第155話 化かし合い……希望 vs 憤怒

ドラゴン ランクSSS 脅威度★★★★★★


 哺乳類の基本骨格に爬虫類の体を持つ魔獣……総じて巨大な体を持つ個体が多い。


 性格は獰猛なものが多く好戦的。一度戦いを始めれば、相手が死ねまで戦いを止めることはない。

 

 その鱗は鋼より硬く、巨体を支える筋肉から繰り出される物理攻撃は脆弱な人では防ぐことすらできない。


 口から吐くブレスは基本的に火属性であり、一吹きで広範囲を焼き払い、そのブレスの炎をまともに喰らえば、人は一瞬で消し炭と化す。

 また、個体ごとに属性が異なり、得意とする属性のブレスを吐くドラゴンも確認されている。


 巨大に似合わず俊敏な動きと、その背中に生やした翼で空を飛ぶドラゴンのブレスから逃れられるものは誰もいない。


 寿命がない種族であり、命を落とす怪我を負わない限り、永遠の時を生き続ける……故に、歳を経た個体は強大な魔力と高い知能を有し、人に真似できぬ高度な魔法を使う古代龍と呼ばれものも存在する。


 強靭な肉体と魔法……そして人以上に賢い知性を前にただの人が勝つことは難しい。


 倒せば、ドラゴンスレイヤーの称号と共に、富と名声を掴み取れるため、一攫千金を狙う冒険者が後を絶たない。


 大人気の魔物であるが、倒したと言う冒険者の数は極端に少ない……強大なドラゴンの戦闘力を前に、戦いを挑んだ冒険者のほとんどが帰らぬ人となるからだ。


 歳を経たドラゴンの知能と能力は、人が束になったとしてもかなわない……かつて一匹のドラゴンがある国に飛来した際、万の軍勢が挑み壊滅したと歴史にも残されている。


 ひとつの生命にして、天災級の被害をもたらす最強の種族ドラゴン……もし意図とせず彼らに出会ってしまったのなら、自分の不運を呪いただ黙って神に祈るといい。

 人が地面を這うアリに興味を示さないように、ドラゴンもまた人族を虫ケラにしか思っていない……運が良ければ見逃してもらえるだろう。


 冒険者よ、努努ゆめゆめ忘れることなかれ……ドラゴンとは死の象徴であり、人では決して倒せぬ天災であることを……。

 それを知って挑む愚かなる冒険者よ……君の勇気を讃えよう。願わくは生きて帰れることを祈る。


 冒険者ギルド著 モンスター図鑑より抜粋

 

 

…………



(やはり、中途半端な姿ですね。どちらかと言うとドラゴンに近いシルエットですが……)


 そう語るヒロの目の前のモニターには、オークヒーローの息子シーザーを取り込み、真の正体を表した憤怒が地上に降り立った。


 ズシンと大きな音を立て大地を揺らす憤怒……触手をより合わせ筋肉に見立てた全長8メートルはあろうかという巨体と、それを支える太い四肢が柔らかな草原の大地に足跡をつける。


背中から生やした無数の触手が、巨大な翼を形作り、羽根に当たる部分に触手生やし蠢いていた。


「グゥォォォォォォ! 我は憤怒! 怒りを司るもの! 愚かなる人よ、滅びされ!」


 長さ2メートルを超える首の先には、触手で形作られた顔があり、長い触手を舌代わりに憤怒が大声を上げていた……その声は草原の先にあるアルムの町に住む人々にまで届くほどであった。


「こ、これがドラゴンなのか? 初めて見るけど……」


 聖女ヤンキーが初めて見るドラゴンに驚いていた。


(ん〜、僕もゲームのドラゴンなら、腐るほど倒して見たことはありますが、これがこの世界のドラゴンかと言われると、ちょっと答えに困る姿ですね。いろいろと攻めすぎで……こんなの僕の世界じゃソフりんが許してくれず、R18指定を受けそうですよ)


「ソフリン? アール18?」


 聖女は相変わらずヒロが何を言っているの分からないまま、憤怒の変貌した顔を見上げていた。


 触手同士が絡まり合い、顔の部分が……ただの巨大な触手の形をしていた!

