アブラゼミの雄に話しかけてみる



10分後に雨が降ってくるってさ。

さっき、スマホの窓にお知らせが届いだからさ。

君たちにとっては、一分一秒無駄にできないのかもしれないけど、一応ね、教えておくよ。

油でコーティングされてる羽だからって、やっぱり、濡れると困るだろ?


ところで、雨が降ってきたら君たちはどこで雨宿りするんだい?

葉がたくさん生茂った木とか?

屋根が張り出している家の壁とか?

まあ、その辺りだろうね。


前から思っていたんだけど、

そうやって、一日中、鳴いてるじゃない。

それって、完全に待ちの姿勢だよね。

意中の雌、ってわけにはとてもいかないでしょ?

鳴き声で側に来てくれた雌ならって、最早、好みなんて言ってられないよね。

え?大きなお世話だって?

まあ、そうだろうとは思っていたけど、一応、聞いてみたかったんだよ。

ん?鳴いてるのは俺だけじゃないって?

一日中、鳴いてるわけじゃない、と。

あゝ なるほど。

私が聞いている鳴き声は、君一人の鳴き声じゃないってことね。

まあ、そうだろうけど、人間の私たちに、蝉A、蝉B、蝉Cって聞き分けるのは無理だよ。


でもさ、アブラゼミ君。

俺が君に話しかけたのはさ、ヒグラシ君よりもはるかに君の方が大変そうと思ったからなんだよ。

ん?なんでかって?

だってさ、ヒグラシ君は、朝と夕方にほんの少し鳴くだけでしょ?

それで、雌と出会えてるわけだよね。

なのに、アブラゼミ君は、ほんと、一日中鳴いてるじゃん。

下手すれば、夜にも鳴いてる。

それってさ、私とすれば、放っておけないんだよ。


あ、そうこう言っているうちに当たってきたよ。

雨が止むまで、どこぞで少しひと休みしな。

私はそーっと家に戻るから、しょんべんだけは掛けないでね。


君が素敵な雌と出会えますように。






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