2.パーティを組めと言われても…
「闘士募集中!刻印なしでも大丈夫、綺麗な魔術師と癒し手、可愛い獣使いがいます『ラブアンドデス』キルヒー」
「魔術師(斧の刻印以上)を募集しています。詳しくは『銀の竜鱗』のブリジットかカーティスまで」
「弓手募集!刻印なしの人でもOK!親切丁寧に指導します。冒険者パーティ『跳ね馬旅団』ヘンリー」
受付で勧められたのに従い、冒険者たちでにぎわうパーティメンバーを募る掲示板の前に来れば様々な募集の貼り紙が貼られており、アーシェはその貼り紙を一つ一つ見て回る。
貼り紙には仲間としてどういうクラスの人がいいのか、ランクはどうなのか、きっちり書いてあるものが目を引いた。
「戦える人募集。男女問わず」と全く具体的でないものも一部混ざってはいたが。
「魔術師、前衛、僧侶、が人気なのかな…」
貼り紙で募集されているのは大抵、戦士や剣士、闘士といった敵と近接で戦えるクラスか、魔法を使える魔術師系のクラス。そして回復や加護などを与えることができる僧侶や神官系が目立っており、それ以外にも弓使い、盗賊、精霊術師とさまざまなクラスもちらほら見受けられた。
「あ!」
一枚の貼り紙を見つけてアーシェが声を上げるも、続く文言にがっくりとわかりやすく肩を落とした。
「剣士を募集しています。できれば剣の刻印以上で連絡ください。『黒鉄の槌』ダルトンまで」
自分は登録したばかりの刻印なしの状態だ。
諦めきれずに、一応聞くだけ聞いてみるべきか、と貼り紙の前で足を止めてにらめっこしていれば、ぽん、と肩を叩かれた。
「ひゃっ!」
「あはは、びっくりさせてごめん。…きみ、剣士?」
屈託なく笑って声を掛けてきたのは、同い年ぐらいの少年だった。
腰にベルトで下げているのは矢筒なので弓手なのだろう。
「そうです。…あなたは、弓手?」
「そ!さっきからうちのパーティの貼り紙を見ているみたいだったからさ」
少年は言いながら、まじまじとアーシェを見つめてくる。
「な、なんですか…?」
「……うーん、もしかして登録したて?だったら、ちょっと厳しいかもね。僕たちのパーティはみんな『斧』の刻印で、ドラゴン退治に行ったりするから、『刻印なし』じゃあちょっと、いや、だいぶ心配だな」
そんなに未熟感が満載だっただろうか?とランクを言い当てた少年に聞こうとするも、続いた言葉にぎょっとした。
「ドラゴン退治?!」
「そうだよ。僕も『斧』ランクだし。だから、きみが興味を持ってくれたのはうれしいけど、危険すぎると思うよ」
その言葉に、だめもとで聞いてみようと思っていた気持ちがしおしおとしぼんでいくのを感じて、アーシェは「そっか」とだけ返した。
きっときみにあうパーティが見つかるよ、と慰めのような言葉をかけて、少年は「きみが『剣』ランクになってもソロだったらおいでよ」と手を振って仲間と思しきテーブル席についている獣の耳が生えた獣人や、小柄だが体格のいいドワーフ達のもとに戻っていく。
「……」
パーティに入るのは難しいのかな、とアーシェが思い始めたとき、すぐ近くでパーティ加入の交渉なのか、収穫を迎えた麦畑のようなくすんだ金の髪のアーシェよりも少し年上とみられる青年と、その傍らにいる黒髪に丈の長いローブコートを羽織った人物が数人の男女と言葉を交わしているのが耳に入ってきた。
「うちのパーティでは調査役の盗賊がほしくてね。でも魔術師は『斧』の刻印の奴がいるしな…」
「魔術師で『刻印なし』なら、あっちのあの紅い髪の男のパーティが募集してたわよ」
ハーフメイルを着込んだ若い男が言えば、その隣で分厚い書物を抱えた魔術師風のタイトなロングドレスに深紅のマントを羽織った女が、奥のテーブルで仲間を談笑している紅い髪の男を手で示す。
「いや、いい。オレとこいつは一緒のパーティに所属してぇんだ」
聞こえてくる会話の流れからして、金髪の青年のクラスは恐らく盗賊なのだろう。
丈の短いショートジャケットを羽織り、ウエストベルトと右の太腿に留めたレザーベルトで取り付けたホルスターで反りのついた鍔のダガーを装備していた。
それでその隣の腰の下までゆうにありそうな長い黒髪を銀の留め具で束ねている濃紺のローブコートを纏っている方が魔術師だと見受けられた。
「うーん、うちにはメリダがいるからなぁ…。わかったよ、じゃあまた縁があったらな」
少し考えるようにして男は腕を組んでいたが、残念そうに苦渋の決断といった態で結論を出すと魔術師風の女を連れて、仲間と思しき3人の冒険者がいるテーブルに戻っていく。
盗み聞きするつもりはなかったが、思わず一部始終を聞いてしまっていたことに気付いたアーシェは慌てて貼り紙に目を向ける。
あまりに失礼だったと自己嫌悪に落ち込みそうになっていたアーシェに、背後から「なぁ」と声を掛けられた。
振り向けば先ほどの金髪の青年が自分を見つめていた。
「な、なに?」
「さっきからすげぇ視線を感じてたんだけどよ」
青年の言葉に、アーシェは自分が思わずやりとりを見入ってしまったことを気付いていたことに、慌てて両手を顔の前で横に振りながら説明する。
「あ、それは…ごめんなさい。わたし、パーティを探していて、たまたま傍で話が始まったからつい…」
アーシェの慌てっぷりに青年は吊り目気味の夕日のようなオレンジ色の目を瞬かせ、黒髪の、初めて顔を見たがとても綺麗な顔立ちのその人は神秘的な紫色の瞳を穏やかに細めて首を横に振った。
「別にあなたを責めているわけではありません。パーティを探しているっていうことは、1人なのですか?」
静かで穏やかな声は女にしては低めで、むしろアーシェと年が近い若者の声だ。
背もアーシェよりは10㎝は高い。
アーシェはまじまじと目の前の人物を見つめる。
涼し気で端麗な顔立ちに、癖のない腰の下まで伸ばした黒髪はきちんと束ねられて、本の挿絵で見た東方の島国の装束に似たデザインのシャツに黒いズボン。濃紺のローブコートを纏っている。
服装も女性の物ではない。
顔立ちと、色白で長い髪。その纏う雰囲気に自分と同じくらいの女の子だと思ってしまいそうだが、そうではなかったようだ。
「…あの?」
「っ!ごめんなさい…そ、そうなんです。ついさっき、登録したばかりで…」
思わず見すぎたようで、不思議そうに首を傾げた彼にアーシェリアは返事を返すと、急いでもらったばかりのプレートをポケットから取り出す。
黒髪の彼はアーシェの取り出したプレートを「失礼しますね」と一声かけて受け取ると、青年もその手元を覗き込んだ。
「…アーシェリア・ルベイユ…、剣士か。…刻印はなしだな」
表に刻まれたアーシェの名前と、クラス、拠点都市を確認し、裏面に刻印がないことを認めた青年が「ありがとよ」とアーシェに身分証を返す。
「ええと、アーシェリア。てめぇに声を掛けたのはな、オレたちと組まねぇかってこった」
にっと笑ってその青年は思いもかけない言葉をアーシェにかけたのだった。
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