 

(体はドラゴンになのに、なんで頭は触手なんですかね。せめてそこは、ドラゴンッぽい顔にしましょうよ……それともこの世界のドラゴンは、あの触手顔が普通なのかな?)


 ある意味、危ない姿(モザイク寸前)に変わり果てた憤怒を前に、モニター越しにヒロが抜け目なく情報を収集していた。


 攻略方法を探すため、頭のスイッチを入れると……ヒロは思考の海へと意識をダイブさせる。


 集中しろ!

 奴はなぜ今になって、あの触手ドラゴンの形態になったんだ? 今でなくてもオークヒーローの時に、あの形態になれたはずなのに? 


 集中しろ!

 あの時と今の違いはなんだ? カイザーとシーザー君……大人と子供の違い? 所持スキルの数? 体格の差? 体の状態変化? 二人の共通しない点はなんだ?


 集中しろ!

 あの触林を出さずに、ドラゴン状態になったわけは? 憤怒の力が尽き始めているのか? だとすると……今の状態は追い詰められた憤怒の最後の足掻き?


 集中しろ!

 足掻く理由は? なぜ追い詰められている? 力の限界が近い? もう奴に後がない? なぜだ? 何度でも甦えると自らが語った憤怒が、なぜ焦る必要がある?

 

 集中しろ!

 全ての情報をまとめて仮説を立てろ! どんな突拍子のない可能性も否定するな! 検証しろ! 何度失敗したって諦めるな! トライ&エラーを繰り返せ! 答えは必ず存在する! お前にできるのはこれだけなのだから!


(そうか! もう奴は……だとすれば勝機はある!)


 そしてヒロは長い思考の果てに、ついに憤怒攻略法の答えにたどり着いた。


 すると憤怒の顔を見上げていた聖女が、背に生える翼が広がる動きを見せた時、荷重をバイクのフロントに掛け前輪のサスを沈めると……アクセル全開で前に急加速する!


 次の瞬間、憤怒の翼を形作る羽に当たる触手が、聖女の前後左右に撃ち出され逃げ道を塞いで来た。

 触手同士の密度が高く、人が無傷で避けられる隙間などない攻撃が聖女に襲い掛かる、


「はん! 逃げ道がないのなら、作るまでだ!」


 前輪にフルブレーキを掛け、バイクの後輪が勢い良く持ち上げると、聖女が素早くステアリングを切る。


 通常なら、そのまま前に投げ出され転倒してしまうところだったが、前輪を支点に立ち上がったバイクが180度向きを変えると……いつのにか聖なる光に包まれた後輪で、痛烈な後ろ回し蹴りを放っていた!

 

 聖女を刺し殺そうとした触手の群が黒い塵と化し消滅してゆく。言われるまでもなく、ヒロが聖女の攻撃を予想して、ヒールのコマンドを入力していた。


 そのまま後輪を勢いよく地面に叩きつける聖女……バイクのタイヤを経由して力の波が彼女の中に流れ込む。

 

 バイクを横に倒し左足一本を軸にした聖女が、アクセルとクラッチを操作すると、地を這うように襲い掛かって来た触手を180度のアクセルターンで華麗に一蹴する!


 震脚で発した力を聖女の体内で増幅して再びタイヤへ力を戻すと、憤怒に向かってアクセルを再び回す……爆発的な加速が彼女を時速200キロオーバーの世界へといざなう。


 加速するバイクが再び前輪を上げ、ウィリー状態になると……地面にできた段差を跳び上がった!

 


 猛烈な勢いで憤怒に向かって跳躍するバイクの前輪が、触手顔のアゴを下から突き上げ、巨体がのけると……後輪が無防備を晒したノドを削り取りながら走り去る。


 バイクはそのまま憤怒を跳び越え、背後へと着地するが……着地のタイミングを狙って、尻尾に当たる触手をいくつも伸ばし、バイクのボディーに絡みつけてきた。


「ちっ! 着地の瞬間を狙ってやがったか! だけどこの程度でオレ達を止められると思うなよ! いくぜ相棒!」


 聖女の声に応えるかの如く、エンジンが爆音を鳴り響かせる!


