第5話

「ありがとうございます。フィリップさま」


 小箱を開いたクローディアは、喜びに目を輝かせた。

 そこにあるのは水晶がついている可憐な指輪で、けして豪華ではないが、いかにもつつましく品がある。


(すごく素敵。可愛くて、上品で。これがフィリップさまの考える「私に似合う指輪」なのね。もしかして、フィリップさまが私に抱くイメージはこんな風なのかな、なんて……ううん、図々しいこと考えちゃだめ。単にフィリップさまのセンスがいいから、素敵な指輪を選んでくださっただけよ)


「百面相してないで、つけてごらんよディア」


 そういうフィリップはどこか普段と違って素っ気ない。あまり女性に贈り物をした経験がないようなことを言っていたし、もしかするとフィリップも少し緊張しているのだろうか。


「はい、あの……もしよろしければ、フィリップさまが付けて下さいますか?」

「僕が?」

「はい、お願いします」


(別にいいよね、婚約者なんだし、これくらい言っても変じゃないよね)


「分かったよ」


 フィリップは神妙にうなずくと、そっとクローディアの手を取った。

 大好きなフィリップの手によって、美しい水晶の指輪が自分の指にはめられる。たったそれだけのことで、今までのすべてが報われたような気がして、クローディアは思わず涙ぐんだ。


「ありがとうございますフィリップさま。一生大切にします。私……」


 その瞬間、漆黒に染まった水晶は、音を立てて砕け散った。

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