第163話 魔王の狂気
ゲーム
「ああ、そうだ……これは、これこそ僕が求めていたゲームだ!」
【ゲーム鬼、魔王
宙に浮かび触手で形成された
「待ってやる義理はない」
悪魔のように獰猛な顔をしたヒロが、手に持つ黄金色に輝くミスリルロングソードを槍投げ選手のように持ち変えると……。
「先手必勝だ!」
渾身の力を込めて振りかぶった剣を、容赦なく繭に向かって投げつけた! 金色に光輝く剣身が、光の軌跡を描きながら一直線に触手繭へと突き刺さる!
ブレイブチャージによって破壊の力を内包された剣が繭に突き刺さるとその力が一気に放出され……その場で大爆発する!
あらかじめ剣に込めていた闘気が、ブレイブチャージの力と混ざり合い、ありえない規模の爆発を引き起こしていた。
地上五メートルの位置に滞空していた繭を中心に巻き起こった爆風が、周囲に撒き散らされヒロとリーシアの髪を激しく揺らす。猛烈な爆風に体が動かせないリーシアは、目をギュッとつぶり爆風が衰えるのを待っていた。
そして少女が次に目を開けたとき、目の前には半径五メートルにも達する深くエグられた巨大なクレーターと、平然と宙に浮く触手繭の姿が飛び込んできた。
『な、な、なにしているんですかヒロ! あれでアリアさんの体が損壊したらどうするんですか!』
「問題ない。あの程度で倒せれば苦労しない」
『え? ヒ、ヒロですよね? いつもと口調が……』
パーティーチャットで話しかけるリーシアが違和感に気が付いた。さっきまでと明らかに違う口調のヒロに戸惑っていた。
「たいしてダメージが通っていない。あの攻撃でほぼノーダメージだとすると防御を突破するのに、もう一手いるか?」
そんなリーシアの様子を無視して、ヒロが爆風の中で蠢くものに注意を払い警戒していた……草原に流れた風が爆煙を吹き流すと、中から人のシルエットをした何かが姿を現した。
「滅びよ、人は全て滅び去れ!」
アリアの口から憤怒の思念が辺りにまき散らされる。
『あれが憤怒ですか⁈』
「みたいだな。鈍重なドラゴン状態の巨体では勝てないと踏んだか?」
人と変わらない姿のそれは、身長が2メートルにも満たない背丈でヒロ達を見下ろしていた。
極限まで鍛え抜かれ凝縮された筋肉に見立てた触手が、全身を覆い尽くしどこかオークヒーローを彷彿とさせる。巨大な触手ドラゴン状態より比べるまでもなく小さな体だった。だが大きさを圧縮した分、遥かに存在感が増していた。
手にするは、同じく触手から形作られた槍……いや、その形状はハルバードに酷似していた。二メートルの身の丈を越す超重量級の武器を憤怒は片手で軽々と振るうと、突風が巻き起こり周囲に漂っていた爆煙を全て押し流した。
爆煙がなくなり、あらわになる憤怒の姿……そこにはオークヒーローの体格を触手で真似、まるで鎧を身にまとい、ハルバードを手にする出立ちの戦士が浮かんでいた。
「オークヒーローの姿を模してきたか? カイザーの戦闘経験とセンスも真似られていると厄介だ。絶対防御スキルはブレイブチャージでどうとでも出来るが、あの戦闘技術は手を焼く」
ヒロがいつものように、対策を練るべく頭の中のスイッチを入れ意識を集中しようとするが……。
「痛っ!」
頭の中に鋭い痛みが走り、強制的にオフにされる。スイッチの連続使用による限界がヒロに訪れていた。
「深淵に触れ過ぎたか? 俺としたことが……フッフッフッフッ、まあいいさ。封印された力が解放された以上、もう誰も俺は誰にも負けやしない。さあ、憤怒よ、二人でこの楽しいゲームを楽しもうじゃないか!」
『ヒロ……さっきから独り言が激しいですが、大丈夫ですか?』
少し痛い言葉をブツブツと小声で話すヒロ……だが、パーティーチャットを通じてリーシアにはバッチリ聞こえていた!
「黙れ! 僕はボッチじゃないし、中二病の痛いやつでもないぞ!」
突如リーシアに振り向きヒロは必死に声を上げた!
本人にとっては至って真面目に情報を分析しているつもりなのだが、他人からしてみれば中二病全開の痛い人に見えてしまう。ヒロは思わず全力で否定していた!