 猛烈な勢いで地面の土を巻き上げて後輪のタイヤが空転すると、バイクに絡みついた、いくつもの触手がブツブツと音を鳴らしながら引きちぎられていく。


「踏ん張れぇぇぇ!」

 

 絡み付いた触手に、バイクの外装が耐えきれず嫌な音を立てて破壊される。

 傷を負いながらも、主人を守るため暴れ馬バイクいななくと、次々と体に巻き付く触手を引き千切り、前へと進みだす。


 聖女を逃すまいと、振り向いた憤怒が翼を広げ触手を一斉に打ち出し触手の群が彼女に殺到する。だが、寸前のとこで最後の一本を引き千切り、バイクが猛烈な勢いでその場を走り去る。


「危なかった! 間一髪ギリギリだったぜ。よく頑張ってくれたな。ありがとよ♪」


 ボディーパーツをいくつか破壊されながらも、主人のために傷ついた暴れ馬バイクの燃料タンク部分を撫でながら労う聖女……するとバイクの前輪が軽くピョンと跳ね上がり喜びを伝えてきた。


「フッフッフッ、おっと!」


 憤怒の周りを走るバイクの動きを止めようと、憤怒が翼から触手を次々と打ち出し始めた。


 愛馬を駆り大地を疾走する聖女が、バイクを巧みに操り、触手を避けヒールで全てを塵と化していくが……尽きる気配がない触手を前に、少女の顔に焦りの色が見え始めた。


「ヒロ、このままじゃ時間切れだ。あの触手をどうにかしねえと」

  

 モニター画面で状況を確認しながらも、チラリとコントローラースキルの残り時間と、EXゲージを確かめたヒロが意を決して口を開く。


(もう時間がありません。リーシア、あの触手を一気に削り……憤怒を倒します!)


「やっぱ、それしかねえのか……シーザーごとやるしか……分かった。タイミングと技の選択はオレがやる。ヒロはコマンド入力と警戒を頼むぜ」


 やる覚悟を決めた二人……闘気をまとい、気を丹田で練り込む聖女。コントロールを握りコマンド入力をイメージして攻撃に備えるヒロ。


「おのれ! なぜだ! お前たち人は滅ぶべき存在! それがなぜ分からぬ?」


「言っただろ! てめえの都合で人の生死を勝手に決めるなってな! 生きるか死ぬかを決めるのは自分自身さ、他人が決めるもんじゃねえ!」


「おろかな……お前たちの存在自体が罪だと知れ! 故に我は人を消去する! 滅びよ! 死を受け入れよ! 愚かな人よ! 滅び去るがいい!」


 憤怒は再び背中の翼を大きく広げると、触手を聖女に向かって一斉に撃ち出した。生花で使う剣山のような攻撃が聖女を刺し貫こうと群がる……。


「悪いが母様を殺した奴らに復讐するまで、オレは死ぬ気はねえ! だから……お前を倒して生き抜かなくちゃならねえのさ! ヒロ! 相棒! 行くぜ!」


(やりますよ、Bダッシュ!)


 ヒロのコマンド入力で前輪が軽く浮き、猛烈なスピードでバイクが加速する。


 憤怒が加速するバイクを捕らえようと、密集していた触手を投網のように広げ絡め取ろうとする。


「踏ん張れ!」


 だが、浮き上がった前輪を、聖女がバイクのフロントに荷重を掛けタイヤを地面に叩きつけると、大地にタイヤがめり込み爆発的な力が発生した。


 バイクにさらなる加速が加わり、スピードメーターが振り切れる!


 Bダッシュと震脚による複合技が、現実ではありえない加速を実現し、重量100キロを超えるバイクの車体がかき消えた!


