寝酒




寝る前にビールを飲む


夕食のときとは違って


つまみも無く


テレビも無く


音楽も無く


ただ 「強風」のところに赤くランプが点灯している

扇風機のモーター音だけがする小さな部屋で


コップに注がれることも無く


缶のまま口に運ばれ


舌と喉のどこかの なんとか点 を一瞬刺激して


ビリビリしながら食道を流れ落ち


胃の中ではどんな風にこねくり回されているかは知らないけれど


顔や頭が適度に もわーんとしてくる様を感じながら


その一瞬の刺激だけを短い間隔で何度も味わおうと繰り返す動作の中で


缶の重さは次第に軽くなり


それに反比例して


僕の胃なのか 頭なのか 心なのか よくわからないけれど


次第に重くなっていく


缶の中身がすっかり無くなっても


あの女の顔を振り払うために


ドラマでよくありがちな 缶を握りつぶす なんてことは俺はしない




代わりに点けた煙草の火は


白い巻紙を焦がす細く黒い線を先頭に


朱色の灯と白い灰を従えて


いつもよりも勢いを増してフィルターに近づこうとするので


まだイラついているのかな と思ったけれど


それは 扇風機の風のせい と気付いたのは


横着な僕が 足の指で「切」のボタンを押した後だった








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