
これは、ロックバンドが消えた世界で、ロックバンドを作ってエンターテイメントの頂点を目指す少年達の物語である。
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