 誰もいなくなった地面に触手が突き刺さり、憤怒がバイクの姿を見失なってしまう。消えたバイクを探して周りを見回すと、憤怒の耳に……凛とした詠唱の声が、まるで歌うかの如く戦場に聞こえて来た。


「天上を満たす聖なる光よ

  我ら迷える者に慈悲なる光を

   いくど傷つき倒れようと立ち上がる

    不屈の心を持つ者に大いなる慈悲を

     願わくは絶え間ない癒しを与えたまえ!」


 

 突如背後から殺気が膨れ上がり、その気配に憤怒か振り向くと……。


「オートヒール!」


 力ある言葉が少女の口から放たれると、聖なる光がバイクのタイヤを包み込み、憤怒に向かって爆走する。


 憤怒が振り向いた時には、すでにバイクがウィリー状態で疾走している所だった。

 

 憤怒は急ぎ体を形成する触手を紐解ほどき、迫る聖女ヤンキーを迎え討つ。


 先ほどより、さらに密度の高い触手の攻撃……ヒールが連続で打てない弱点を看破した憤怒が、たとえ数十本の触手が塵に変えられようとも、ヒールの効果が切れたあとの隙をついて、絶え間ない数の暴力で少女を殺そうと画策した。


 わざわざ体の守りを解いてまで、確実に聖女を殺しにいく……だが、真正面から殺到する触手に、バイクは減速も避けようとする素振りすら見せず、一直線に突き進む!


 触手がバイクに到達しようとした時、跳ね上げていた前輪を勢いよく振り下ろされ、タイヤに触れた触手が黒い塵と化す。


 すると前輪にフルブレーキを掛けたバイクは、今度は前のめりになりながら後輪を跳ね上げる。


 そのまま前に投げ出されそうになる聖女は、バイクのハンドルを力ずくで横に切り、力の向かうベクトルを巧みに変えることで、バイクをコマのように横に回転させていた。


 後輪による強烈な後ろ回し蹴りが、左右から群がる触手を一蹴し道を切り開くと、前輪と後輪を包み込んでいた聖なる光が消えかけていた。


「さあ、最後の時だ! 滅びよ!」


「あん? 滅びるのはテメーの方だ!」


 後輪が再び大地に力強く叩きつけられ震脚を行い、バイクのエンジンが唸りを上げると同時に聖女がシートから立ち上がると、前輪が再び跳ね上がりウィリー状態で走り出した。


 猛烈な勢いで走り出す暴れ馬バイクのタイヤに再び聖なる光が灯り、触れる触手を片っ端から塵に変えながら一直線に突き進む。


「馬鹿な? なぜだ? なぜだああ!」


 すでに数十本の触手を塵に変えられヒールの効果が切れたはずなのに、未だ聖なる光を灯し突き進んで来るバイクに憤怒が焦りの声を上げた。


(リーシアが使ったのは、ヒール(滅)ではないからですよ!)


 ヒロがコントローラーを操作しながら、口元を吊り上げていた。

 

 リーシアが使った魔法……それはオートヒールと呼ばれる中級に属する回復魔法であった。

 本来は一人の対象者に対して、持続的にHPを回復する時間経過型回復魔法であり、回復魔法(滅)においても、対象者一人にしか作用しない魔法である。


 宿り続ける聖なる光が、対象者の細胞を持続的に破壊し続ける悪夢の回復魔法……この魔法を掛けられて生き残れる者は存在しない。


 ならば、命のない無機物にオートヒール(滅)を掛けたらどうなるか? 死滅する細胞がなければオートヒールが消滅するのか? その力が宿り続ける他者に影響を及ぼすのか? 貴重なMPを消費してでも試す価値はあった。


 憤怒を追いかけて森を爆走している時、すでにヒロは検証実験をしていた。


 その結果……無機物は回復魔法の対象にはならず、魔法は掛けられなかった。しかしそこでヒロは諦めて思考を停止せず、さらに一歩踏み込んで考えみた。

 

 無機物と生物の中間に位置するものならばどうなるか……リーシアが召喚した暴れ馬バイクにオートヒールを掛けた場合は?