『ボッチ? ちゅ、中二病⁈ なんですかそれ?』
意味不明の言葉にリーシアの頭上にハテナマークが浮かびまくる。
「何でもない! 少し離れて戦う。リーシアは体が動くようになったらアレをいつでも打てるようにしておけ」
『ん〜、分かりました。あとは手筈通りに動きますね』
「ああ、奴を倒すにしても真のエクソダス計画が成功するかは、もはや五分五分……何にせよ、まずはアレをどうにかしないことには成功もクソもない」
ヒロが宙に浮かぶ憤怒に向かって歩き出した。手ぶらの状態で戦場を歩くヒロを見た憤怒は、警戒しながら地上へゆっくりと下降し大地に降り立つ。
近い距離で対峙する二人は足を止めると、互いに闘気を高め戦いに備える。
もはや言葉など必要なかった。やる事はただ一つ……己の全てを懸けて目の前の敵を殺すだけ!
ヒロが闘気を高めると同時にブレイブチャージを行う。本来なら装備した武具や体から金色の光が溢れ出すはずが、無手の彼の体はどこも光っていなかった。
ヒロは無手で構える。左足を前に腰を落とし、半身で相対することで、前後左右いかなる方向へも瞬時に対応できる覇神六王流の基本の構え……。
対する憤怒は、触手ハルバードの斧刃を上向きに、腰の位置でハルバードを後ろ手に構える。
縦横どちらの方向へも攻撃に移れるオークヒーローがもっとも得意とした構え……。
「……」
「……」
無言の二人……そして草原に流れる風が不意に強く吹きヒロの前髪を大きく揺らしたとき、戦いは始まった!
「滅びよ!」
憤怒が低い構えから構えを崩さずに前へと飛び出す!
地を這うように腰の位置を崩さず、ハルバードを水平に
「その言葉、聞き飽きた!」
ヒロが震脚を踏み爆発的な力を大地から生み出すと、力が体を駆け上る。
避けられないと悟ったヒロは、下から襲い掛かる攻撃に逆らわず、下から手を添えて憤怒の攻撃に加速を加える。
タイミングをずらされ、ヒロの顔の直前をスレスレで通り抜ける石突き……完全に無防備な姿を晒した憤怒の体に、ヒロが
震脚と闘気……異なる二つの力が混ざり合い憤怒へと解き放たれた……だが、攻撃が決まる直前、憤怒の口元が一瞬吊り上がったのをヒロは見逃さない。
「やはりか!」
ヒロの肘が決まったと思われた瞬間、その攻撃が弾かれる。息を止めている間のみ、あらゆる攻撃を弾き返す『絶対防御』スキルが発動していた。
お返しとばかりに、憤怒が振り上げたハルバードの石突をヒロの頭へ振り下ろす。
「Bダッシュ!」
後ろに弾かれた勢いを利用して、Bダッシュで真後ろへと緊急回避するヒロ……憤怒の攻撃は空振りに終わった。
互いに決定打を打てずに距離を取る二人……初撃は様子見で引き分けたかとリーシアが思った瞬間だった。
ヒロが右腕を思いっきり引き、左手で目に見えない何かを
息を止め。絶対防御を発動させつつも鎧に見立てた触手に闘気を流し込む憤怒……その判断は間違っていなかった。
だが、すでに遅すぎた。憤怒の背後から襲いくる
「ばかな!」
絶対防御スキルでも弾けず、触手すら切り裂く黄金の輝きが憤怒の左腕を肩から斬り落とした。
勢いが止まらずヒロの前に回転しながら大地に突き刺さるミスリルロングソード……ヒロが素早く剣を抜き、その剣身にまとわりつく触手を振り払うと、憤怒へとその切先を向ける。
「おのれ! 小細工を」
「ああ、当然させてもらったよ。しかし十一手目から先の攻撃も読めないなんて……六十手先まで攻撃を組んでいたのに全く無駄になったぞ? どうしてくれるんだ? まったくゲームを楽しめないじゃないか?」
「ゲーム?」
「ああ、せっかくゲームを楽しめると思ったのに、弱過ぎて拍子抜けだよ。お前少しは本気をだせよ。まさかこれが全力じゃないだろうな? こんなイージーモードをクリアーしても何も面白くない。もっと難易度を上げろ!
「ヒ、ヒロ……一体何を言って……え?、ええ!」
リーシアがヒロの次にとった行動に、我が目を疑った。あろうことか……ヒロは自らの剣で自分の左手を貫いていた。
ドボドボと血が大地に流れ落ち、草原に赤い血が吸いこまれていく。
「このままではつまらないからな。ハンデだ! さあ難易度がこれで少しは上がったか? ああ、これだ! この感じ……命を懸けで難ゲーに挑むのと同じこの感覚、この瞬間こそ生きている事を実感できる。そうだ俺は生きている。いま生きているんだ!」
リーシアはヒロの瞳に宿る狂気を見てしまった。それは恐るべき渇望……最高の勝利を得るためなら、どんな危険も
「俺を退屈させるな、俺を満足させろ、俺をもっと楽しませろ! 憤怒よ、俺に本気を出させろ!」
〈魔王
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