第45話 魯坊丸、思わぬごろごろにラッキー。
(天文22年 (1553年)7月13日)
ごろごろ、ごろごろ、俺は持参したタオルケットを掛けて寺の一室でのんびりと過ごす。
暑い事は暑いのだが床がひんやりとして過ごしやすい。
昨日は(六角)
俺は朽木に向かう途中にあいさつするだけであり、城で浅井攻めの話ができない。
だから、事前に話しを通しておく。
はっきり言って佐和山城をはじめ付近の城がすべて浅井方だ。
実に拙い。
攻める六角方が一方的に不利だ。
多賀神社付近から湖東平野に鈴鹿山脈から流れ出した河川が天然の堀となって広がっている。
おそらく
「魯坊丸はどこが戦場になると思うか?」
「おそらく、敵は街道(中山街道・北国街道)に沿ってある
「では、先に取った方がよいか?」
「いいえ、佐和山城に籠られては時間が掛かります。布陣して貰いましょう」
この
この鞍掛山の上流は芹川と早川が合流して渡河し難くい、また下流部は低地になって地面が
どちらも行軍に向かない。
進軍する六角方は鞍掛山付近で芹川を渡河するのが一番いい場所になる。
つまり、敵にすれば守り易い。
関ヶ原もそうだが、同じような所で戦が繰り返されるのだ。
「ワザと明け渡すか?」
「こちらは大軍です。
「ははは、そんなことを言うのはお前くらいだ」
野戦を好む武将は多いが、野戦が楽だと言う者は少ないらしい。
(六角)
問題は戦況が不利と見れば浅井方はすぐに引く。
そして、谷間で布を敷き直す。
六角方が安全に進軍するには左右の山城や砦を攻略した後でないと、補給路と退路を塞がれてしまう。
俺は長々と浅井家と戦をする気はない。
進軍の手順や大体の配置を決め、織田家の補給地として赤田家を借りる事を承知して貰った。
話を終えると朽木へ向かう本隊が逗留する寺に移動し、合流するまで俺は暇を持て余す事になった。
加藤らは舟で先に高島に渡る者や大津を経由して、京の情報を仕入れに行く者に別れて先発した。
警護が手薄になったので俺は寺から出る事を許して貰えない。
だが、まったく問題ない。
俺は幸せを満喫してごろごろするだけだ。
思わぬ幸せが落ちていた。
◇◇◇
(天文22年 (1553年)7月14日)
本隊が寺に到着し、俺は影武者と交代した。
今日は
観音寺城は鉄壁の山城であった。
その立派さは決して稲葉山城に負ける訳ではない。
西側には
湖から攻めるのは難しい。
東側には
これを無視すると、背後から攻められる事になるので無視できない。
北側には支城の和田山城と佐生城が山の縁に建てられている。
ここを落とさないと尾根伝いに攻める事ができない。
最後に南だ。
こちらも少し離れた所に長光寺山(瓶割山)があり、長光寺城が建てられている。
やはり支城を落とさないと背後を突かれる事になる。
四方を支城で守らせている観音寺城はかなり堅固な城だ。
「魯坊丸なら簡単に落とせそうだな」
「数にものを言わせれば、誰でも簡単に落とせます」
「誰でもね」
登城する道で慶次が不謹慎な事を言う。
落ちない城などない。
あるのは落ち難い城と落ち易い城だけだ。
観音寺城は落ち難い城だ。
「観音寺城を落とすならば、ゆっくりしますね」
「それはまたどうしてだ?」
「背後の山々に逃げられたら手が付けられません。観音寺城を取り囲み、それからゆっくりと山々の城や砦を調略するか、攻略しますね」
「甲賀の方が厄介か」
「甲賀が厄介ではなく、逃げ込まれるのが厄介なのです」
案内をしていた
所々に大きな石が積まれており、石垣で城を護っている。
六角家の家臣は畿内一の城と自負していた。
その自慢の城を紹介する機会を失ったからだ。
「魯坊丸様からすれば、どんな城も簡単に落とせるようですな」
「落とすのは下策です。友好を結んで戦をしないのが上策です」
「領地を広げたいと思わないのですか?」
「思いません。広げ過ぎれば、各地所に領主を置く事になります。世代が変われば、争う事もあり、広げ過ぎても意味がありません」
「領地を広げるのに興味がないと」
「尾張一国で十分ですな。後は友好かどうかだけです。敵対するならば潰しておきますが、友好ならばそれ以上は望みません」
後藤が笑った。
中々に新鮮な考え方と言ってくれた。
本気だぞ。
人の手が届く範囲は限られている。
しかし、長い。
山城は面倒臭い。
馬で上がっているので疲れもしないが、中々に到着しない。
俺は絶対に生活の場にしたいと思わないな。
池田丸から平井丸、本丸を通り過ぎて観音寺を目指す。
少し下に見えるのが進藤の館と後藤の館だそうだ。
六角家は家臣を城に常駐させている。
城の兵に加えて家臣の兵もいるので、500人程度の兵をいつでも用意できる。
織田家で採用している常備兵の別バージョンだ。
末森・那古野は直臣を城に置いて常備兵とし、清洲・勝幡は別途に常備兵を召し抱えている。
何かあった場合、急に兵が揃えられる点で同じだ。
六角家は城近辺に家臣の屋敷を置く事でできるようにした。
兄上(信長)はこの話を聞いて、清洲にも家臣の家を建てると言っている。
家臣の兵を常駐させる事で清州の兵力が増える。
これ以上、増やしてどうするつもりだ?
いずれにしろ、六角家は革新的な守護であるのは間違いない。
俺は観音寺の大広間で(六角)
将来の義理の父だ。
丁寧なあいさつから始まり、兄上(信長)から預かった書状を渡す。
援軍の受託だ。
後は世間話をして、最後にヨイショして終わりだ。
「実の父と思って頼りにさせて頂きます」
「儂も我が子と思っておる。困った時は相談せよ」
「ありがたき幸せ。心に刻んでおきます」
友好的な会見が終わった。
よく判らないが嫡男の四朗が驚いていた。
何故だ?
以前に訪れた時の俺(影武者)と顔が違うからか。
しかし、影武者と知っていたハズなので驚くに当たらないハズだ。
良く判らん。
その後に宴会が用意されており、俺は京と尾張の戦について質問攻めにあった。
これからどこに行ってもこれが付きまとうのか?
おい、冗談は止してくれ。
俺は子供なので日が沈んだ所で寺に帰らせて貰う。
それから宴会は朝まで続いたと言う。
隊長の(織田)
えっ、慶次?
いつも通りに残って酒をたらふく呑んでいたよ。
皆、朝帰りだった。
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