 検証の結果、少女の召喚した暴れ馬バイクは、生き物としてオートヒール(滅)の対象となり、生きた細胞を持たないため、ヒールの効果をタイヤに宿し続け、触れた生物の細胞を死滅させる悪魔のマシンに変貌してしまった。


「滅びよ! 滅びよ! 滅びよ! 滅びよ!」


 焦りが憤怒から冷静さを奪い、怒りが周りを見えなくする……憤怒は守りが薄くなるのもいとわず、体に形作る触手をさらに紐解くと、攻撃する触手の数を増やし攻撃の密度を上げた。

 

 次々と撃ち出し叩きつけられる触手は、そのどれもが黒い塵と化し消えていく。そしてついにタイヤから聖なる光が消えた時、バイクが憤怒の前に踊り出た。


 触手をことごとく塵にされた憤怒の巨体は一回小さくなり、とくに胸の部分が大きく陥没し凹んでいた。


 そして陥没した部分から……シーザーの顔が覗いていた。


「見えたぜ!」


 それを見た聖女は、ウィリー状態を維持したまま、憤怒の向かって加速する。


「おのれ、愚か人よ! だがここまでだ! この場で滅びるがいい! 死ね!」

 

 これで最後だと言わんばかりに、体中の触手を紐解き全身から一斉に撃ち出す憤怒! 


 前方からだけでなく、あらかじめ地面の中に潜ましていた触手が牙を剥く! 背後の地面からも触手が生え出し、逃げ道を完全に塞いでしまう。


 シーザーを殺せば自分も倒せると勘違いしている愚かなる者……ならばその弱点を晒せば必ずそれに喰いつくと考えた憤怒は罠を張っていた。


 ワザと劣勢の振りをして、触手を密かに地面に這わせ罠に誘い込む……逃げ場をなくしたバイクに触手が360度から襲い掛かる!


 仕掛けた罠へ見事引っ掛かってくれた聖女に、憤怒は笑いが止まらなかった。


「フハハハハハハハッ! 滅びよ!」 


 高らかな笑い声と共に、触手がバイクへ群がり、ついに触手がバイクを刺し貫いた!


 360度、全方向からの攻撃に串刺しになるバイク!


「ハッハッハッハッ⁈ なにぃ?」


 たが、その光景を見た憤怒の笑いは突如止まり、間抜けな声を出していた。

 

 確かに触手でバイクを串刺しにしたが、肝心の聖女の姿が忽然と消え、触手はバイクのみを刺し貫いていた


「引っ掛かってくれた!」


 刺し貫かれたバイクの後方で、声を上げる聖女……ウィリー状態になった瞬間、彼女はバイクから飛び降り、相棒のバイクだけを憤怒に爆走させていたのだ。


「すまねえ、相棒……」


(あなたの犠牲は無駄にしません)


 二人の声に『気にするな』と言わんばかりに、暴れ馬バイクのライトが点滅する。そしてアクセルがひとりでに全開になると……凄まじいエンジン音が鳴り響き大爆発を起こした!


「な、なんだと! ばかな!」


 突然の爆発に思わず憤怒が驚愕の声を上げてしまう。


 罠を張り巡らしていたのは憤怒だけではなかった……ヒロもまた、憤怒の行動を思考の果てで予見していた。


 あらかじめバイクにコマンド入力で溜めチャージを行い、リーシアの闘気をまとわせる……すなわち闘気と溜めスキルによる複合技、彼女に禁じられた技を密かに施していたのだ。


 結果……バイクは大爆発を起こし、殺到した憤怒の触手をすべて消し炭にした!

 爆風が辺りの土埃を巻き上げ周りの視界を塞いでしまう。


「おのれ! おのれ!」


 触手が倒され、さらに爆発で大きく体を削られた憤怒の胸から、シーザーの上半身が露出し禍々しいオーラで包まれた紋章が姿を表した。

 

「我は憤怒! デバッガーである我が貴様らなどに!」


 自分の策が失敗に終わり、怒りで我を忘れた憤怒の翼が羽ばたき、視界を塞ぐ土埃を吹き飛ばすと……聖女ヤンキーがすでに震脚を踏み、滑るような歩法で憤怒の足元へと、その足を進めていた!

 

「さあ、自分の罪に懺悔しろ!」


(これで終わりです!)


「覇神六王流! 絶技六式!」


 ヒロが持つコントローラーに、超必殺技コマンドが打ち込まれた!


〈覇道と王道……六つの技が交わる時、神すらもねじ伏せる最強の奥義が放たれる!〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る